婚約者のインスタに衝撃を受けた男。苦悩の果てに恋人に告げる予想外の一言とは

「あのコは、やめた方がいい」

恋人との交際を友人から反対されたら、あなたはどうしますか。

愛する人を、変わらずに信じ続けられますか。

そして、女が隠す“真実”とは…?

これは、愛と真実に葛藤する男の物語。

◆これまでのあらすじ

誠は親友・圭一の婚約者・真紀に、恋人・咲良のことを「やめた方がいい」と忠告を受ける。誠は咲良を信じ、結婚を決意するが、真紀と彼女の間に深い因縁があったことを知り愕然する。さらに、咲良のInstagramを発見してしまい…。

▶前回:「お前ら何してるんだよ」深夜、誘われた寝室で。美女を抱きしめた男の前に現れたのは…


『代官山のダイニングで彼とデート。大学生が行くようなお店で(苦笑)』
『家庭的な女を演じたらコロリといくんだから、この手の男は楽勝』
『婚約指輪ダサすぎ。ハリーやヴァンクリとか知らないのかな』

歓談する咲良の甲高い声がうっすら聞こえる誰もいない廊下で、誠はじっとスマホの画面を見つめていた。

Instagramに書かれていた彼女の投稿――

確かに店をあまり知らないことや、指輪を相談せずに買ったことは申し訳ないと感じた。しかし…。

― 僕の前では、猫をかぶっていたってこと?

フィードをさかのぼると、自分のことを『平匡さんみたいな優良物件ゲット』とも書かれている。優しく真面目で高収入、女慣れしていない理系男子だからと、以前流行ったドラマの登場人物に例えられていた。

「あのコは、やめて」

涙ながらに訴え続けていた真紀の言葉が、今になって呪文のように脳内をめぐる。

― 彼女は、やっぱり…。

すると、スマホにLINEのメッセージが届く。圭一からだった。

『近々、時間が欲しい。この前のこと、謝りたいんだ』

真紀があの夜のことを、やっと説明してくれたのだろう。気が急いて『今からでも会える』と返してしまう。

誠は咲良に仕事が入ったと嘘をつき、足早にレストランを後にしたのだった。

圭一の口から明かされる真紀と咲良の過去とは

圭一に指定されたのは、中目黒のカフェ&バー『epulor』。

暖色系のダウンライトで落ち着いた雰囲気の店内。窓際の大きなテーブルの隅に圭一は座っていた。横に真紀はいない。

前回は修羅場で別れたが、誠に向けられた柔らかな笑みは、疑念が晴れていることを示していた。


「聞いたよ。真紀とご両親からすべて」

「ごめん。僕も前から話そうとしていたんだけど」

「ああ。思い返せば、そういう素振りあったよね。気づかなくて申し訳なかった」

それから圭一は真紀から聞いた例の件について、詳細に語ってくれた。

鎌倉に生まれた彼女が、一時親の仕事の都合で住んでいた名古屋。そこにあった中高一貫の女子校でふたりは出会ったのだという。

都会から来た美しい、生粋のお嬢様である真紀。思春期の女の子の心がざわつくのも無理はない。

入学当初は友人がいたそうだが、程なくして咲良を中心としたクラス中の無視が始まったそうだ。そして物がなくなったり、汚されていたり…。日ごとにそれはエスカレートしていった。

「他校の男子に乱暴されそうになったこともあったらしい」

その男子は、咲良が通っていた小学校の学区にある中学の制服を着ていたという。真紀に対する酷い行為の首謀者は、あからさまな態度から想像せずともわかっていたが…。

「彼女のお母さんによると、迷惑をかけまいと抱え込んだ挙句、自殺未遂までしたようだよ。それをきっかけに、逃げるように留学したんだと」

誠の脳裏に、真紀の腕の傷がよぎる。だが、留学のおかげで真紀はヴァイオリンに専念することができ、プロへの道が開けたという。

「なるほどね…」

誠は一連の出来事をすんなりと受け入れている自分に驚いていた。

咲良のInstagramを見たせいだろうか。真紀の言動の数々が繋がり、その証言に真実味を与えたのだ。

しかし、誠は引っかかっていることがあった。咲良が、いじめの事実を“まったく覚えてない”ということだ。あっけらかんと言っていたその言葉が、どうしても嘘には聞こえなかったのだ。

