戦後最も偉大な総理大臣・池田勇人の人生はまさに「漫画の主人公」だ/倉山満×大和田秀樹

拡大画像を見る

―[言論ストロングスタイル]―

現在、『ヤングチャンピオン』(秋田書店)で『角栄に花束を』を連載中の漫画家・大和田秀樹と憲政史家・倉山満。ジャンルの違うふたりだが、共通点がある。「池田勇人」だ。『疾風の勇人』の著者である大和田氏との本対談は、9月29日に『嘘だらけの池田勇人』を上梓した倉山満氏たっての希望で実現した。しかし、なぜ、多くの人にとってはその評価すら曖昧な池田勇人なのか?

◆池田勇人の人生はまさに「漫画の主人公」

大和田:逆になぜって聞かれるほうが、なぜって感じですね。以前、別の出版社で池田勇人の企画を出したときも、「ハハハ、面白いですね」で一蹴されたんですが、ちょっと調べれば、ドラマチックな池田の人生に創作意欲を掻き立てられると思います。「これは漫画の主人公だ」って。非主流派から総理にまで成り上がる。ある意味で成り上がり伝説ですよね。

倉山:同感です。高度経済成長を起こし、経済大国日本の礎を築いた池田勇人について、私もずっと書きたいと思っていたのですが、大和田先生の連載が始まり、これは敵わないと諦めていました。これからというところで終わってしまったのが残念ですが、池田勇人の復権を目指し、大和田先生の後を追うべく、今回『嘘だらけの池田勇人』を書きました。それにしても、どうして池田勇人って一般的には人気がないのでしょうか。

◆自分の失言を持ちギャグに。今なら『しくじり先生』に出られそう

大和田:昭和22年生まれの池田嫌いな母いわく「いけすかない官僚そのもの」に映ったそうです。高度経済成長を体験した世代の人も「貧乏人は麦を食え」とか「中小企業はつぶれてもかわまない」のような発言で池田が嫌いなのではないでしょうか。

倉山:池田もそういうイメージを否定しませんでしたよね。

大和田:むしろ「貧乏人は麦を食えでおなじみの池田です」などとラジオで言って、持ちギャグにしてましたよね。今の政治家が、それやれたら人気出ると思うんですよ。『しくじり先生』に出られそうです(笑)。

◆高度経済成長を起こしたのは池田。角栄ではない

倉山:高度経済成長を起こしたのは池田なのに、繁栄のイメージは成長後の角栄のものになってしまい、池田の影が薄くなってしまいました。

大和田:若い世代にとって高度経済成長は思った以上に遠いのかもしれません。あと、これという後継がいなかったのが大きいと思います。

倉山:それにしても、池田勇人は中学入試、高校入試、大学入試すべて失敗し、挫折を重ねているのに、なぜかエリートと思われていますね。

大和田:世間の人にとっての池田は大蔵次官が出発点ですから、エリートのイメージなのでしょう。実際にはしくじって出遅れたからこそ、敗戦後のパージで上役が消え、次官になれたわけですが……。

倉山:主税局長になったときには、なんと新聞に載りました。

大和田:「京大から初!」ってね(笑)。

倉山:大蔵省では京大法学部でもFラン扱い。あの人たちは大学じゃなく、高校で差別しますよね。

大和田:宮澤喜一さんは「あなた高校どちら?」と聞く。大学は東大に決まっているとのスタンスを示すために「大学どちら?」と聞かない。

倉山:性格最悪の宮澤をはじめ池田側近は池田にしか使えない人ばかり。

◆歴史も政治と同じで偉い人の意見が通っているだけ

大和田:使い所を見つけたのが偉いですよ。ところで、私は理系なので、実は歴史を習ったことがないんです。高校は地理を選択したので、歴史は中学まで。大学は工学部なので、歴史とは何の関係もありません。

