最近、やたらとゴキゲンな妻。夫が帰宅すると、フローリングに見覚えのない男の毛が落ちていて…

“男女平等”が叫ばれている、昨今。

しかし「6歳未満の子を持つ夫婦の、1日あたりの家事・育児関連時間」は妻が平均7時間34分。

それに対し、夫は1時間23分(総務省「社会生活基本調査」)ほどだという。

日本における夫の家事参加率は、先進国の中でも最下位なのだ。

家事・育児に非協力的な夫。それに対し不満を抱き、愛想を尽かす妻たち。

これは、そんな「夫力(オットリョク)」皆無の男が、離婚を免れるために日々成長していく物語である…。

◆これまでのあらすじ

流星という謎のイケメンが配信する「夫力向上委員会チャンネル」の動画にハマった俊平。しかし相変わらず“夫力”は向上していないのだった。

ある日、妻の下着と自分のパンツを分けて洗濯されていることに気づいてしまう。焦った俊平は“ある人物”に助けを求め…?

▶前回:「夫のパンツと、自分の洗濯物を一緒に回したくない」妻が夫を、生理的に受け付けなくなったのは…


「俊平。それさ、普通に離婚危機じゃない?」

今日は学生時代からの親友である亮太の自宅へ、遊びに来ていた。

会うのは久しぶりだったが、離婚を切り出された話や、自分の“夫力”が皆無であることを話しているうちに、耳の痛いことをズバッと言われてしまったのだ。

「えっ…。でも僕だって一応、頑張ってはいるつもりなんだけどなぁ」
「俊平の頑張りなんて、柚葉ちゃんからしたら大したことないんだよ。結果がすべてなんだから、とりあえず頑張り続けるしかなくない?」

その言葉に落ち込む僕は、うなだれながら小さくぼやく。

「でもさ。掃除とか洗濯とか、いつも気づいたときにはすでに柚葉がやってくれてるし。後手後手になっちゃうんだよね」
「まぁ、それはわかるわ」

男2人で納得していると、隣で聞いていた亮太の妻・遥さんが急に低い声でつぶやいた。

「世の中の男性は、妻のことをわかってなさすぎるのよ。ねえ俊平くん、最近柚葉さんの行動で変わったこととかない?」

遥さんの言葉を聞いた瞬間、僕はハッと息をのんだ。

そういえば最近、なんだか柚葉の機嫌がいい日がある。どうしてその日だけ、妻はご機嫌なんだろうか…?

夫の知らぬ間に、妻がしていたコト

妻のことを知らなすぎる、夫たち


「そういえば、たまに機嫌がいい日があるけど…」

モゴモゴと話しだした瞬間、遥さんがグイッと近づいてきた。

「夫という立場にあぐらかいていると、捨てられるよ?俊平くんも、しっかりしないと!」
「は、はい…」
「ちなみに、俊平くんは“頑張ってる”って言うけど、実際にどう頑張ったの?洗い物はしてる?洗濯や掃除は?」

ゴミ捨てについて学んで以来、週に2度は出しに行くようになった。

洗濯についても先日学んだが、実際は毎朝柚葉がやってくれているので、乾燥機が終わって畳むくらいしかしていない(自分なりに、結構な進歩ではあるが…)。

「そんなことじゃ、どこかのイケメンにかっさらわれるよ?」

遥さんがイラついたように言い放つ。すると不意に、流星の姿が脳裏をよぎった。

― いやいや、相手はYouTuberだし。そもそも柚葉は彼のことなど知らないはず。

なぜ今、奴の顔が思い浮かんだんだろうかと、慌てて首を横に振る。2人に接点なんて、あるはずがない。

「俊平、どうした?急に青い顔して」
「いや、なんでもない。捨てられないように頑張らないとって思ったんだ」

焦った僕は、親友夫婦に向かって笑顔を作る。だが次の言葉に、僕はまたもや青ざめてしまったのだ。

「そういえば俊平、この動画知ってる?」

そう言って亮太が携帯で見せてくれたのは、まさかの「夫力向上委員会チャンネル」だったから。


「で、出た…!!なんで亮太までコイツのこと知ってるんだよ!」

急に大きな声を出した僕に、ビックリしている様子の亮太。でも冷静に考えると、動画が一般公開されている以上、見ている人もいるはずである。

だが、本当に驚くのはここからだった。

「これさ、前に遥がハマっていたチャンネルで。そういえば、柚葉ちゃんにも教えたらしいぞ」
「えっ、柚葉に…!?」

流星の動画を、妻も見ていたなんて。それは予想外だった。普段あまりYouTubeなどを見ている印象もなかったから。

― コイツと比較されてたりしたのかな。だとしたら、結構キツイな。

知らない間に、脳内で比較されていたかと思うとゾッとする。夫力皆無の僕と、イケメンで若くてムキムキで、夫力100点満点の流星。

そりゃあ目の前にいる僕が、残念な男にも見えるだろう。

「ちなみに遥さんが柚葉にこの動画を教えたのって、いつくらいの話?」
「半年くらい前じゃない?」
「そんな前から…。そっか」
「恥ずかしい話、俺も夫力皆無だったからさ。でも、気をつけたほうがいいかも」

