夫と死別した私は「お気の毒」なの?夫を亡くして気づいたこと

 筆跡アナリストで心理カウンセラーの関由佳です。夫をがんで亡くしてから早1年半。コロナ禍という未曽有の事態もあり、あっという間に時間が過ぎていきました。

 その間に仕事でもプライベートでも、初めて出会う人がたくさんいましたが、聞かれない限り夫の話は積極的にしていませんでした。

 しかしつい最近、知り合ってから1年くらいになる知人に、話の流れで夫のことを話す機会がありました。すると彼女は絶句し、とても悲痛な面持ちで「それはお気の毒でしたね……」と言ったのです。

 このように死別の話をすると、「気の毒」という言葉を使われがちです。そもそも、死別は「気の毒」なことなのでしょうか。

◆「気の毒」という言葉に違和感

 もちろん、元気そうにしている相手が実は最近配偶者を亡くしていた、と聞いたら「それはお気の毒に」と慰めるのは、優しさや気配りの言葉として理解できます。言われたことに対して、怒りや反発を覚えているわけではありません。

 ただ、あくまで私自身の話ではありますが、慰めの言葉とわかっていても、「気の毒」と悲しそうにされると、自分がとっくに乗り越えてきた哀しみの感情をもう一度さらわれているようで、毎回違和感があります。そして「え、私って気の毒なの?」と疑問が湧いてきます。

◆事実は悲しいことでも、学ぶ機会になっている

 そもそも、私は夫を亡くした自分のことを「気の毒」と思ったことがありません。たしかに、大切な人と早くお別れしたことは悲しく、できるなら絶対的に避けたかった事柄ですが、自分を「不幸」だとか「気の毒」だとは思いませんでした。むしろ、この試練にはきっと意味がある、と考えて立ち向かってきたので、どちらかというとたくさんのことを学ぶ機会をいただけた、と思っています。

 「経験」はいいことばかりでなく、つらいこともあります。でも、次に活かせば無駄になることはありません。また現在同じ経験をしている人の道しるべにもなれます。大切な人と死別した人は、決して「気の毒な人」ではないと思うのです。

◆今を大切に生きる

 死別を経験して最も学んだのは、「今を大切に生きる」ということ。将来のことも大切ではありますが、一番大事にしたいのは、今一緒に過ごすことができている人や今の環境です。自分がこの時間を生きていられるのは、今周りにあるすべての事象のおかげです。これをないがしろにすると、突然失ったときに大きな後悔やダメージを受けます。

 せわしない日々を送っていると、ついつい身近な存在を後回しにしがちです。私も夫が発病する前は、友人と夜遅くまで好き勝手に遊びに行っていましたし、少し長めの海外旅行へ出かけて寂しがる夫を放っておいたこともありました。料理の手間を惜しんで「まぁ大丈夫でしょ」とジャンクな食べ物を続けてしまったり、あと20年くらいは夫がいるものだと勝手に考え、しばらく気楽に暮らせるとまで思ったりした時もあります。

◆今近くにいる人が明日必ずいるとは限らない

 そんな、夫という当たり前にいる温かい存在に対してあぐらをかいていたので、最初に夫が脳梗塞で倒れたときは現実が受け止められず、ずっと夢の中にいるようでした。そしてがんが発覚し、「夫を失うかもしれない」という現実に恐怖感を毎日抱え、しばらくは地獄のような日々を過ごしました。あの経験をしてから、今近くにいる人は明日必ずいるものではない、ということを痛感したのです。

 しかし、日ごろから身近な人に対して大切に接していれば、突然の別れがあったとしても、後悔を減らすことができます。ゼロにするのは難しいですが、「あのとき連絡しておいてよかった」、「『ありがとう』を言えてよかった」と思えれば、少し穏やかでいられるはずなのです。

◆「死」は人生において避けて通れない身近な出来事

 ちなみに、冒頭の「気の毒」ですが、私が覚える違和感の中には、もう一つ「とても他人事っぽく聞こえる」というのもあると思います。

 タイミングの早い遅いはありますが、いずれにしても人は必ず死にます。それは今まで人類がずっと繰り返してきた自然な現象であり、誰にでも起こりうる身近なこと。でも「気の毒」とは、全く別次元の事柄を憐れむというニュアンスが含まれ、とても他人事に聞こえるのです。

 大切な人の死はとても悲しいことではありますが、人生において避けて通れない出来事。いつどんなタイミングで身近な人を亡くすかわかりません。平穏な日々を過ごしていたとしても、ぜひ死を他人事と思わずに「今」を意識して生きてみてください。今に焦点が合うことで、未来への不必要な不安も感じにくくなりますよ!

―シリーズ「私と夫の1063日」―

<文/関由佳>

【関由佳】

筆跡アナリストで心理カウンセラー、カラーセラピストの資格も持つ。芸能人の筆跡分析のコラムを執筆し、『村上マヨネーズのツッコませて頂きます!』(関西テレビ)などのテレビ出演も。夫との死別経験から、現在グリーフ専門士の資格を習得中。Twitter/ブログ

2021/9/26 15:47

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