倉山:学校で学ばなかったから本物の生きた歴史が勉強できたんですね。

大和田:本を読んでいるだけです。

倉山:それが大きい。

大和田:いわゆる歴史って、文学部の史学科の人が勝手に決めたことでしょ。水戸光圀が決めた専門用語をずっと使っているだけ。

倉山:水戸光圀とかサラッとおっしゃいましたが、『大日本史』ですね。

大和田:歴史学って、鎌倉幕府の成立が1192年だったのが1185年になったりして、いい加減じゃないですか。政治と同じで偉い人の意見が通る。学界の有力者の説が通説になる。そんな気がします。

倉山:その通りです。

大和田:本当はウソばっかりの戦後政治演義を描きたかったんです。

倉山:『疾風の勇人』はデフォルメしていますけど、本当の話ですよね。

大和田:講談社では歴史書扱いになって校閲が厳しかった。細かいツッコミがいっぱい入ってうんざりしました。一方、昭和の出版ってフリーダムでしたよね。おかげで資料がたくさん残っていますが、フリーだったがゆえにウソもいっぱい残っていて、資料の見極めが大変です。でも、『三国志演義』や『小説吉田学校』って、読んでいて楽しいじゃないですか。入り口はそこで良いと思うんです。そこから、史実に興味を持った人が調べて突き止めればいいんです。

◆司馬遼太郎にとっての幕末が、我々にとっての戦後になってきた

倉山:最近の本に関して、ウィキペディアの要約のような、事実関係をまとめているのが偉いという風潮が嫌で嫌でしょうがない。

大和田:漫画はキャラクターだからこそ本質が大事で、最悪、「すみませんでした」と謝れば許してもらえます。自分はウソが描きたいです。「本当?」と言われて「ウッソー」と(笑)。どっちでもいいと思うんですよ。

倉山:本質が大事ですよね。『疾風の勇人』で抗議とか、来ましたか?

大和田:読者からは、ひとつもありません。校閲だけです。

倉山:無味乾燥とした歴史学者の文章よりも時代小説や漫画のほうが、はるかに企業経営者やサラリーマンに刺さります。

大和田:司馬遼太郎が幕末を書いたのは1950~’60年代ですよね。時間的に司馬遼太郎にとっての幕末が、我々にとっての戦後になってきています。関係者が亡くなり、描きやすくなってきた。

倉山:やっぱり当事者が生きていると書きにくいですよね。

◆自伝を出す間もなく亡くなった池田勇人

大和田:それに池田さんは事実上、在任中に亡くなったと言ってもいい。自伝を出す間もなく亡くなってしまった。それで側近であった伊藤昌哉さんの感情の入り方がすごい『池田勇人 その生と死』ぐらいしか参考になる伝記がありません。当時は、あれが客観だったんでしょうね(笑)。

倉山:伊藤の主観と宮澤の捏造だけ。

大和田:池田に対する評価は誤りが大きい。それだけならまだいいけど、スルーされている気がします。「好き」の反対は「嫌い」じゃない。無関心。

倉山:『疾風の勇人』を完結する予定はないんですか?

大和田:『角栄に花束を』が売れたらアリですよね。

倉山:ぜひ。楽しみにしています。

【大和田秀樹プロフィール】
‘69年、茨城県生まれ。漫画家。‘98年、『たのしい甲子園』(角川書店)でデビュー。代表作は『機動戦士ガンダムさん』(角川書店、連載中)。『ヤングチャンピオン』秋田書店)で『角栄に花束を』を好評連載中

<取材・文/徳岡千和子>

―[言論ストロングスタイル]―

【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、9月29日に『嘘だらけの池田勇人』を発売

関連リンク

  • 10/1 8:50
  • 日刊SPA!

スポンサーリンク

この記事のみんなのコメント

1
  • トリトン

    10/1 9:58

    池田は日本をアメリカに売った初代の売国奴だったのにな。

記事の無断転載を禁じます