“タモリCM効果”で黒字化達成したメルカリ。次に狙う意外な場所とは
―[あの企業の意外なミライ]―
◆メルカリの連結最終損益が初の黒字に
9月15日、メルカリの時価総額が初の1兆円に達し、2021年6月期の連結最終損益は初の黒字に浮上しました。一般に、マネタイズが難しいとされるCtoCのビジネスモデルが市民権を得られた1つの成功事例です。
筆者は2019年に「『メルカリは赤字でヤバい』は本当か?」で、早くからメルカリの将来性に言及していました。
当時、メルカリの赤字の理由は「宣伝広告費」と分析していました。つまり、赤字理由は、マーケティング費用だったのです。しかし、宣伝広告費は固定費ではないため、いつでも金額を下げることができます。メルカリは、宣伝広告費を下げればいつでも黒字化できる状態にありました。
ただ、シェアを拡大し「攻めの姿勢」を取っていることから、あえて赤字で突き進んでいたというのが筆者の解説でした。そこから、2年――。メルカリは黒字化を達成しましたが、この黒字はこの先も続くのでしょうか。一時的なものなのでしょうか。
テレビCM出演中のタモリさんも知らないメルカリ黒字化の秘密、いつものように3分の解説で明らかにしていきましょう。
◆黒字の理由は広告費を抑えたからではなかった
まずはメルカリの業績から。
2021年6月期の売上高は前期比39%増の1061億円、営業損益は前期の赤字から244億円改善し51億円の黒字を達成しました。コロナ以降、経営環境が悪化することを見越して、採用やマーケティングの費用を抑制し、その結果、年間の広告宣伝費を前期比で25億円も削減しています。
とはいえ、決済資料から読み取れることは、今回の黒字化は単純に「費用を削減した結果だけ」ではないことがわかります。営業損益は改善幅244億円ですが、そのうち218億円が「増収効果」(売上高から売り上げ連動費用を差し引いたもの)だと記載しています。
つまり、広告削減費用25億円を大きく上回る効果が出ているのです。
さらに詳しく見ていきます。メルカリJPの売上高に占める広告宣伝費、人件費の割合がここ4年で84%から60%に低下しています。
一方で、売上高に占める調整後営業率は22%から32%へと上昇しています。つまり、メルカリは営業利益率があがる“なにか”をしていたのです。
アプリのMAU(月間アクティブユーザー)を見ると、約600万人増加し、出品者も約600万人増加。コストを抑えながらも、アクティブユーザーを獲得し、利益も出せるようになってきているということです。
◆タモリ効果にたしかな手応え
では、好調を支える直近の施策とは具体的になんでしょうか。それは下記の2つです。
1:梱包発送の簡便化
2:メルカリの始め方をオフラインで伝える機会を設ける
特に大きな効果があったのが2です。若者が利用しているイメージが強いメルカリですが、CMもタモリさんを起用し、中高年層や幅広い層をターゲットにした内容となっています。CtoCビジネスは利益を出せるまでに、時間がかかると言われてきましたが、ようやくパイを拡大させて、いよいよ黒字化を継続できそうです。
…と思われますが一つ気になる点もあります。ここでメルカリの決済説明会における、アナリストの質問に対する回答を紹介しましょう。
アナリスト:2021年6月に通期黒字化を達成し、かつ4Qの黒字幅が大きく拡大したことに対して、メルカリは今後も4Qのペースで黒字が大幅に拡大予定か?
メルカリ:将来利益を最大化させるために積極的に投資を実施していく方針に変わりなく、2021年6月の4Qのペースで利益が増加すると考えていない。
そう、保守的なコメント出しているのです。つまり、まだまだ先行投資を行い、新規事業もスタートとするということですね。
◆で、新規事業ってなにするの?
その新規事業について説明します。現在、メルカリはメルカリJP以外に、メルカリUS、メルペイの3つの軸がありますが、これに加えて新規事業を始めることを発表しています。
メルカリJPが堅調であることは前述しましたが、苦戦していたメルカリUSもスーパーボウルにおけるテレビCMなどの認知拡大やWebの改善、配送方法の改善などを行ない、第4四半期には初の営業黒字を達成しています。
メルペイは、2021年度は利用者数が前年比322万人増の1,067万人となりました。本人確認済み比率が8割を超え、本人確認増により、与信を中心とした収益力を強化し、5月には単月黒字化しています。既存の3事業が固まりつつあるなかで、新事業への投資のアクセルを踏む覚悟です。
では、赤字覚悟で模索する、次なるビジネスはどのような内容でしょうか。次なる柱の事業になるものがスマートフォンから簡単にネットショップを開設できる「メルカリShops」です。
◆コロナ禍でダメージの小規模事業者を支援
これは簡単に言えば、eコマースの支援事業です。9月から本格運営を始め、グループ会社のソウゾウを通じて運営します。このeコマース事業、どこまでの勝算があるのでしょうか。
現在、メルカリは、コロナでダメージを受けた中小の加盟店に対して自分たちが何かできることはないか考え、コロナ禍で苦しむ小規模事業者を当初のターゲットに挙げています。こうした背景から、中小の商店や飲食店、農家当初、漁師、地方の特産品を扱う店舗、雑貨やハンドメイド品を手掛ける個人、小規模のクリエーターが簡単にネット上で出店できるプラットフォーム事業を始めるのです。
eコマースは、ここ数年で利用者が増加したイメージがありますが、小規模事業者のeコマース利用は思ったほど浸透していない現状があります。原因はITの知識や経験不足、eコマースの管理や運営ができる人材が不足していること、ショップの集客などが挙げられるでしょう。
ここに、「メルカリShops」が一躍担うということです。
誰でも「メルカリ」アプリ内にネットショップを持つことができ、独自の集客なしで「メルカリ」の月間1,900万人超の利用者に届けることができるプラットフォームは魅力的です。
忍耐強く、ここまで事業を拡大させてきたメルカリ。
メルカリ、誰が言ったか知らないが、「まだまだ成長していいとも!」という経営陣の気合の入った声が筆者には聞こえてきます。
<文/馬渕磨理子>
―[あの企業の意外なミライ]―
【馬渕磨理子】
経済アナリスト/認定テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi