若者が知らないスポーツ新聞の「味わい深い世界」。各紙ごとの特色を再点検

―[ロスジェネ解体新書]―

 あらゆる年代の人がいる職場はまさに“世代のルツボ”。特に社会に出て間もない人にとって、過重労働が社会問題になっている時代にあって嬉々として“徹夜仕事”をしたり、なんでも電子化、レンタルできる世の中で“モノにこだわる”40代以上の世代は奇異に映るかもしれない。

 社会の文脈的に“ロスト”されてきた世代は、日々どんなことを想い、令和を楽しもうとしているのか。貧乏クジ世代と揶揄されつつも、上の世代の生態をつぶさに観察し、折衝を繰り返してきたロスジェネ世代の筆者ふたりが解説していく。

◆スポーツ紙の部数は20年間で半分以下に

「おい、民放テレビ局! 野球の生中継、少なすぎ…って嘆き、時代に取り残されてるのかな。夜のニュース番組で“今日のプロ野球”の結果は毎日チェックするけど、ホントに知りたい情報はもっと深いところにあって。だからいまも変わらず、次の日の朝のスポーツ新聞の情報は欠かせません。ネット記事で読めばいいじゃん?派の声が大きいのは知ってるけど、缶コーヒー飲みながらスポーツ新聞片手に過ごす朝こそ、我が人生。素晴らしき、時間。電車で新聞を広げるのはさすがに憚れるけれど…」(不動産・47歳)

〈スポーツ新聞1年で1割減。本格倒産時代到来か〉ーーこんなニュースが(密かに)話題になったのは今年1月のこと。ご存じのとおり、と言うべきか、調べてみるとスポーツ新聞に限らず、いま新聞業界そのものが暗雲立ち込めている最中にあります。「ネットニュースの台頭」「活字離れ」など、ネガティブに話そうとするなら、枚挙にいとまがありません。日本新聞協会「新聞の発行部数と世帯数の推移」によると、通勤時にスポーツ新聞を買う習慣のあった団塊世代が定年退職を迎えた2008年頃を境に、部数は下がり続け、2000年と比較すると、一般紙は31.5%減、スポーツ新聞は58.2%減と、じつに半分以下の部数に落ち込んでいるようです。

 追い討ちをかけるかのように、新型コロナウイルスの感染拡大を向かい風に、日本中央競馬会(JRA)の場外馬券売り場の営業休止を受け、スポーツ新聞の固定客だった競馬ファンが離れはじめ、いま、部数減はさらに進んでいるようです。

◆「スポーツ新聞はオワコン」って誰が言った?

「スポーツ新聞? かなり前からオワコンでしょ」ーー辛辣なこんな声も筆者のまわりから聞き漏れてきますが、本稿では『DA.YO.NE』(1994年のヒットナンバー)の歌詞、〈言うっきゃないかもね そんな時ならね〉のような温度感で、軽々しくこんな風に言い放つのはやめたいと思います。

 なぜなら、我々ロスジェネ世代には、時代は進んでもスポーツ新聞を愉しめる素養があるからです。思い出してください。例えば、平成をザワつかせた『東スポ』(東京スポーツ)の1面を。〈マドンナ 痔だった?〉〈プレスリー生きていた?〉〈フセイン インチキ大作戦〉〈人面魚 重体脱す〉……まだ若かった我々は、UFO、宇宙人、ツチノコ、プロレスなど、百花繚乱な、東スポが報じる”トップ記事”にいつもニヤニヤ&ワクワクしていました。本気とジョークの区別を愉しむ余裕のある”おおらかな時代”だったのかもしれません。

◆特色豊かなスポーツ各紙

 時計の針は進み、時代は平成から令和へ。多くの書物がそうであるように、スポーツ新聞の生き残りをかけた戦いもまた、歴戦の最中にあります。デジタルで情報を得ることが当たり前の時代にあっても、いぶし銀のごとく、コンビニで駅中のキオスクで輝きを放ち、働く多くの人たちの毎日に彩りを添えています。

 例えば、まずは『東スポ』。「日付以外は全て誤報」と評されるほど娯楽性を重視していた同紙は、夕刊紙という強みを活かし、スポーツ新聞の中で最も早く国外スポーツの試合結果を伝えるメディアに変貌。メジャーリーグやゴルフのPNGツアー、欧州各国のサッカーリーグの動向に力を入れている印象です。娯楽性の強いゴシップ記事は減少傾向にある気がしますが、それでもいまなお、我らが『東スポ』は健在です。

