再婚希望のバツイチ女。結婚相談所で、全然好きになれない男から交際を申し込まれたけれど…

目まぐるしい東京ライフ。

さまざまな経験を積み重ねるうちに、男も女も、頭で考えすぎるクセがついてしまう。

そしていつのまにか、恋する姿勢までもが”こじれて”しまうのだ。

相手の気持ち。自分の気持ち。すべてを難しく考えてしまう、”こじらせたふたり”が恋に落ちたとしたら…?

これは、面倒くさいけれどどこか憎めない、こじらせ男女の物語である。

◆これまでのあらすじ

志保に距離を置かれていることを察しはじめたショーンは、元カノや友人・雅人に相談する。そして、自分もちゃんと志保と向き合おうと決意するのだが…

▶前回:元カノへ衝動的にLINEした男。「俺のダメだったところ教えて」の質問への、ミもフタもない返答とは


断腸の思い。

この言葉がこれほど腹落ちすることは、今までなかったかもしれない。

出会ってから3ヶ月近く経つというのに、一向に関係が進展しないショーンと、私は連絡をとることをやめたのだ。

定期的にデートもするし、彼からの好意を感じないわけじゃない。心からの幸せを感じることはできないけど、このままの関係を続ければ、それなりに満たされる。

…でも、私はちゃんと幸せになりたい。

<ショーン:今度はいつ会えそう?>

だから、久々に彼から来たLINEをそっと閉じ、私はある所へと向かった。

心は決して弾まない。

むしろ足取りは重いけど、それでも、私は歩みを進める。

私は自分の幸せのために、ちゃんと気持ちに区切りを付けられる賢い大人なんだ。

そんな自負を必死で掲げながら。

志保が向う先、志保を待つ人物とは?

普段は渋谷区から港区あたりでしか活動していないから、この辺りには土地勘がない。

帝国ホテルには結婚式で何度か来ているけれど、行き方なんて覚えていない。ネットに書かれていた日比谷駅のA13番出口に降り立つも、右往左往しながらようやくたどり着いた。

