【インタビュー】長谷川唯が考える“対世界” 自身に、日本に必要なこと

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 2021年1月、初の海外挑戦となるミランへと移籍し、チームを初のチャンピオンズリーグ出場に導く貢献をした長谷川唯。

 東京オリンピックではなでしこジャパンとしてメダル獲得を目標に掲げる中、ベスト8敗退に終わった。そして今夏、新天地をイングランドに求め、ウェストハムでのプレーを選択した。

 その長谷川に海外でのプレーで得ている経験、日本の課題、今シーズンについて聞いた。

インタビュー=小松春生

■日本にはまだまだ足りていないと感じる部分



―――2021年はミラン移籍から始まりました。東京オリンピックを控える年に初の海外挑戦です。

長谷川 初めて日本を出てサッカーをするので、慣れないこともたくさんありましたが、サッカーが始まればコミュニケーションも取りやすくなりました。イタリアサッカーの特徴としてボールに強く行くことや1対1の場面の多さがあり、日本のように組織的にというよりも個人の局面で勝つことが主流のリーグという印象です。日本とイタリア、どちらのレベルが高いのかを比べられないくらいにプレースタイルが違いました。日本でのサッカーに慣れ、ある程度自分のやりたいプレーができるようになった中で環境を変えることを求めていたので、いろいろな刺激がありました。日本ではボールを奪われない場面でも、イタリアでは奪われることもありましたし、海外でのサッカーに対応する点がイタリアで最初に学べたことですね。

―――その違いの部分で意識的に変えたプレー選択があると思います。

長谷川 日本では相手と相手の間でボールを受けることや、相手にぶつからないようなプレーを頭で考えて、いいポジションを取れば自然とそこにボールが入ってくるシーンが多かったんですけど、ミランではサッカー観の違いもあって、ビルドアップのボールをいいタイミングで入れるのではなく、相手を背負ったままでもボールを受けなければいけない状況が多く、その中で工夫することを意識してやっていました。懐深く入ってボールを取りに来る選手も多く、そういう状況を作らないようにすることが自分のプレースタイルではありますけど、背負ってもボールを失わない、その状況下でもチャンスメイクをすることを考えながらやっていました。

―――そこを日本でのプレーから変える必要があったと。

長谷川 そうですね。日本では難しい状況でも奪われないようなプレーはできていました。他の選手もプレー選択がクレバーですし、やられない守備をする選手も多いと感じています。一方で海外の選手は奪うか、簡単にやられるかのどちらかという場面が多いです。どちらが正しい選択かは場面によりますが、これまでの自分はやられない守備に対しての攻略ができていたので、一か八かのような強く守備をしてくる相手に対しての対応は、実際に体験をして少しずつ調整しましたし、改善点はまだまだあると思っています。

―――ミランでのシーズンを終えて迎えた東京五輪。イギリスやスウェーデンは強度という部分含め、その際たるチームでした。

長谷川 特にイギリスはフィジカルがありながらも、いいポジショニングを取っていました。ここ数年、ヨーロッパの男子サッカーの形が徐々に女子にも浸透してきていると感じていましたし、日本もやっていかないといけません。日本には技術が高く、クレバーな選手が多いですが、フィジカルが劣る中でその部分まで劣ってしまったら本当に勝ち目がなくなると強く感じた大会でした。

―――長谷川選手が感じているヨーロッパの進歩の部分は、選手環境や育成環境などいろいろ理由があると思います。

長谷川 環境はもちろんあると思います。あとは指導者の方ですね。これまでは育成年代からある程度みんなが同じようにやってきた中で、A代表でも同じようなプレースタイルでずっとやってきました。技術で優ることで勝てるサッカーではあったと思います。そこから世界の技術も上がってきた中で、どう変化させていくかという部分が必要だと思います。例えば、男子チームを指導している方が女子チームも指導するようになれば、戦術なども広がってくると思います。どれが正解、不正解はありませんが、いろいろなサッカーを経験することで、プレーの選択肢を選手が選べるようになる。環境もそうですが、日本にはまだまだ足りていないと感じる部分です。

―――日本で育成の土壌が整っているのは、ある程度の数のクラブや学校に限られています。幅が広がると選手の個性もさらに伸びることにもつながると。

長谷川 そうですね。自分もこれまでメニーナ、ベレーザと緑の服を着てやってきた中で、他の感覚に触れることが少なかったんですが、同じヴェルディにいた方ですけど人とは違う戦術や考え方を持つ永田(雅人)さんがベレーザの監督になり、一緒にやらせてもらったことで自分の幅が広がったんです。最初は「なんで?」と思ったことも、やってみると意外とうまくいくことがあったり。新しい刺激が自分の場合は成功体験になりました。もし失敗だったとしても、なぜ失敗したかを学べると思うので、いろいろな考え方の指導者と出会うことは大事ですね。

■意見を言ってくる選手が伸びる



―――選手間での1つの試合に対する意識のズレは感じますか?

