「可愛くても、サラリーマンの娘はNG!」家柄で女を選ぶ27歳男の本音
婚活に奮闘する人たちは、初デートのことをこう呼ぶ。
「婚活アポ」
ある程度仲良くなるまで、男女の約束は仕事と同様"アポイントメント"なのだ。
そんな激しい婚活市場で、数撃ちゃ当たるとでも言わんばかりに、東奔西走する一人の女がいた。
失恋にも負けず、婚活うつにも負けず、アポ、アポ、アポの日々。
なぜって、元カレよりも素敵な人と結婚したいから……。
これは「真面目に努力すれば、結婚できる」そう信じて疑わない、早稲女・夏希の『婚活アポダイアリー』。
◆これまでのあらすじ
アプリで出会った裕也とデートを重ねるうちに、彼への気持ちが大きくなっていく夏希。
そんなある日、3年半前に別れた元カレ・颯太から連絡がきて会うことに。その後、颯太と次のデートの約束をするが…。
▶前回:「元サヤもあり?」3年ぶりに元彼と再会して、27歳女が思わずドキッとした理由
2人の男性から、同じ日にデートに誘われて…
― 裕也と颯太くん。同時にデートに誘われるなんて。もしかして私、モテ期?
颯太くんとのデートの帰り道に裕也からきたLINEを見て、私は思わず「えっ」と小さく叫んだ。
裕也が打診した日が、颯太くんから誘われた日に重なっていたからだ。
『夏希:お誘いありがとう、嬉しい!ただ、来週の土曜は先約があって…。別の日でも大丈夫?』
すぐに裕也に返信を打ったが、たとえ、颯太くんとの約束が後であっても、裕也との予定をずらしていただろう。
大好きだった元カレ・颯太くんからのお誘いなんだもの。
『裕也:そっか、残念。じゃあ、その翌週の土曜はどう?』
『夏希:そこなら大丈夫!』
デートの日程はすぐに決まりホッとする。
『夏希:裕也くんは今日なにしてたの?』
『裕也:ワクチン2回目の副反応で熱出ちゃって、いつにも増して引きこもってた(笑)。もうだいぶ熱は引いたけど!』
『夏希:大丈夫?私もワクチン打ったあと、寝込んだよ。お大事にね!』
緊張して臨んだ颯太くんとの時間の後だったからか、裕也とのLINEでリラックスする。
しばらくやりとりしていると、私はふと“あること”が気になった。
― そういえば、裕也とは最近ずっとLINEで連絡を取り合ってたけど、彼ってまだアプリを続けてるのかな?
裕也のマッチングアプリへのログイン状況が気になり、私はアプリを起動した。
「えっ…!うそでしょ…」
久しぶりに目にした裕也のプロフィールページ。そこに表示されていたのは…
彼のプロフィールページにアクセスしてみて、私は驚いた。
最終ログインが『2週間前』と表示されていたからだ。つまり、彼はこの2週間、このアプリを一切使用していないということになる。
2週間前といえば、ちょうど私との3回目のデートの時。
― もしかして、私に絞り込むことにしたってこと?それとも、沙里奈とよりを戻したとか?
そう思うと、急に裕也の元カノ・沙里奈との進捗が気になり始めた。
― そういえば、沙里奈ってインフルエンサーなのよね。裕也のこと、何か投稿してたりして…。
私は居ても立ってもいられず、Instagramを開く。
フルネームで検索すると、すぐに沙里奈のアカウントがヒットした。ちょうどストーリーズを投稿していたので、丸い枠で囲まれたプロフィール写真をタップする。
ちょうど1時間前に投稿されたその画像には、『@ブルーノート』と店内の写真と共に『懐かしい場所♡』という文言が添えられている。
― もしかして、裕也と?
骨董通りのブルーノートといえば、裕也が沙里奈と付き合っていた時に何度も一緒に行った、と言っていた場所だ。
「これは、気を抜いてちゃいられないわ…」
電車の中なのに、思わず声が出てしまう。
さっきまで、「2人の男から食事に誘われちゃった♡」なんて浮かれていたけど、一気に現実に引き戻される。
2件のデートの予定が入っているだけで、付き合っているわけでもなんでもない。
颯太くんはただの気まぐれかもしれないし、裕也だって沙里奈と元サヤなんてことになったら、私の婚活はまた一からやり直しだ。
― もう少し、アポを増やさなくちゃ。
私は慌てて、アプリのメッセージ画面をタップした。
これまでメッセージだけを続けていて、お互いに誘われ待ちのような感じでアポにまで至っていない人たち。
こうなったら待ってばかりもいられない。
自分からアポを取り付けようと腹をくくり、上から順にどんどんメッセージを送っていく。
『ところで、もしよかったらご都合のいい時にお会いしませんか?』
4~5人にメッセージを送った数分後。そのうちの1人から、さっそく返信があった。
しかし、その文面を見てギョッとする。
新規アポを打診した夏希。相手からの返答は…?
