実話ホラー『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』 1980年代の米国で開かれたオカルト裁判の顛末

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 超常現象の研究家として知られた米国人夫婦ロレイン&エド・ウォーレンを主人公にした「死霊館」シリーズは、実録ホラー映画として人気が高い。ジェームズ・ワン監督が手掛けた『死霊館』(13)、『死霊館 エンフィールド事件』(16)は世界各国で大ヒットを記録した。ジェームズ・ワンがプロデュースに回ったシリーズ第3弾『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』(原題『THE CONJURING:THE DEVIL MADE ME DO IT』)は、1981年に起きた「アーニー・ジョンソン事件」が題材となっている。殺人を犯した青年が「悪魔が私にやらせた」と証言したことから、悪魔の存在が判決の行方を左右することになったオカルト裁判の顛末を描いている。

 映画の序盤、カトリック教会から派遣された神父らと共に、ウォーレン夫妻が悪魔祓いに挑むシーンが描かれる。米国コネチカット州の小さな町で暮らす少年・デヴィッドは悪魔に取り憑かれ、獣のような唸り声を発するようになっていた。悪魔は手ごわく、数々の怪奇現象を解決してきたエド(パトリック・ウィルソン)とロレイン(ベラ・ファーミガ)も苦戦を強いられる。デヴィッドの姉・デビーの婚約者である、心優しい青年・アーニー(ルアイリ・オコナー)はその様子を見かねて、思わず「悪魔よ、俺に取り憑け!」と叫んでしまう。

 悪魔祓いの一件以降、幼いデヴィッドの生活は平常に戻ったが、今度はアーニーの様子がおかしくなる。仕事中にたびたびトランス状態に陥ってしまうアーニー。デビーと暮らす自宅へと戻るが、大家のボーノをアーニーはナイフで刺し殺してしまった。しかも、22回もナイフを突き刺して。初めて起きた殺人事件に、小さな町は騒然となる。

 警察に逮捕されたアーニーは、事件のことをまるで覚えていない。アーニーの口から出た言葉は「悪魔が私にそれをさせた(The devil made me do it)」だった。このままでは、アーニーは殺人犯となってしまう。アーニーが悪魔憑き状態だったことを、ウォーレン夫妻は証言することを約束。アーニー側の弁護方針は決まった。米国の裁判では、被告人や証人は神に対して虚偽の発言をしないことを誓わせられる。法廷が神の存在を認めているのなら、神と敵対する悪魔もいるはず。悪魔の存在を証明するため、ウォーレン夫妻の調査が始まった。

 悪魔の存在が争点となったことで、「アーニー・ジョンソン事件」もしくは「悪魔が私にそれをさせた事件」は米国の裁判史に記録されている。1692年、植民地時代の米国マサチューセッツ州セイラム村で起きた「セイラム魔女裁判」を思わせる、オカルト裁判になりかねなかった。「セイラム魔女裁判」では、魔女の疑いをかけられた村民19人が処刑され、1人が拷問中に亡くなり、5人が獄中死を遂げた。今では集団ヒステリーが引き起こした不幸な裁判として語り継がれている。多くの犠牲者を出した「セイラム魔女裁判」から300年近くの歳月が流れたが、ウォーレン夫妻は悪魔の手からアーニーを救い出すことができるだろうか。

 アーニーの体に取り憑き、殺人を命じた悪魔の存在を突き止めることは、心霊現象に詳しいエドや霊能力のあるロレインでも難しい。だが、ウォーレン夫妻は諦めない。事件の発端となったデヴィッドが悪魔に取り憑かれることになった古い屋敷を調査し、屋敷の片隅に誰かが悪魔を呼び寄せた呪術アイテムがあることに気づく。さらに調べると、似たような不可解な殺人事件が他の町でも起きていた。その事件を担当する警官の見立ては、悪魔を崇拝するカルト信者が背後にいるのではないかというものだった。警官の推理が正しければ、何者かが悪魔を召喚し、計画殺人を行なったことになる。悪魔の行方を追っていたウォーレン夫妻は、悪魔よりも恐ろしい人間の悪意に触れてしまう。