「はじめまして、柏木裕太と申します」

帝国ホテル1F『ランデブーラウンジ』で、カジュアルなジャケットスタイルで待っていたのは、身綺麗な男性だった。第一印象は悪くない。

ずっと放置していた結婚相談所から紹介された男性。代々続く不動産会社の役員で、次期社長なのだという。

「はじめまして」

慣れない状況に緊張しながらも、私は丁寧に挨拶をしてイスに腰かけた。その座り心地のよさに思わず緊張の糸が緩み、どっと疲れが出てしまいそうになる。

この初めての状況にもだが、…なによりも、いま自分が身にまとっている服装が、私をよりいっそう窮屈にさせていた。

『女性らしい服装でね。淡い明るい色とか、白とかがいいかしらね。モノトーンとかは控えがほうがよいわね』

そんなカウンセラーの言葉に、心を無にして従ったのだ。絶対に普段着ないような白のアンサンブルを、この日のために新調した。

着せ替え人形にでもなったような違和感はぬぐえないけれど、それでも私は、“男ウケ”のためにこの窮屈さを受け入れている。

それだけ今の私は、現状打破することに対して本気だった。


「志保さん、お写真で見るよりずっとお綺麗ですね」
「いえいえ、裕太さんこそおモテになるんじゃないですか?」
「そんなことないですよ」

結婚相談所に登録する男性なんて、自力で恋愛できないモテない男ばっかりだと思い込んでいたけど、裕太さんとの会話は案外楽しかった。

身長も175cmはあるし、慶應大学時代はフットサルサークルに所属していたという。見た目だって悪くない。

カウンセラーが「こんな人気会員からオファーが来るなんて、チャンスよ」と興奮していただけのことはある。

「いや~、志保さんみたいな女性と出会えるなんて結婚相談所に入会した甲斐がありましたよ」

それに、彼も同じように思ってくれているようだった。



自宅に戻った頃、カウンセラー経由でまた次も会いたいという連絡を受け取った。それを聞いて、私がまず最初に感じた気持ちは…安堵。

まるで何かの試験にクリアしたような気分。男性と会った感想としては適切じゃないような気がして戸惑いを覚えたけれど、これは恋愛ではなく婚活なのだ。

「婚活だもんね、こんなもんだよね。そうだよね」

そんなことを自分に言い聞かせながら、玄関でアンサンブルのボタンに手をかける。

脱ぎ捨てたそれを洗濯機に放り込み、下着姿のまま冷蔵庫に直行し冷えていたクラフトビールを一気にあおる。

どっと疲れた身体にぐんぐんと染み渡るその液体を、私は次から次へと流し込んでいった。

裕太との関係を進展させる志保に、心境の変化が…



「で、柏木裕太さんとは今後どうするんですか?」

予想通り、彼から仮交際の申し込みが来た。

今日はカウンセラーとオンラインでの面談。彼女は、「何が不満なの?」とでも言いたそうに、画面越しに私を見つめる。

その視線に居心地悪くなり、うつむいてしまう。まるで、先生に怒られている子供だ。

あれから、裕太さんとは3度食事に出かけた。最初に抱いた印象通り、裕太さんは婚活相手としてはかなり悪くない。完全に上から目線になってしまうが、別に付き合えないわけでもない。

可もなく不可もなく、そんな感じだった。

…だけど、この“可“がないということが、私にとっては大きな問題であることを感じ始めていたのだ。

自分一人でなんら問題なく生活していける。そんな状況において、ちっとも気持ちが動かない人間を自分の人生に招き入れることに、どうしても意味を見出せない。

今の会社も、友人も、歴代の彼氏もそう。お気に入りのヴィトンのモノグラムのバッグも、バンクシー展で買ったコースター1枚だって、全部自分が欲しいと思ったもの。

程度の差はあれ、どれも自分の心を動かしてきたもの。だから私は、それらを自分の人生に取り入れてきた。

けれど、裕太さんは私を不快にさせることはないけれど、そのぶん私の心を1ミリたりとも動かさない。


「もう一度聞くわよ、あなた再婚がしたくて結婚相談所に入会したのよね?」
「…はい」
「柏木さんはあなたの求める条件的にも、お人柄も素晴らしい。あなただって3回も会っているということは、それを理解しているということでしょう?

過去の失敗を踏まえて、次の幸せを掴もうとするのであれば…。ぜひ一度、彼と向き合ってみることを強くおすすめします」

パソコンのモニターに映し出されたカウンセラーの表情は、真剣そのもの。きっと本心でから助言してくれているのだろう。真っ当すぎるアドバイスだということも理解できる。

ふと、離婚する間際に元夫が放った言葉がフラッシュバックする。

『お前は、俺と別れたら誰にも相手になんてされないぞ』

その言葉に耳を貸す価値なんかない。自分がどうしたいかが一番大事だ。そんなことわかっている。…けれどどうしてもその言葉は、私を臆病にさせるのだった。

「…はい。では、仮交際をお受けする方向で…」

気づいたときには、そんな言葉をカウンセラーに伝えていた。

― 私だって、ちゃんと幸せになりたい。裕太さんを好きになる努力をしたい。前に進みたい。

そんな一心からの判断だった。

「ようやく、決断してくれたのね!よかったわ、じゃあ早速…」

カウンセラーの歓喜が画面越しにも伝わってくる。相変わらずぐいぐいと話をすすめるカウンセラーの言葉から要点だけかいつまみ、面談を終わらせた。

パソコンの画面を切ると、恐ろしいほど無表情な自分自身と目が合った。幸せになるための一歩を踏み出したというのに、このモノクロの自分からは喜びは感じられなかった。

そんな状況を知ってか知らずか…、スマホが着信を知らせる。

<ショーン:最後にもう1度だけ会えませんか?>

そこには、ショーンからの他人行儀な言葉が並んでいた。


▶前回:元カノへ衝動的にLINEした男。「俺のダメだったところ教えて」の質問への、ミもフタもない返答とは

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ショーンと志保が久々の再会。2人はついに、その関係性に向き合うのだが…

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