 日刊スポーツ、略して『ニッカン』はどうでしょう。調べてみると日本最古のスポーツ日刊新聞のこちらは、本紙とは別媒体となる特別版の発行にも積極的。駅売りよりも宅配が多く、購買層はサラリーマンから主婦層まで幅広い印象で、成人男性向けページ(アダルト面)の掲載はなし。過去には「ONE PIECE」や「スター・ウォーズ」、「AKB48 Group新聞」(現在は電子版)といった人気コンテンツも展開し、幅広い層から人気を集めています。朝日新聞グループの新聞なので、どちらかというと左寄り、体制に対して皮肉めいた記事が散見できますが、紙面全体を通して読みやすい印象です。

 スポーツニッポン、略して『スポニチ』は毎日新聞系。独自の取材網で他社に先がけたスクープに強みがあり、SMAPや嵐の動向など、芸能系のスクープが多く、結婚や離婚で多くの話題を提供している印象です。経験豊かな専門記者が多く、スポーツアスリートの喜怒哀楽のストーリーテリングも読み応えありです。野球は阪神タイガース、競馬にも力を入れている印象です。

◆報知、サンスポ、東京中日…

『スポーツ報知』といえば読売ジャイアンツ。読売新聞系の強みをフル動員し、巨人が勝った翌日には1面から3面が巨人関連のニュースになり、選手のコメントもきめ細かく掲載。2軍選手の一言やOBの小言にも注目。巨人の機関紙、アンチ巨人のカルト経典、このイメージは昔も今も変わりません。

 サンスポの愛称で親しまれる『サンケイスポーツ』の強みは、なんといっても競馬予想。サンスポ系列の競馬予想専門紙『競馬エイト』や競馬雑誌『Gallop』も人気です。ラグビーに力を入れていて、ラグビー関連の記事が毎日のように掲載され、プロ野球では関東版はヤクルトスワローズ、関西版では阪神タイガースの記事が積極的に掲載されている印象です。

『東京中日スポーツ』といえば、中日ドラゴンズとモータースポーツ関連の記事が充実。JリーグのFC 東京にフォーカスした記事も人気で、スポーツ紙で唯一、大学スポーツをメインに取り上げる「首都圏スポーツ」は学生スポーツ関係者から支持を集めているようです。

 ここに述べてきたとおり、スポーツ新聞には各社「カラー」があり、スポーツやゴシップ、芸能、レジャーなど、娯楽関連のニュースを中心に専門の記者が健筆をふるっている最中にあります。近年の潮流でいえば、政治面や経済面など、比較的硬めの記事にも力を入れている印象です。あの頃とナニが変わったの? こう問われると、プロ野球のキャンプインの2月1日付けの紙面では相変わらず、そのニュースに注力しているのも確かです。でも、だからこそ「永遠のマンネリこそ尊い」とも思う次第です。想像してください。スポーツ新聞のない世界線を。聞けばいま、新聞購買層のメインは50代以上とのこと。低迷するスポーツ新聞の救世主はアナタだ、ということを力強く宣言して、筆を置きたいと思います。

<文/ディスコ☆セリフ>

―[ロスジェネ解体新書]―

【ディスコ☆セリフ】

数々の雑誌を渡り歩き、幅広く文筆業に携わるライター・紺谷宏之(discot)と、企業の広告を中心にクリエイティブディレクターとして活動する森川俊(SERIFF)による不惑のライティングユニット。

森川俊

クリエイティブディレクター/プロデューサー、クリエイティブオフィス・SERIFFの共同CEO/ファウンダー。ブランディング、戦略、広告からPRまで、コミュニケーションにまつわるあれこれを生業とする。日々の活動は、seriff.co.jpや、@SERIFF_officialにて。

紺谷宏之

編集者/ライター/多摩ボーイ、クリエイティブファーム・株式会社discot 代表。商業誌を中心に編集・ライターとして活動する傍ら、近年は広告制作にも企画から携わる。今春、&Childrenに特化したクリエイティブラボ・C-labを創設。日々の活動はFacebookにて。

2021/9/26 8:52

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