長谷川 今回の五輪のチームもすごく仲が良いですし、それは先輩がいい雰囲気を作ってくれたからだと思います。一方でブチさん(岩渕真奈)や(熊谷)紗希さんは、しっかり試合中に厳しいことを言います。もちろん全てでピリピリしろということではないですが、試合中に意見を言い合うことは若い子もできる環境になっていると思うので、話し合うところや失敗してもやろうとする意欲がもっとあってもいいのかな、とはすごく感じます。

―――その点へのご自身の取り組みはいかがでしょうか。海外に出て変わった部分もあると思います。

長谷川 良くも悪くも海外の選手は主張が強く、「今はこうしたほうがいい」と自分が思っても、堂々と「こうして」と言われたりします。移籍前に永田さんにも言われましたが、幅を広げることを考え、今は主張することよりも相手の考えを聞くことで、逆にそれを利用して自分がどうすればうまくいくかを考えています。

―――海外でのプレー、日本代表としても多くの大会を経験しました。これからはそれを還元していくことも求められると思います。代表へのアプローチはどうでしょう。

長谷川 まずは代表に選ばれるため、WEリーグにいない分、さらに結果を出さないといけないと思っています。もし選ばれたら若い選手、経験の少ない選手たちに、これまで自分たちが先輩たちから教えてもらったことを繋いでいかないといけない、ということはもちろんあります。あと、日本の若手ではフィジカルが強い選手が多くなってきているので、自分のサッカー観やプレー選択、頭を使う部分はどんどん伝えていきたいです。

―――他の選手ももっと海外挑戦してほしいという気持ちはありますか?

長谷川 正解はないと思います。必ずしも海外挑戦することがいいとは思っていなくて。日本のリーグでできることをやり、A代表で試合に出て、ある程度自分がやれるようになってから海外に出ることが大事だと思っています。難しい部分ですが、日本でやれる余地があるのに海外に出てしまうと、「もっとできることがあった」と思ってしまうので。代表で結果を出せればいいということだけが目標ならば、海外に出るのもありかもしれません。ただ、一人の選手として技術や頭、戦術、全てにおいて成長することを考えたら、自分は日本でやりきってからだなと。

―――海外移籍をすると生活面含め、タフにならないといけないところがたくさんあります。タフな環境にどんどんチャレンジするようなメンタルを持った選手がもっといてもいいのでは、と思うようなことはありますか?

長谷川 あまりメンタル面で選手を見てこなかったんです。意欲の部分では、先輩にどんどん話を聞きにいく選手や自分の意見を言える選手もいれば、わかっているかどうかは別として言われたことに返事をして終わる選手など、いろいろな選手がいます。自分はガツガツ聞いてきたり、意見を言ってくる選手が伸びると思いますし、海外はそういう人だらけです。そして私生活は持ち込まない。プレー中はプレー中、私生活は私生活としっかり分けられる選手が一番いいと思います。

■“日本人”にもっと興味を持ってもらえるプレーを見せていくことが大事



―――イングランドに移籍を決めた理由をお聞きします。イングランドは現在、資金的にも女子のトップリーグと思っていて、環境面の充実などもあると思います。

長谷川 そこは大きいですね。しっかりと女子にも力を入れていることは、日本にいるときからわかっていました。男子の規模が大きいことももちろん理由にはあると思います。お金があることで環境が整い、いろいろな選手や指導者が移籍してくることにもなるので。イングランド代表、イギリス代表と対戦した時の感覚も理由の一つです。

―――チームの雰囲気はいかがでしょう。

長谷川 代表選手は少ないですし、チームとしてリーグのトップではないと思うので、難しい部分もあると思います。徐々に個人の特徴もわかってきましたし、それをどう生かすかをイメージしながら練習しています。

―――チームから求められている役割は何でしょうか。

長谷川 トップ下の位置で相手のディフェンスラインと中盤の間でボールを受けて、そこから何ができるかを強く求められています。守備での役目はある程度決まっていますが、攻撃ではボールを持ったら思ったことをやっていいと言われていて、監督もボランチの選手などに、「ボールを持ったら唯を見ろ」と言ってくれています。攻撃の中心としてやらなければいけないと感じています。

―――加入時の英語コメントで、ご自身を「フィジカルプレーヤー」と称されていました。ハードワークできる、走って追えるということだと思いますが、テクニックなどではなく、その点を挙げた理由は何でしょう。

長谷川 走れるだけではダメですし、うまいだけでもダメです。頭も使わないといけません。特長を一つ挙げろと言われたら難しいですが、何をやるにしても運動量は必ず必要で。自分は中学生の頃から背が小さく、相手の嫌なポジションを取り続けるためにも運動量が必要だと、当時メニーナの監督だったテラさん(寺谷真弓)にもずっと言われましたし、大事にしています。

―――昨シーズン、ウェストハムは12チーム中9位でした。チーム、個人で設定している目標はありますか?

長谷川 いろいろなチームでメンバーが入れ替わり、監督が替わったチームもあります。どこのチームが強いかはわからないという話をブチさんともしましたし、やってみてからだと思っています。もちろんチームとして昨シーズンから順位を少しでも上げることはそうですし、得点に絡むプレーが自分の役割であり、得点を狙える位置に置いてもらっているので、貪欲に狙っていきたいです。

―――岩渕選手が同じロンドンにいることは大きな助けになりますね。

長谷川 もともと仲が良かったですし、海外での生活や経験も長いので、すごく心強いです。楽しくリラックスした時間を過ごせています。

―――生活面はいかがでしょう。

長谷川 中心部や日本食レストランにも行きました。あとは男子のウェストハムの試合も行きましたが、プレミアリーグの試合を間近で見られることも貴重な経験です。雰囲気も日本とは全然違いますし、楽しかったので時間が合えばたくさん行こうと思っています。

―――最後に今シーズンの意欲をお願いします。

長谷川 初めてのリーグ、新しい場所での挑戦なので、自分でも想像がついていませんが、その中で日本人の良さ、日本人らしいプレーをしっかりと見せて、“日本人”にもっと興味を持ってもらえるプレーを見せていくことが大事だと思っています。得点やアシストも一つの目標として設定していますが、まず日本人の価値を高めるようなプレー、日本人らしいところを出していきたいので、ぜひオンラインでも試合は見られるので、見ていただきたいです。応援していただいている方たちの期待に応えられるように頑張りたいです。

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