杉野遥亮が魅せるピュアな芝居、その実は…複雑な男!?「いろんな側面があるのがボクだから」

俳優・杉野遥亮が、9月24日よりAmazon Prime Videoで全10話一挙先行配信がスタートし、2022年にテレビ東京にて放送予定のドラマ『僕の姉ちゃん』で新たに挑んだ役は、とにかくピュアでフラットに生きている青年だ。

これまでも好青年から、自暴自棄になり自殺未遂を図る青年、半ズボンの小学生に扮するなど、役柄の幅を広げている杉野だが、ストレートで癖がない、受け身の男性は、ある意味で大きなチャレンジなのかもしれない。杉野はどんな思いでこの作品に臨んだのだろうか――。

素朴で真っすぐに育ってきた社会人1年目の男性・順平――。監督からは「フェミニスト」と言われたというが、杉野は「順平はいい意味で普通の人なんです。とにかくフラットに生きていて、出会った人やものから、いろいろなことを吸収していく」と役を形づける。

そのため、姉はもちろん、出会う人の話をしっかりと聞く。台本には「……」とセリフのない表現が多々ある。

「難しいなと思ったのは、この『……』は、ただ顔を作るのも違うと思うし、それは自分のやり方でもないなと思っていて。(その場で)純粋にどう思えるか、どう感じられるかが勝負だったりしたんです」。

大切になってくるのは、鋭いツッコミを入れていくユーモアで辛辣な姉・ちはるとのやり取り。ちはるを演じるのは、実力派女優の黒木華だ。

「姉ちゃんと二人のシーンについて、黒木さんと演技について話をすることはほとんどなかったです。突っ込みとボケではないのですが、あまりコントみたいになってしまってはいけないので、本当に会話のなかで自然に感じたことを出していければというのは、お互いの共通認識であったような気がしています」

芝居について特別話をしなかったというが、それでも、2週間というタイトな撮影のなか、物理的な密は避けつつも、濃厚な時間を過ごした。疲れがピークのときもあり、役と自分の境目が分からなくなってくる瞬間というのもあったという。そんなときは、黒木も杉野も普段見せないような崩れた部分も垣間見えた。「くだけた感じの黒木さんを見ると、笑えたりして(笑)。姉弟という関係性を作るうえでは、楽しく良い時間でした」と撮影を振り返る。

本作では、姉と弟という立場だが、実際の杉野には弟がいる。自身は兄という立場だ。

「この作品のあとに、『夜への長い旅路』という舞台に参加したのですが、こちらも家族の話だったんです。家族の話が続き、僕自身も家族について向き合ってみたのですが、僕はずっと弟に対してお兄ちゃんでいたいと思っていたんだなと。そこには自分の方が、弟より経験値が高いという変なプライドもあるんだと思います」

率直な胸の内を明かした杉野。しかし、一方で「もしかすると、自分が思っているより弟は大人かもしれませんし、僕が知らないこともたくさんあるのかもしれません」と話すと「今度弟と話す時間を作ってみようと思います」と大きな気づきもあったようだ。

姉はいないが、杉野にとって理想の姉弟像とは――。

「一緒にバカができる関係性って理想ですよね。ただ姉でも弟でも、一方的に助けてもらうというのではなく助けたいとも思う。お互い格好つけることなく本音を話せて、どちらも影響し合える関係がいいですね」。

杉野が演じた順平との共通点を問うと「少し昔の自分と似ているかもしれません。自分のなかに『これ』という軸を決めきれていなかった頃の自分と」と笑う。

ということは、いまは自身の軸が定まってきているのだろうか。「そうですね」と目を見開くと「今までっていろいろな人の意見を受け入れて、全部取り入れていくことが多かったんです。自分に合うものも合わないものも取り入れてふらふらしてたと思うんです」と振り返る。

しかし、コロナ禍で、自分自身を見つめ直す時間ができた。「本当は何がしたいのか――考えるようになると、捨てるものも必要だなと取捨選択するようになったんです。そこからだんだんと正義とか道徳的なこととか、素敵な生き方とか……自分の考えが定まってきました。お芝居に関しても、先ほど話した舞台を経験するなかで、自分の在り方みたいなものもはっきり見えてきた気がします」。

自分がリスペクトできる意見は受け入れるが、違うなと思うことは、しっかりと自身のフィルタを通して選択していく。そうすることができるからこそ、より大切な人からのアドバイスが浮かび上がってくる。

「舞台でご一緒した大竹しのぶさんには、本当に助けていただきました。舞台の経験は大きかったです。お芝居だけではなく人として、いろいろなことを見つめられました。振り返った時に、すごく大きく成長できたと思える3カ月でした」。

とは言いつつも、まだまだ軸を太い幹にするためには、鍛錬が必要なようだ。

「例えば自分と意見が違う人がいたとき『自分は自分だから』とブレなければ楽なのですが、やっぱりまだ『なんでだよ!』って思っちゃう」と“若気”が顔をのぞかせるという。でも、そんなことも前向きに捉えられるのは、杉野の順平と共通する素直さなのかもしれない。

「自分と意見が違うことに対して感情が動くというのは、大切にしたいなと思っています。大人になってもなくしたくないものだなって」。

しっかり本音で生きて、純粋なものを大切にしていく。その意味で、パブリックイメージは、杉野にとって時として厄介なもののようだ。

『杉野ってこうだよね』『こういうとこ杉野君っぽいよね』と一面的に自分を捉え、断定的に言及されると、身動きがとれなくなるという。

「いろんな側面があるのがボクだから」――。

「プライベートと仕事として人前に出るときは、当然ながら全然違います。仕事となると、自分の気合いを入れるスイッチみたいなものを押してるし。本当に心からホッとする時間でさらけ出すものは、普段は見せるものではないですから」。

さらに杉野は強い視線で発言する。「多分いろいろな方が思っている以上に、僕は真面目だし誠実なんです(笑)」。

杉野遥亮、26歳。噛めば噛むほど、味が染み出てくる趣深い人間ばく進中だ。

取材・文:磯部正和

©テレビ東京

2021/9/29 18:00

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