コロナ禍で需要激減のタクシー業界、それでも「勝ち組」出現の意外なワケ
未曾有のパンデミックは我々の稼ぎにどのような影響を与えたのか。気になる最新の収入事情を追った!
◆人流激減で売り上げガタ落ちも工夫次第で勝ち組運転手も…
▼タクシー運転手 年収400万〜500万円(58歳・個人タクシー&40歳・正社員)
テレワーク推奨で人流が減り、売り上げ減を嘆くタクシー業界。今回、2人の運転手に話を聞いたが、その声は対照的だ。「今でもそこらへんのサラリーマン程度には稼げてますよ」と明るく話すのは加藤正之さん(仮名・40歳)だ。
「各企業が社員にタクシー帰宅を認める時間のデータを数百社分持っている。いくつかの企業や官公庁はいまだに残業が多いし、コロナ禍で深夜のタクシー台数が2割ほど減っているので、残業帰りの客に狙いを絞れば意外と拾えます。加えて、人流アプリと配車アプリを見比べて、人が多くてタクシーが少ない場所を探すことも重要。これは高齢ドライバーにはできない技です」
今年の年収は給与と賞与を合わせて500万円を超える見込みだという。
◆収入は前年比マイナス53%という苦境
一方、「コロナ流行以前の半分以下が続いている」と嘆くのは運転手歴31年の個人タクシーのドライバー、吉田貴司さん(仮名・58歳)だ。
「昨年の年収は400万円。常連だった会社役員や夜のお姉さんからの迎車の依頼が激減。あと、同じくらい大きな割合を占めていた外国人観光客もいなくなり、一昨年の850万円からマイナス53%の大幅ダウンです」
それでも今年に入ってからは売り上げもやや回復。ただし、コロナ前の水準には程遠い。
「老後資金をまったく貯められないですし、このままだと70歳過ぎても引退できなさそうです」
需要が元通りに回復する日は来るのだろうか……。
◆参入者過多で、稼げる人はほんのひと握り
▼ドローン操縦士 500万円(40歳・専業操縦士)
最近では東京五輪開会式でも話題となったドローン。テレビ番組やスポーツ中継での空撮をよく目にし、伸び代十分な業界に思えるが、ドローン黎明期から専業操縦士として活動する小倉健二さん(仮名・40歳)は「年収事情はかなり厳しい」と語る。
「操縦士養成のスクールビジネスが発展して『セカンドキャリアで稼ぎたい!』と夢見て参入してくる人は多いですが、完全に供給過多。要はスクール側の“つるはしビジネス”ですね。年収0〜数万円、良くて200万円台という人が大半で、1年で廃業するケースもザラ。ずば抜けた操縦技術や経験で1000万円稼ぐ人もいますが、1%にも満たないのでは」
すでに勝ち組と負け組の二極化が進むレッドオーシャンとなっている。
◆サラリーマンの給与水準に“上がり目”はあるのか?
ここまであらゆる企業の年収事情を見てきたが、日本のサラリーマンの給与水準に“上がり目”はあるのだろうか。経済評論家の加谷珪一氏はこう分析する。
「残念ながら、上がる見込みは限りなく低いと言わざるを得ません。コロナ禍による経済停滞の影響も少なからずありますが、それ以上に根が深いのが日本の雇用制度そのものの問題です。
数年前からジョブ型雇用が話題になっていますが、中高年社員による反対の声が大きく、実際に取り入れ始めた企業はごくわずか。いまだ多くの企業で年功序列が色濃く残るほか、今年4月の高齢者雇用安定法の改正で、70歳までの定年引き上げも進められています。
つまり、企業にしてみれば年功序列で社員の給与を下げられない。そんな社員を70歳まで雇い続けられないという二重苦。よほど伸びている企業でなければ、人件費に限りがありますから給与水準を上げる余裕なんてない、というのが大多数の企業の本音でしょう」
加谷氏の試算によると、こうした日本特有の年功序列・メンバーシップ型雇用は「今後、40歳以上の社員の給与を据え置きにしない限り持続不可能」だとか。人事コンサルタントの城繁幸氏も「今後も“良くて横ばい”が続くばかり」だと語る。
「一度給与を上げたら下げられない現状の労働法規が改められない限り、企業の業績が一時的に伸びたとしても社員の給与には反映されにくい。そうしたなかで40〜50代の社員が給料を上げるには出世するしかないわけですが、課長から部長に上がれるのは10人に一人程度。それ以外の社員は良くて給料横ばい、むしろ配置転換などを機にジリジリと減らされる可能性のほうが高いのでは」
世界的に見ても稀有だとされる“年功序列・終身雇用”を基盤とした日本の雇用制度。この根幹が揺るがない限り、日本人の給与水準が上がることはなさそうだ……。
【経済評論家・加谷珪一氏】
日経BP社を経て、野村證券グループの投資ファンド運用会社で企業評価や投資業務に従事したのちに独立。著書に『中国経済の属国ニッポン』(幻冬舎)など
【人事コンサルタント・城 繁幸氏】
Joe’sLabo代表取締役。労働・雇用問題に若者の視点を導入。『7割は課長にさえなれません』(PHP研究所)、『若者を殺すのは誰か?』(扶桑社)など著書多数
取材・文/週刊SPA!編集部
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