そのことを告げると、圭一は大きなため息をつく。

「ウチの依頼者でもいるよ。自己保身なのか、無意識のうちに被害者側になっていたり、都合よく解釈したり、果てはまったく覚えていないって言う人がね」

「そうなのか…?」

そして、圭一は最後にこう告げるのだった。

「前も話したけど、咲良さんから俺に親密なLINEが送られてくることがあるんだ。そういうこともあるし、真紀の気持ちも考えて、咲良さんとの関係に何か変化がない限り、誠と俺は会わない方がいいと思う」

誠の気持ちも尊重した提案に、ただ頷く。

咲良と結婚の話が進んでいることなど、口に出すことはできなかった。

ためらいながらも、咲良を拒絶できない誠だったが…

2020年3月


先日、パーティを途中退席したことについて、咲良から不満はさほど出てこなかった。むしろ仲間から「仕事ができる彼と結婚できるなんて羨ましい」と言われたようで、どこか誇らしげだった。

「いよいよだね♪」

式場となるホテルでの打ち合わせの帰り、咲良は上目遣いで誠の腕にぎゅっとしがみつく。彼女はいつの間にか式場も予約し、挙式の日取りもすでに決めてしまっていた。

傍から見たら、結婚を目前に控えた幸せそうなカップルの2人。だが、誠の心中は穏やかでなかった。

― 迷いがある、ということが一番の答えなのかもしれないが。

以前、誠が圭一に真紀と結婚をやめるよう忠告した際、彼は彼女を疑いもしなかった。今もそうだ。真紀のことを一番に考え、誠と距離を置いている。

しかし、誠は咲良にその気持ちを持つことが、どうしてもできない。すでに、後戻りがためらわれる状況だ。

「中学時代の行為は、若い過ち」、「今は改心している」と自分に言い聞かせ、目の前で笑う咲良を信じようと努力している。

しかし…。

「ねぇ、ランチどうする? ガーデンプレイスの『ロウリーズ・ザ・プライムリブ』、予約無くても入れるかな?」

咲良は屈託なく弾んだ声で誠に尋ねる。

「この前、行きたいって言っていたところ?」

「うん。ローストビーフが美味しいお店よ」

昨晩見てしまった彼女のInstagramが、誠の頭をよぎった。

『今は絶賛教育中。リードしてあげなきゃ食事は全部チェーン店になっちゃう』

実は、あれからこっそり見ているのだ。誠は力なく「いいよ」と答えた。無邪気に喜ぶ咲良の顔を諦めの表情で見ていると、圭一からLINEのメッセージが届いた。

内容をすぐ確認すると、それは1か月後に行われる予定だった結婚式を延期するという知らせであった。理由は、感染症の流行の影響だという。

参加者も多く、年配の方々や著名人も出席するという式ゆえ、個々の健康を慮ってという判断だそうだ。


レストランでローストビーフを食べ終え、咲良がお手洗いで席を立っている間、誠は圭一に『了解』という旨の返信をした。

『式はあげなくても関係は変わらないからね。お互い納得の上だよ』

程なく帰って来た返事に、誠は感嘆のため息をつく。そんな賢明な判断ができる2人を羨ましく思う。

そのとき、心の中に一つの妙案が思い浮かぶ。

― 同じ理由で、延期できないだろうか…。

ご時世を言い訳にしているが、まだ迷いがあるゆえ、仕方ない。むしろいい機会だと考えることにした。誠は、席に戻った咲良にさっそく切り出す。

「あのさ、結婚式のことだけど…。ちょっと考えないか」

誠は淡々とその理由を説明する。圭一も結婚式を延期したということも…。すると、咲良は半笑いでこう言うのだった。

「絶対ありえないよ。ここにきていまさら?私も友達も楽しみにしているのよ。私たちの幸せの方が大切でしょう」

「…そうか」

そして、彼女は一方的に豪勢な結婚式のプランを語りだす。正直、予想はしていた。案の定だ。

楽しみな気持ちはわかる。しかし、“絶対”と強引に押し切ろうとする姿に、自分の意志が置き去りにされた気がした。

咲良はきっと、昔から今も変わらずそうなのだろう。自分が中心で、思い通りにならないと気がすまない女性なのだ。

誠の中で、張り詰めていた糸が切れた。だが、このことは最後の一押しに過ぎず、時間の問題だったのかもしれない。

― 言い訳はやめて、正直に伝えよう…。

誠は大きな深呼吸をして、ゆっくり口を開いた。

「実は…この結婚自体、なかったことにしてくれないか。君との関係を、考えなおしたいんだ」

咲良は、誠の目の前で固まっている。

誠はそんな彼女を、じっと見つめていた。


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結婚を白紙にしようとする誠。咲良の反応は…

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