ここまで言うと、キッチンにいる遥さんに聞こえないようにと、亮太が急に声をひそめた。

「遥が、リアルでも彼にハマりかけてさ。ちょっと大変だったんだよね」

何を言っているのか、意味がわからなかった。だが次の言葉を聞いた瞬間、なぜか急に胸騒ぎがしたのだ。

「どうやって知り合ったのかはわからないんだけど、いつの間にか2人でお茶に行ったりしてたっぽい。途中で俺が気づいて、それ以来交流はないみたいだけどな」
「えっ、なんで?どうやって?」
「さぁ。どこで出会ったかは知らないけど。でも多分この男、人妻キラーな気がする」

ただのYouTuberだと思っていた。

だがもしかしたら、僕は彼を見誤っていたのかもしれない。

焦る俊平。柚葉の気持ちを取り戻すためには…?

夫たるもの、率先して動くベし


― 柚葉に限って、大丈夫だろ。

亮太の家を出てからも、ぼうっとする頭を抱えながら考える。

柚葉は美人だしモテるけれど、浮気などするタイプではない。だから、大丈夫だ。そう何度も自分に言い聞かせてみるが、不安が拭えないのはなぜだろうか。

帰りのタクシーの中で、恐る恐る流星の動画チャンネルを開いてみた。するとまた、何か更新されている。

パーマをかけたのだろうか。今日は髪の毛がくるんとカールしている彼が現れた。

― みなさん、こんにちは。夫力向上委員会の流星です。さて今日は、ある方からお悩み相談が来たので、それを解決していこうと思います。


自分のつばを飲み込む音が車内に響く。

― 彼女は、すごく可愛らしくてキレイな方なのですが。どうやら、旦那さんが家事に非協力的。…というよりも、何も気がつかないとのこと。言わないと動いてくれない。そもそも、部屋が汚くても何も感じないらしいんです。


もう、何も言えなかった。

なぜなら、僕は多少部屋が汚くても全く気にならないからだ。だが柚葉は気になるようで、しょっちゅう掃除機をかけたり鏡を磨いたりしているイメージがある。

― 夫側の皆様に言いたいのは「まず率先して動け!」ということですね。指摘されてからじゃ遅い。デキる男は、動ける男です。


言っていることは正しい。

― ただこの場合、難しいですよね。そもそもの価値観が違うって、夫婦生活において離婚の決定打にもなりますし。

たかが糸くず、されど糸くず。

小さなほころびが、いずれ大きな崩壊にも繋がりますので…。


流星がそこまで言うと、動画は終わってしまった。後味の悪い終わり方に嫌な予感がした僕は、帰宅してすぐ掃除機を引っ張り出したのだ。


「ただいまぁ」
「お、おかえり。柚葉」
「え?もしかして掃除機かけてくれた!?」

帰宅した途端、目を大きく見開いて驚いている柚葉。たしかに結婚して以来、初めて掃除機を握ったから、妻が驚くのも無理はない。

「うん、これからは言われるより先に動こうかと思ってさ」

さっき見た動画の受け売りでしかないが、それでも柚葉はとても嬉しそうで、満面の笑みを僕に向けてくれた。

「ありがとう…!やっぱり俊平は、やればできるんだね」
「へへ。そうかな」

流星のことを聞こうかとも思った。だが聞いても仕方のないことだし、別に本人たちが会っているわけでもないはず。だから、気にしないのが一番だろう。

そう思い、僕は流星のことなど忘れて、目の前のやるべき作業に集中することにした。

「フローリングワイパーのシートは、どこにあるの?」
「えっ!俊平、そこまでしてくれるの?すごいね、ありがとう」
「まぁね。僕も変わり始めたから」

そう言いながら、僕はいそいそとフローリングを掃除し始めた。

…このときフローリングワイパーのシートに、カールした短い髪の毛が絡まっていたなんて。僕は全く気づきもしなかったのだ。


▶前回:「夫のパンツと、自分の洗濯物を一緒に回したくない」妻が夫を、生理的に受け付けなくなったのは…

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人妻キラー・流星の目的は、いったい何なのだろうか…?

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