高市早苗、野田聖子、小池百合子が現場で記者に見せた顔とは

 9月29日に投開票予定の自民党総裁選では、高市早苗氏、野田聖子氏の女性候補が注目されています。

 また、コロナ禍や東京オリンピック関係のニュースで、小池百合子東京都知事をメディアで目にする機会が増えたのではないでしょうか。

 長い期間、男性が占めてきた政治の世界にも、女性が少しずつではありますが、進出できるようになってきました。

『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した畠山理仁さんは選挙取材歴20年以上で、10月5日刊行の選挙エッセイ『コロナ時代の選挙漫遊記』では全国15の選挙を取材し現地レポ、「選挙モンスター河村たかし」「スーパークレイジー君」など多彩な候補者たちを活写しています。

 そんな畠山さんに総裁選候補の高市氏・野田氏や、小池都知事ら女性政治家が会見現場で見せる顔をレポしてもらいました。(以下、畠山 理仁さんの寄稿です)

◆首相どころか女性の国会議員が少ない日本

 世界には、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、台湾の蔡英文総統、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相など、政治の世界でリーダーとして活躍する女性が複数います。

 しかし、日本ではいまだに女性の首相が誕生していません。そもそも女性の国会議員も少ない状態が続いています。

◆女性候補が半数でインパクトのある総裁選

 2021年1月にIPU(列国議会同盟)が調査したところによると、日本の衆議院における女性議員の割合は「9.9%」。世界191カ国中166位で、G7諸国では最低の割合でした。

 しかし、現在行われている自民党総裁選挙で、大きな変化が起きています。今回の総裁選に立候補した4人のうち、2人(高市早苗氏、野田聖子氏)が女性の候補者になっているからです。

 現在、衆議院議員の党派別女性比率をみてみると、自民党は275人中21人(7.6%)が女性です。これは立憲民主党の113人中15人(13.3%)、公明党の29人中4人(13.8%)、共産党の12人中3人(25%)よりも低い数字です。しかし、「党の顔」を決める総裁選挙で半数が女性候補となったことで、政界に大きなインパクトを与えました。

◆立候補には議員20人の推薦が壁となる

 自民党総裁選挙に立候補するためには、党所属国会議員20人の推薦が必要です。この壁があるため、これまで自民党総裁選に立候補できた女性政治家は、2008年の小池百合子氏1人しかいませんでした。

 野田聖子氏は過去3回、総裁選への立候補に意欲を示してきましたが、いずれも推薦人が集まらずに断念してきました。4回目の挑戦となる今回は初めて立候補できましたが、ギリギリまで推薦人集めに奔走しました。出馬の決意表明では、思わず「推薦人20人を整えていただき……」と発言し、自力で推薦人を集めることの難しさをにじませました。

◆女性が先頭に立つことで、後に続く人たちが増えてきた

 それでも政治の世界で女性が活躍することは悪いことではありません。

 初めての女性総裁候補だった小池百合子氏は、現在、国政を離れて東京都知事を務めています。その小池氏が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」は、今年7月の東京都議会議員選挙で当選した31人中12人が女性です。都議会議員127人中41人が女性議員となったことで、都道府県議会における女性議員の比率は32.3%で全国一になりました。女性が先頭に立つことで、後に続く人たちが増えてきたといえます。

 現在、小池氏は毎週金曜日に定例記者会見を開くだけでなく、折に触れて記者団の取材を受けるなど、情報発信が多い政治家として知られています。

 しかし、実際に小池氏の定例記者会見に参加してみると、違う側面も見られます。記者を指名するのは小池氏ですが、絶対に当てられない記者がいるのです。

◆失速の引き金を引いたジャーナリストはその後指名ナシ

 小池氏は希望の党代表として国政復帰が囁(ささや)かれていた2017年9月、記者会見で「(解党して合流予定だった民進党のリベラル派を)排除します」と発言しました。この発言で希望の党は失速。総選挙で大きな勢力とはなれませんでした。

 その時、小池氏から「排除します」との答えを引き出したフリージャーナリストの横田一氏は、その後も小池氏の記者会見に出席しています。しかし、あれから4年近く挙手し続けても、全く指名されません。横田氏は毎回大声で質問を投げかけますが、小池氏は見向きもせず退席していきます。この対応は徹底しています。

◆高市氏「逃げずに受けて立った」との印象付けに成功

 一方、どんな記者からの質問にも答えているのが高市早苗氏です。

 高市氏は今回の自民党総裁選挙への出馬表明記者会見で株を上げました。記者会見は通常1時間程度で終わることが多いのですが、高市氏は自身の掲げる経済政策「サナエノミクス」や「小型核融合炉」など、細かい政策を50分近くにわたって説明したからです。

 会場の記者たちからは「中身に賛否はあるけれど、細かい政策まで具体的に練って準備してきた」との声が聞こえてきました。高市氏は、記者たちからの質問に1時間近く答え続けました。

 記者会見全体の時間は1時間48分。司会者が会見終了を宣言すると、ここでも指名されなかったフリージャーナリストの横田一氏が大きな声を上げました。

「森友問題、再調査するんですか。一言答えてくださいよ。聞こえてんでしょ。安倍さんの傀儡(編集部注:かいらい。あやつり人形のこと)だと言われますよ」

 高市氏は「聞こえております」と返事をした上で、こう答えました。

「ご遺族の方々は本当に耐え難いお悲しみだと思います。お悔やみ申し上げます」

 再調査を約束する答えではありません。

「私がやりたいのは、今後、こういった文書の改ざんというのが絶対に起こらない、どこの役所でも起こらない、官邸の中でも起こらない、そういう体制をしっかりと作っていくということでございます」

 納得しない横田氏は再度呼びかけます。

「安倍さんに言われたんですか!」

 その言葉に笑みを浮かべながら、高市氏ははっきりと切り返しました。

「言われてません(笑)」

 質問を無視することもできたはずです。しかし、高市氏は丁寧に対応したことで「逃げずに受けて立った」という印象を持たせることに成功しています。

◆野田聖子氏 決意表明を2分で済ませた

 最後に、今回の総裁選告示前日に出馬表明をした野田聖子氏は、決意表明を約2分のぶら下がり取材(編集部注:記者会見ではなく、囲んで行う取材)で済ませました。

「これまで主役になれなかった女性、子ども、高齢者、障害者が、しっかりと社会の中で生きていける。そして、生きる価値があるんだという、そういう保守の政治を自民党の中で作り上げていきたい」

 これが今回の総裁選挙で野田聖子氏が訴えていることです。

◆野田氏の選対本部長は三原じゅん子氏

 この決意表明の際、記者たちに野田氏を紹介したのは三原じゅん子参議院議員でした。政治に詳しい人の中には、「三原じゅん子氏と野田聖子氏の考え方はかなり違うのでは」と思う人もいるかもしれません。しかし、そもそも三原氏が政界入りするきっかけを作ったのは野田氏です。三原氏が選対本部長に就任したのも、そうした関係があるからです。

◆あとに続く女性政治家のために

 小池氏、高市氏、野田氏。3氏それぞれに個性があり、批判も称賛もあります。しかし、あとに続く女性政治家のために、道を切り開いていることだけは間違いありません。

<文/畠山理仁>

【畠山理仁】

【畠山 理仁】フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)を10月5日刊行。

公式ツイッターは@hatakezo

2021/9/28 8:46

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