TEAM SHACHIにでんぱ組.inc、LADYBABYからリリバリまで…… 浅野尚志のロックでマルチすぎる英才っぷり|「偶像音楽 斯斯然然」第66回

TEAM SHACHIが9月3日にリリースした『浅野EP』は、音楽プロデューサー・浅野尚志が作詞、作曲、編曲を担当した楽曲を再レコーディングした企画盤。今回は、同作をはじめ、浅野が手がけたでんぱ組.incや虹のコンキスタドール、LADYBABY、Lily of the valleyの楽曲を分析しながら、同氏のサウンドの特異性や作家性を紐解く。

『偶像音楽 斯斯然然』

これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

TEAM SHACHIが9月3日にリリースした『浅野EP』。改名前のチームしゃちほこ時代から多くの楽曲を手掛けてきた、浅野尚志の作品“浅野曲”の中から選ばれた3曲を“TEAM SHACHIバージョン”として、新たにリアレンジ&リレコーディングされたものだ。来年4月の10周年に向け、“チームしゃちほことTEAM SHACHIの融合”を掲げる彼女たちの意欲作である。

チームしゃちほことTEAM SHACHIの融合と成長

名古屋城路上デビュー曲である「恋人はスナイパー」は、初めから現体制を暗示していたかのごとく、ブラスアレンジが映える楽曲。鍵盤によるオルガン寄りのアーシーなブラスサウンドが、70’sライクな香りを漂わせながらキャッチーなメロと相俟って、どこか古き良きアニソン風情を醸していた。ニューバージョンでは、生演奏により細かいパッセージのブラスフレーズに一気に惹き込まれる。そうした派手でエッジの利いたブラス民の狂騒が高鳴り、ゴリッとキメてくるベースがぐいぐいと引っ張りながら、心地よいグルーヴィなバンドサウンドを作り出している。メンバーの歌唱面での成長ぶりは言うまでもないのだが、聴き比べてみれば秋本帆華のキャラ立ちしたよく通る少女声の成長、いや深化というべきか、改めて感服せざるを得ない。

人気曲「抱きしめてアンセム」は、オリエンタルな響きを持つシンセポップから、スカコアっぽい要素が散りばめられグッと重心の低くなったバンドアンサンブルが猛り狂うロックチューンへと変貌している。捲し立てていくラップパートを含め、ライブさながらの臨場感で迫るボーカルには貫禄すら漂っている。原曲イメージを損なわず、グレードアップを図っている本作であるが、ファン投票によって選ばれた「乙女受験戦争」の仕上がりが秀逸で、日本のアニメがハリウッドで映画化されたような格段にスケールアップした世界観が広がっている。

少し懐かしいような歌謡チックな出だしから、ドラマティックなBメロ、そこから突き抜けていくサビの広がり方の気持ちよさが尋常ではない。間奏の孤高感あるトランペットのいななきから一気に駆け上がるギターに誘われるDメロへの流れ、そして大サビへのブレイクからの盛大なフィナーレ、大団円感にゾクゾクする。まさに“チームしゃちほことTEAM SHACHIの融合”というべき、リアレンジだろう。

そして新曲の「番狂わせてGODDESS」。TEAM SHACHIになってからは“ラウドポップ”を標榜しているように、独自のスタイルを切り拓いていく楽曲が多く、特にここ数年は「Rocket Queen feat. MCU」(2019年)や「JIBUNGOTO」(2020年)といった、これまでなかったような音楽探求が際立っていた。しかしながら同曲は、普遍的で日本歌謡的なメロディが印象的で、どこかヒーロー戦隊的なアッパーさを感じたりと、チームしゃちほこ時代のテイストを踏襲したような曲調である。ストロングスタイルのボーカルが炸裂しているものの、先述の秋本然り、伸びやかでしなやかな咲良菜緒であったり、歌い上げのディーヴァスタイルでもなければ、シャウトしていくような野太いロックスタイルでもないのに、唯一無二の強さを感じる不思議なボーカルが聴きどころでもある。女性が持つ華やかさと賑やかさ、そして少女のような可憐さをも併せ持つ、TEAM SHACHIのボーカリゼーションを十二分に堪能できる楽曲だ。