『ありがとうございます、とても嬉しいです。
でも、ちょうど今日このアプリで知り合った方とお付き合いすることになりました。
なので大変残念なのですが、お会いすることはできません』
丁寧な文面からは彼の誠実さが感じられ、会ったこともない相手だが、惜しい気持ちになる。
そしてほどなくして『退会』と表示されたプロフィール画像を目にし、彼が婚活市場から消えたことを実感した。
当たり前だけど、「好きになった人と幸せになる」という決意を固めた人から、このマーケットから去っていくのだ。
― 私、一体何やってるんだろう。
次々とアポを取り付けている自分の行為が急にむなしくなり、スマホを持ったままぼーっと考えながら、電車に揺られていた。
元カレと2回目のディナー
颯太くんとの約束の土曜日。
私はホテル椿山荘東京内のレストラン『イル・テアトロ』で彼と向かい合っていた。
重厚感あふれる内装に、ライトアップされた美しい日本庭園。こんな素敵な空間で颯太くんと食事するなんて、つい数週間前まで想像すらしなかった。
「素敵なお店を予約してくれて、ありがとう」
「こちらこそ。喜んでもらえてうれしいよ」
薄いブルーのジャケットに白シャツ、腕には、IWCの濃紺のパイロット・ウォッチが光る颯太くんは、いつにも増して格好いい。
対する私も今日は気合を入れて、ランバンのワンピースにフェラガモのハイヒールを合わせてきた。
とにかく一旦は、アプリでの新規アポはお休みし、颯太くんと裕也、それぞれのデートに集中しようと決めたのだ。
この1週間で起きたことを互いに話し終えると、私は気になっていたことを、思い切って尋ねることにした。
「ねえ、私と別れて付き合った女の子とは、どうして別れたの?」
私の質問に、颯太くんは一瞬沈黙し、その後、気まずそうに口を開いた。
「好きだったんだけど、親に紹介したら反対されてさ。夏希も、俺の実家のこと、特に、母親がどういう人か知ってるでしょ?」
「うん、知ってるけど」
彼の言葉に、私はうなずいた。
地元の老舗和菓子店で生まれ育った彼の母親は、本物のお嬢様だ。
家庭科に力を入れた学校で幼稚園から大学まで一貫教育を受けたため、料理に裁縫はお手のもので、書道、茶道、華道、お琴に日本舞踊もたしなむザ・やまとなでしこ。
平日は働く夫を慎ましく支え、休日はお茶園の取引先の方々や従業員を広大な邸宅に招いては、床の間に自分で活けた花を飾り、豪華なご馳走を振る舞う。そして食後には、自らお抹茶をたてるのだという。
「彼女も料理教室に通ったり、頑張ってくれてはいたけど…。母親には、サラリーマン家庭とは家が釣り合わないって言われて。
もちろん、彼女にはそんなこと伝えてないけど、そこからなんとなく関係がギクシャクし始めて、別れたんだ」
「そっか…」
それを聞いて、私は少し複雑な気持ちになる。
颯太くんのお母さんの話は昔よく聞いていたけれど、とにかく「完璧なお母さん」という印象だった。
憧れにも似た感情を抱いていたけど、彼女の足切りテストがここまで厳しいものだとは思わなかった。
それに、母親の一存で恋人と別れてしまう颯太くんの方もどうなのかな、と初めて彼に対して不信感を抱いたのだ。
「あのさ、夏希」
そこまで喋って、颯太くんは、改まった様子で私に向き直る。
「夏希とやり直せたらって、ずっと思ってたんだ」
「えっ…」
私は思わず声を上げた。別れて以来、颯太くんが私のことを考えていくれていたなんて想像もしてなかった。
「この前、美春と話して、夏希がいまフリーだって聞いて、思い切って連絡したんだ」
颯太くんの瞳が、私をまっすぐとらえる。
私は息を呑んで、次の言葉を待った。
「俺と、結婚を前提に、もう一度付き合ってください」
▶前回:「元サヤもあり?」3年ぶりに元彼と再会して、27歳女が思わずドキッとした理由
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次回、最終回。颯太からの告白に、夏希が出した答えは…