「田中角栄」の裏に埋もれた戦後最高の総理大臣とは/倉山満

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 長期にわたって停滞し続ける経済に、追い打ちをかけるコロナ禍。この“イイトコなし”な日本で次なる首相になるのは誰か、注目が集まっている。

 そもそも、そんな状況下でも日本がギリギリ踏みとどまっていられるのは「『池田勇人』のおかげ」と述べるのは憲政史家の倉山満氏だ。池田こそが戦後最高の総理大臣だと倉山氏は言う。なぜ、その功績を聞かれても答えに詰まってしまうような池田が、「戦後最高の総理大臣」なのだろうか――?(以下、倉山満著『嘘だらけの池田勇人』より一部編集の上、抜粋)

◆戦後最高の総理大臣と言えば、吉田茂か、田中角栄か

 戦後最高の総理大臣と言えば、古くは吉田茂と相場が決まっていました。今だと田中角栄でしょうか。

 吉田は敗戦後の混乱期に、横暴極まりないGHQの圧力に対し、よく立ち向かいました。なにより日本を独立に導いた功労者ですから、批判したい点も山のようにありますが、ある程度の高評価は納得できます。

 しかし最近は、なぜか吉田以上に田中角栄の評価が高く、角栄の本を出せば売れる「角栄産業」と言われるほどの大人気ぶりです。生前の角栄は、ロッキード事件など汚職で真っ黒の金権政治家として、およそマトモなオトナが名前を口にするのも憚られるような汚水の臭いがする政治家でしたが、今となってはその強引な政治手法が「強い政治家だった」と美化されて、意味不明な感慨が人気を呼んでいます

◆現実の角栄は高度経済成長の遺産を食いつぶしただけの無能な政治家

 現実の田中角栄なんて、所詮は高度経済成長の遺産を食いつぶしただけの無能な政治家なのに、「日本の経済が一番立派な時代を作った立派な総理大臣」みたいな間違った歴史認識が蔓延しています。

「田中角栄が日本の絶頂期の高度経済成長を築いた」「田中角栄こそ戦後最高の実力政治家だ」などの誤った認識は正されなければなりません。

 もちろん、人間の評価に百点も零点もありません。角栄の凄さはナンバー2だった時です。角栄は池田勇人内閣で大蔵大臣を三度も務めました。だから高度経済成長をけん引した政治家のイメージが出来上がったのですが、実際の角栄は「池田に使われていなければ何をしでかすかわからない人」にすぎなかったのです。角栄ファンには申し訳ないですが、はっきり言います。この本では角栄なんか、取り上げる価値すらありません。本書では脇役としてのみ登場します。田中角栄なんぞを戦後最高の総理大臣だと言っていれば、未来永劫、日本人は負けっぱなしの民族で終わるでしょう

◆吉田と角栄に挟まれ、忘れられた存在の池田勇人

 さて、そんな吉田や角栄に対して、池田勇人の評価です。

【通説】
池田勇人、誰それ?
日本人をエコノミックアニマルにした人?


 一時期、『週刊モーニング』で池田勇人を主人公にしたマンガ『疾風の勇人』が連載されましたが、打ち切りになりました。しかも、今は同じ作者の大和田秀樹先生が、『角栄に花束を』を描いています。池田が戦後日本人に、いかに認知されていないかを、悲しいほどに物語っています。

 池田は、吉田と角栄の間にあって、忘れられている存在と言ってもいいでしょう。

◆イイトコなしの日本が今も生きていられる財産を残した池田勇人

 しかし歴史を知ればわかりますが、この池田勇人こそ戦後最高の総理大臣です。日本を先進国にしたのは池田です。いくら陰りが見えたと言っても、日本は世界の中では経済大国です。われわれ現代日本人が、いま生きていられるのは、すべて池田勇人のおかげです。今の日本はと言えば……。

 戦争で負けて、すべての周辺諸国の靴の裏を舐めて生きている国に転落。
 慢性的なデフレ不況が三十年も続いている。
 日本政府は、災害対策もまともにできない。
 自民党に投票したくないが、野党はもっとひどい。
 トドメにコロナ騒動。

 敗戦で軍備を取り上げられ、取り柄のはずの経済もダメになり、災害対策もマトモにできない。それでも何とか生きてこられました。

 結局、今も日本人は、池田勇人の遺産を食いつぶしているのです。これだけイイトコなしの日本でも生きていける財産を残してくれた、偉大な総理大臣こそ池田勇人なのです。

◆池田が長期政権を築いていたら、間違いなく日本は大国に戻っていた

 一部のマニア、もとい学者と言論人の中には、「それまでの歴代総理は押し付け憲法を何とか改正して日本を自主独立の国にしようと努力していた。ところが池田が憲法改正を封印してしまった。池田なんて日本人をエコノミックアニマルにしてしまった元凶ではないか」と言い出す人もいます。

 まったく違います。

 史実の池田は、志半ばで病に倒れました。しかし、健康に恵まれ、佐藤栄作や安倍晋三のような長期政権を築いていたら、間違いなく大日本帝国は復活したでしょう。

 池田と言えば自ら「経済の池田」を名乗りましたが、池田にとって経済は手段にすぎません。池田の真の目的は、大国に戻ることでした。

 まず経済、国民に飯を食わせる。そして戦争に負けた日本人に、真っ当に働けば真っ当に評価される社会を用意する。そして世界の誰にも媚びない国になる。知られざる戦後最高の宰相、それが池田勇人なのです。

【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、9月29日には『嘘だらけの池田勇人』を発売予定

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  • 9/29 8:50
  • 日刊SPA!

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