 シリーズ第1作『死霊館』は、1970年代に起きた「ペロン一家事件」に加え、「セイラム魔女裁判」もモチーフにしていた。実際に起きた事件とフィクションとを巧みに織り交ぜてみせるところが、「死霊館」シリーズの人気の秘密だろう。本作は「死霊館」シリーズのスピンオフ作『ラ・ヨローナ~泣く女~』(19)をヒットさせたマイケル・チャベス監督が撮り、『エスター』(09)や「ウォーキング・デッド」シリーズの脚本家デイビッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリックがシナリオを担当している。デイビッド・レスリーは、事件当時の雑誌「ニューズウィーク」や「タイム」、地元の新聞をくまなくリサーチし、さらに事件当事者であるアーニーとデビーにも取材した上で、執筆したそうだ。

 実在のオカルト裁判を扱った映画に、「セイラム魔女裁判」を題材にしたダニエル・デイ=ルイス&ウィノナ・ライダー共演作『クルーシブル』(97)、悪魔祓いによって女子大生が死に至った事件を弁護士の視点から描いた『エミリー・ローズ』(07)などがある。『クルーシブル』では同調圧力によって、魔女狩りに異議を唱えた少数派の常識人たちが次々と処刑された。『エミリー・ローズ』で悪魔祓いを行なった神父は過失致死罪に問われ、その後のカトリック教会はエクソシスト(悪魔祓い師)の派遣に極めて慎重になったと言われている。

 日本でもオカルト裁判は起きている。特に有名なのは、地下鉄サリン事件と同じ1995年に発覚した「福島悪魔払い殺人事件」だ。女性祈祷師は「除霊」と称して、信者を太鼓のバチで叩き続け、6人を死に至らしめている。女性祈祷師の弁護人は「宗教的な確信から行なったもので、暴行や死という認識がなかった」と無罪を主張。対する検察側は、女性祈祷師と男性信者との間に肉体関係があり、人間関係や金銭関係のもつれから女性祈祷師は信者たちに暴行殺人を命じていたと告発した。

 さらに記憶に新しいものとして、2012年~2014年に起きた「声優のアイコ」による昏睡強盗事件をめぐる裁判も、オカルトめいたものとなった。コンビニの防犯カメラに映っていた「声優のアイコ」が美形だったことから、マスコミの注目が大いに集まった事件だった。

 被告は多重人格(解離性同一性障害)であり、日常生活は男性として過ごしていた被告が犯行時は「アイコ」という女性人格に変わり、知り合った男性を睡眠薬で眠らせ、金品を奪ったという事件だった。被告は犯行時の記憶がないことを主張。法廷には被告の無罪を訴える幼い男の子の人格「ゲンキくん」も現れ、裁判は混乱に陥った。さらに性同一性障害でもあった被告は、父親が不明のまま獄中出産を遂げている。謎づくしの裁判だった。

 映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』では、ウォーレン夫妻は裁判記録には残っていない一連の事件の黒幕を探り出す。物語のクライマックス、夫妻が見たものは人間が抱える深い心の闇だった。長年にわたる人間社会の因習の歪みがもたらした純然たる悪意と、固い信頼関係で結ばれた夫妻は対峙することになる。

 映画の終わりには、実際にあった「アーニー・ジョンソン事件」の裁判の結果も語られる。ウォーレン夫妻の証言は、はたして判決にどれだけの影響を与えたのだろうか。悪魔に苦しめられたアーニーだが、彼が刑務所から釈放されるのを婚約者デビーはずっと待っていた。背筋を凍らせる悪意が存在する一方、尊い愛も存在する。おそらく、愛の力がほんの少しだけ悪意の総量よりも上回っているから、今のところ人類は存続できているのではないだろうか。

 

『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』
監督/マイケル・チャベス 脚本・原案/デイビッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック 製作・原案/ジェームズ・ワン
出演/パトリック・ウィルソン、ベラ・ファーミガ、ルアイリ・オコナー、サラ・キャサリン・フック、ジュリアン・ヒリアード
配給/ワーナー・ブラザース映画 R15+ 10月1日(金)より全国ロードショー
(c)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
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  • 9/25 11:00
  • サイゾー

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