村上春樹「一度好きになると離れられません」“モーズ・アリソン音楽”の魅力を語る

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの特別番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。9月26日(日)の放送は、「村上RADIO~モーズ・アリソンを知っていますか?~」と題して、村上さんもファンだというジャズピアニストでボーカリストのモーズ・アリソンの名曲をアナログ盤でオンエア。村上さんが解説するモーズ・アリソンの足跡のエピソードや、名だたるアーティストがカバーした楽曲など、さまざまな視点からひもといていきます。

この記事では中盤4曲と“収録中のつぶやき”ついてお話された概要をお届けします。

村上RADIO

◆Mose Allison「Fool's Paradise」

◆Mose Allison「That's All Right」

簡単に言ってしまえば、彼は南部の黒人ブルーズに、都会的なジャズのフィーリングを加え、カントリー音楽のフレイバーも少しばかり添えて、ひとつにはカテゴライズできない「モーズ・アリソン音楽」という個人的な音楽世界をうまくつくりあげているわけです。だから逆に言えば、ブルーズ・ファンからも、ジャズ・ファンからも、カントリー音楽ファンからも、強い一般的支持は得られませんでした。

しかしその個人主義を煮詰めたような、ほかに類を見ない音楽は、一度好きになると離れられません。音楽家のなかにもトム・ウェイツとか、ヴァン・モリソンとか、ピート・タウンゼントとか、ジャック・ブルースとか、ベン・シドランとか、熱烈なモーズ・アリソン・ファンがいます。特に英国のミュージシャンたちの間ではカルト的な人気がありました。僕は一度ベン・シドランさんと会って話したことがあるんですけど、モーズ・アリソン話でかなり盛り上がりました。

それではモーズ・アリソン、ライブで2曲聴いてください。

ジェシー・フラーの作った“Fool's Paradise”「フールズ・パラダイス」とジミー・ロジャーズの“That's All Right”「ザッツ・オールライト」です。場所はカリフォルニアのハモサ・ビーチにあるジャズ・クラブ「ライトハウス」、バックはスタン・ギルバートのベース、メル・リーのドラムズ、ピアノはもちろんモーズ・アリソン。このライブ・アルバム、とても出来がいいです。ライブ、聴きたかったなあ。1966年の録音です。

<収録中のつぶやき>

まずこういう曲はラジオではかからないね、今も昔も。この人を知らない人はみんな黒人だと思ってたんです、歌を聴いて。ライブを聴きにいったら白人なんでひっくり返ったという話があります。ピアノもなかなか面白いピアノなんだよね。

◆Mose Allison「Blue Berry Hill」

モーズ・アリソンはシンガーとして高く評価されていますが、ソング・ライターとしても、またジャズ・ピアニストとしても実力を認められています。彼のピアノはミニマリズムっていうのかな、決して饒舌ではありません。どちらかというと訥々(とつとつ)とした演奏なんだけど、不思議な独特の説得力を持っています。それからリズム感覚がとてもいいんです。

基本はジャズのビバップの人ですが、異端的なところがあって、ジャズの本流には受け入れられませんでした。そのあたりは、セロニアス・モンクに少し通じるところがあるかもしれません。ピアノ・トリオで“Blue Berry Hill”「ブルーベリー・ヒル」を聴いてください。ファッツ・ドミノの歌でヒットした曲ですね。テイラー・ラファーグのベース、フランク・イソラのドラムズです。

◆Mose Allison「To The Ends Of The Earth」

モーズ・アリソンはまだ駆け出しの時代に、スタン・ゲッツに見いだされ、彼のカルテットのピアニストに迎えられます。1957年のことです。スタン・ゲッツほどのビッグネームなら、もっと格上のピアニストを雇えたんだけど、当時のゲッツは収入の大方を麻薬代に持っていかれて、借金で首が回らない状態だったんです。有名ミュージシャンを雇う余裕がなかった。それで、「こいつならまだ若いし、安い給料で使えるだろう」みたいな感じでアリソンさんに声をかけたようです。もちろん「見所がある」と見込んだからこそ抜擢したんでしょうけどね。

スタン・ゲッツ・カルテットに彼が加わった正規の録音はLP1枚分しか残されていませんが、そのなかから“To The Ends Of The Earth”「世界の果てまで」を聴いてください。アリソンのピアノ・ソロは決して悪くないんですが、ゲッツのリリカルなトーンには微妙に合ってないですね。あまりにアリソン的すぎるというか。ベースはアディソン・ファーマー、ドラムズはジェリー・シーガルです。

スタン・ゲッツのバンドでの活動期間が短かったのは、彼が『バック・カントリー組曲』というアルバムをプレスティッジ・レコードから出して、それがけっこう話題になったからです。それを機に独立しました。僕の想像だけど、きっと安い給料にも耐えかねたんでしょうね(みゃーお)。

<収録中のつぶやき>

これ、古いレコードなんで、ちょっとチリチリと音が入りますけど。

----------------------------------------------------

▶▶この日の放送を「radikoタイムフリー」でチェック!

聴取期限:2021年10月4日(月)AM 4:59 まで

スマートフォンは「radiko」アプリ(無料)が必要です。⇒詳しくはコチラ)

※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用頂けます。

----------------------------------------------------

<番組概要>

番組名:村上RADIO~モーズ・アリソンを知っていますか?~

放送局:TOKYO FM/JFN全国38局フルネット

放送日時:9月26日(日)19:00~19:55(※放送日時が異なる局があります)

パーソナリティ:村上春樹

番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

2021/9/26 21:50

こちらも注目

新着記事

人気画像ランキング

※記事の無断転載を禁じます