そんな楽曲縛りのEPをリリースするほどに、TEAM SHACHIからの絶対的信頼を得ている浅野尚志だが、氏はTEAM SHACHIのみならず、アイドルからシンガーソングライターまで多くのアーティスト楽曲を手掛けていることで、知られている。

1989年生まれで東京大学卒という経歴を持ち、ギターのみならずドラムからベースまですべての楽器を1人で演奏するというとんでもないマルチプレイヤーでもある。そのクリエイターとしての作風はひたすらにキャッチーでポップなメロディを得意としているものの、アレンジメントにおいてはやはりロックテイスト溢れるタイトなバンドサウンドが特徴的だ。かと思えば、幼少からピアノとバイオリンを学んできたという、筋金入りの英才的音楽家。実際に氏の代表的なワークスとして知られるロックバンド、NICO Touches the Wallsでは、プロデュースのほか、キーボードとバイオリンでサポートメンバーとしてライブに参加するなど、マルチすぎるプレイヤーとしてもその才覚を発揮している。

でんぱ組.incと虹のコンキスタドール楽曲に見るマルチな作家性

でんぱ組.incの楽曲も多く手掛けており、9月22日リリースの最新シングル「衝動的S/K/S/D」表題曲の編曲を担当。作曲は鬼才・玉屋2060%(Wienners)。

でんぱ組.inc「衝動的S/K/S/D」Music Video

演奏陣もすさまじく、ドラムにBABYMETAL神バンドの“青神様”こと青山英樹、ベースはT.M.RevolutionやTETSUYA(L'Arc~en~Ciel)でお馴染みのIKUO、ギターは櫻井哲夫BAND、今沢カゲロウグループ、T-SQUARE坂東慧によるBandoh Bandなど、名うてのグループに参加している気鋭のギタリスト菰口雄矢、という超絶技巧者の布陣である。玉屋のキャッチーでハチャメチャ楽曲と、相変わらずいい意味で何を歌っているのかわからないボーカルに、ハイパーテクニカルな演奏が絡みつく。これほどまでにやりたい放題ながら、でんぱ組感を損なわずにまとめた手腕は見事。これもやはりTEAM SHACHI同様、多くのでんぱ組楽曲を手掛けてきたからこそ為せる業だろう。

でんぱ組.inc「ギラメタスでんぱスターズ」(2018年)

作曲:前山田健一 編曲:浅野尚志

浅野の作家性は、玉屋のようにどのグループでも共通して、玉屋曲だとわかるような強烈な個性があるものだとは言いにくい。それだけ融通が効くオールラウンダーであるということでもあるのだが、単曲というよりも、それこそTEAM SHACHIやでんぱ組のように、長くグループに関わっていきながら個性を見出し、多くの楽曲を生み出していく、いわばトータルプロデュース的なスタイルなのである。であるから、“浅野が手掛けた楽曲”というよりも、“TEAM SHACHIの浅野曲”、“でんぱ組の浅野曲”という言い方の方がしっくりくる。グループの個性に寄り添ったオリジナリティを生み出しているのだ。

前回、虹のコンキスタドールの楽曲について多く触れた。

ドラムを軸としたオケのクオリティの高さに驚愕し、クレジットを確認したところ浅野の名前があって納得したわけだが、それだけ私的には、浅野ワークスによるグループイメージへの貢献度と信頼度が高い。

虹のコンキスタドール「美味いものファンクラブ」(2021年)

編曲・プログラミング・全楽器演奏:浅野尚志

虹コンにおける浅野の特色といえば、タイトで気持ちよいドラムももちろんだが、もう1つ、巧みなベースラインがある。ファンキーなハネたリズムから、勢いのあるバンドアンサブルの中での絶妙なグルーヴまで、リズム楽器でもありメロディ楽器でもあるベースの、歌やホーンセクションの合間を駆け巡るようなラインは耳で追っていくだけでも楽しいのである。

