志村けんが、こんなにも愛される理由。ファン感涙の企画展も

 2020年3月29日、新型コロナウイルスによる肺炎のため亡くなった志村けんさん。今年の一回忌を前に、ザ・ドリフターズの特番『春だ!ドリフだ!みんなあつまれ全員集合!』(フジテレビ系)が放送されるなど、いまだに人気は衰えを知りません。

 10月2日(土)~17(日)には東京・松坂屋上野店で「志村けんの大爆笑展」も開催(全国を巡回中)。志村さんの衣装・カツラから台本まで展示されて、ますますファンを喜ばせることになりそうです。

 なぜ志村さんはここまで愛されるのでしょうか? 著書『志村けん論』があるライターの鈴木旭さんに、改めて、その魅力について寄稿してもらいました。

(以下、鈴木旭さんの寄稿。写真は8月に行われた「志村けんの大爆笑展」大阪会場)

◆永久不滅の「変なおじさん」

 志村さんの代表的なキャラクターの一つ「変なおじさん」。喜納昌吉&チャンプルーズの「ハイサイおじさん」、落語家の2代目・桂枝雀さんが得意としたネタ「ちしゃ医者」など、実は多くの要素を併せ持ったコントとしても知られています。

 初期は、ハナ肇とクレージーキャッツ・植木等さんの「お呼びでない? こりゃまた失礼しました!」でオチるコントの流れを踏襲していましたが、徐々に「宅配ピザの箱」「跳び箱の最上部」「感動シーンの最中」から現れるといった意外性のある仕掛けへと発展。

 さらには、ふと見ると一瞬だけ現れる……というようなサスペンス色の強いもの、また逆にすぐに見つかって楽しそうにターゲットの女性を追い掛けるなど、様々なパターンが生まれました。

 最後は必ず見つかって「そうです、私が変なおじさんです」と認めたうえ、歌や踊りでお茶を濁すのですが、そのドジさや間抜けさには特有の“かわいげ”があります。『志村けんのだいじょうぶだぁ』(フジテレビ系)の第1回目から登場する永久不滅のキャラクターです。

◆「バカ殿様」は罰ゲーム企画も魅力だった

 もう一つ、志村さんが長年演じたのが「バカ殿様」です。

 1977年、『8時だョ!全員集合』(TBS系)で初登場。その後、『ドリフ大爆笑』(フジテレビ系)を経て、1986年にスタートした初の冠特番『志村けんのバカ殿様』(前同)へと続きました。また変なおじさんと同じく、舞台『志村魂』で必ず披露した定番のコントでもあります。

「志村けんの大爆笑展」では、等身大で再現されたバカ殿様が「アイ~ン」ポーズで鎮座し、一緒に記念撮影もできるとか。

 特番の『バカ殿様』は、様々なパロディーコントだけでなく、その時代の旬なゲストが出演するのも魅力の一つでした。猿岩石(2004年解散)、ダウンタウン、ナインティナイン、ふなっしー、ももいろクローバーZ、千鳥など、枚挙にいとまがありません。

 女性アイドルグループのミニモニ。とは、2002年に「バカ殿様とミニモニ姫。」を結成。シングル曲「アイ~ン体操/アイ~ン!ダンスの唄」をリリースしたことでも話題となりました。

 そのほか、ゲストと対決して負けたほうが“強烈な味や臭いがするミックスジュースを飲む”といった罰ゲーム企画も恒例でした。こうした遊び心は、『全員集合』の頃から変わっていません。ドリフターズや志村さんは、今のバラエティーでも見られる多くの企画を、コント主体の番組の中でやっていたのです。

◆ダウンタウンにも受け継がれたカツラ

 衣装や小道具も、志村さんの世界に外せないもの。「志村けんの大爆笑展」でも数多く展示されています。

 『8時だョ!全員集合』でブレークした「東村山音頭」では、股間に白鳥の首をつけた衣装が大反響を呼びました。また、かわいらしいうんこのイメージは、志村さんのコントとテレビアニメ『Dr.スランプ アラレちゃん』(フジテレビ系)で形成されたといっても過言ではありません。

 カツラも特徴的なものばかりでした。「いいよなおじさん」の前髪がくるりんとしたセンター分け、「ひとみばあさん」の軍艦のようにせり上がった結い髪、「おハナ坊のお父さん」の強風で横に乱れたかのような七三分けなど、どれもこだわりが感じられます。

 2021年8月15日に放送された『ワイドナショー』(フジテレビ系)の中で、ダウンタウン・松本人志さんが「ヅラの中の裏によく『いかりや(長介さん)』、『志村(けんさん)』とか書いてた」とおっしゃっていましたが、時代を経て後続の芸人さんにもドリフターズのカツラが受け継がれていたと思うと感慨深いものがあります。

◆職人気質な一面と無垢な笑顔

 数えきれないほど多くのコントで道化を演じ、お酒好き、愛犬家としても知られたことから、親しみやすいイメージがある志村さん。しかし、仕事には妥協を許さない職人気質な一面もありました。

 毎週のようにコントのアイデアをひねり出し、カツラ、小道具、舞台セットにこだわり、居酒屋コントでは生ゴミまで用意。『志村X』シリーズ(フジテレビ系・1996年~)のスタート当初は、本番直前まで台本を放さず自分を追い込み、緊張で手を震わせていたそうです。(2021年3月27日公開の文春オンライン「同じマンションに住んだ女優・川上麻衣子が見た“志村けんの私生活”「部屋がだんだん交際女性に乗っ取られて…」より)

 一方で、同番組の共演者だった女優・川上麻衣子さんは「師匠(志村さん)がうれしそうな顔で笑ってくれたりすると、私もうれしかった」と語っています。(2020年5月28日公開のwithnews『志村けんとの7年、川上麻衣子が見た素顔「心許せる人と深めた笑い」「家族が欲しい。でも1人になりたい」コントへのこだわりと矛盾」』より)視聴者の目から見ても、志村さんの笑顔はまるで子どものように無垢でした。

◆スタッフの前でもお茶目だった

『志村けんのだいじょうぶだぁ』、『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系)といった番組に携わったスタッフさん数人に私が直接お話を伺ったところ、志村さんはプライベートでサプライズを仕掛けるようなお茶目な一面もあったそうです。そもそも目の前の仲間を喜ばせることが大好きだったのでしょう。

◆全身で笑いを届けた志村さん

 志村さんが作り続けたのは、誰もがプッと吹いてしまうような原始的なコントでした。試しに音を消して映像だけを見たり、映像を見ずに音だけ聞いてみたりしたのですが、志村さんのコントは見事にどちらも笑えます。つまり、目が見えなくても、耳が聞こえなくても楽しめるということです。

 声の高低、顔の表情、手首の震え、千鳥足、強烈なメイク、ユニークな衣装や小道具……。身近で温かみのあるキャラクターを生み出し、全身で笑いを届けたからこそ、時代を超えて志村さんの笑いは愛されるのではないでしょうか。

<文/鈴木旭 写真/「志村けんの大爆笑展」大阪会場より>

【鈴木旭】

フリーランスの編集/ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。著書に『志村けん論』(朝日新聞出版)がある。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」

2021/9/27 8:46

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