虹のコンキスタドール「愛をこころにサマーと数えよ」(2019年)

編曲・プログラミング・全楽器演奏:浅野尚志

アレンジャー、クリエイター、プロデューサーとしての才に加え、ギタリスト、ベーシスト、ドラマー……プレイヤーとしても、浅野のすごさを痛感できるはずだ。

LADYBABY 女性ボーカル+デスボイスの衝撃と作詞家としての才

そして、浅野アイドルワークスを語る上で欠かせないのは、LADYBABYだ。オーストラリア人の女装パフォーマー、レディベアードと金子理江、黒宮れいという美少女2人という衝撃的構図とともにくり出される、女性ボーカルとデスボイスを駆使する音楽ジャンル“Kawaii-Death”のインパクトたるやすさまじいものがあった。今では女性ボーカル+デスボイスは、ロックアイドルスタイルにおける1つのスタンダードにもなっているが、当時は斬新すぎた。

LADYBABY「ニッポン饅頭」(2015年)

作曲・編曲:浅野尚志

LADYBABY「アゲアゲマネー ~おちんぎん大作戦~」(2015年)

作詞・作曲・編曲:浅野尚志

本格的なメタルサウンドとデスボイス、でも歌詞はアイドルらしく可愛い他愛のない内容、という組み合わせも衝撃的だった。作詞家としての才覚も発揮している。

The Idol Formerly Known As LADYBABY「Easter Bunny」(2017年)

作曲・編曲・プログラミング・ギター・ベース:浅野尚志

ほかにも乙女新党や、さきどり発進局など、現在は活動していないながらも、耳の早いファンに高く評価されていたインディーズグループの楽曲も手掛けている。

ひたすらにキャッチーなメロとタイトで本格的なバンドサウンドがカッコいい、さきどり発進局「仮免デスティニー」(2018年)

こうした、楽曲とサウンドクオリティは言わずもがな、グループのポテンシャルを引き出すことにも長ける浅野が新たに手掛け、これまでのイメージとは大きく変化を遂げたグループがいる。Lily of the valley(リリバリ)である。

Lily of the valley グループの新たなポテンシャルと魅力を引き出した

Lily of the valley「誕生前夜」[OFFICIAL MV]

“「こんな今だからこそ、アイドルとして立ち上がる」新生Lily of the valley、新たな旅立ちの歌。”と掲げられた新曲「誕生前夜」のMVがアップされた時に恐れ慄いたら、浅野の楽曲であったことは、以前触れた。

以下抜粋。

やけに抜けのよいスネアと乱れ打たれるツーバス。言葉の羅列で畳み掛け、耳馴染みのよいサビメロとそこに絡む“ナイナイナイ”の掛け声……、2周目は言葉の羅列がハーフ気味の符割りでラップに置き換わっている。なんだこのキャッチーセンスが爆発するキラーチューンは!?と思ったら、“作曲・編曲:浅野尚志/作詞:只野菜摘”、LADYBABYなどでお馴染みの安心と信頼の制作コンビだった。

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「偶像音楽 斯斯然然」第57回

9月6日にリリースとなったEP『誕生前夜』(CDはシングル3形態でのリリース)収録5曲すべてが浅野の作曲&編曲。

Lily of the valley「rain melody」[OFFICIAL MV]

表題曲に加え、グループ名をもじった言葉遊びが軽快なポップナンバー「リリバリダ」、詞とメロとリズムの絡み方が絶妙な「生誕・再」は只野菜摘。ゆったりのびのびとした優しいメロディの「rain melody」、この煌びやかなアイドルには珍しいミドルテンポのUSロックテイストのナンバーはNOBEと、浅野作品には欠かせない作詞家2人とともに、これまでのリリバリとは異なる新たな魅力を放つ作品を作り上げた。本作を聴けば、新たなリリバリの魅力を知ることができるはずだ。

2021/9/25 12:00

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