尊敬する恩師から“怪し〜いサプリ”をすすめられア然、なんでこんなことに
飲むだけでやせるサプリや、何十万円もするサプリなど、後を立たない怪しいサプリビジネス。大抵の人は胡散臭いと気付くものですが、一方で信じて購入してしまう人がいるのも事実。なかには、よかれと知人や友人にサプリメントをおすすめする、ありがた迷惑な人も存在するようです。
今回は、音大に勤める助教授と、尊敬する教授との間で起こった、想定外なサプリトラブルを紹介します。
◆教授のお気に入りの生徒
足柄瑞江さん(仮名・32歳)は、母校の音大時代の師匠にあたる恩田義男教授(仮名・62歳)の研究室に勤務しているそう。瑞江さんは、助教になった経緯を語ります。
「自分で言うのもなんですが、私は恩田教授の門下生の中でも成績が良い方で、コンクールでも入賞経験があるせいか、結構先生には気に入られていたと思います。大学院を卒業するときに恩田先生に就職の相談に行ったのですが、私にでも勤まる会社を紹介してくれると思いきや、『僕の研究室で助教で働いてみないか?』と言われました」
◆師として尊敬する教授
コロナが流行する前は、各地で開催されるリサイタルに瑞江さんも頻繁に同行していました。
「また恩田先生に同行するんだ!」と大学の友人に瑞江さんが言うたびに友人からのコメントは決まって一つ。
「ねえねえ瑞江、ホテルとかで口説かれたりしたいの? なんか同じホテルにいつも滞在するって言ってたし…」
「全然平気。恩田教授は奥様一筋の真面目な人なんだ。『ここは家内と訪れたことがある』とか、全く私なんか眼中にない感じ」
瑞江さんが友人に力説するように、恩田先生は全く心配ご無用的な男性なのだそうです。
◆教授からの怪しい誘いに困惑
特に問題もなく平凡な助教勤務が続いていた瑞江さんですが、ある日恩田教授からお願いごとを言われます。
「その日はヨガ教室を勤務時間後に予約していたので、いつもより早めに研究室を出ようとしたんです。そしたらいつもは無口な恩田教授が話だしたんです」
「足柄さん、これとても良いから是非お友達にも紹介してみてもらえますか?」
いつも以上に穏やかで少しハキハキとした声で恩田教授は語ります。
「え? これ何ですか?」 瑞江さんはびっくりしたように質問します。
「音感が向上して演奏が上達するサプリメントなんです」
◆怪しすぎるサプリの説明に困惑
恩田教授は説明を続けます。
「このサプリはね、今までの音感上達を謳(うた)ったものとワケが違って、感覚神経をつかさどる間脳に直接作用する有効成分が含まれているそうなんだよ。耳は感覚器官だから、根幹の部分を鍛えられるんだよ。だから音感がすごく良くなって、町の雑踏ですら、音階に聞こえるようになるんだよ。僕の生徒さんもこれで難関を突破しているんだ」
瑞江さんは、いま目の前で何おこっているのか正直すぐには理解できなかったそう。
「今までの恩とか義理とかいろいろが頭の中をぐるぐる駆け巡って、結局友達にも紹介しますと言っちゃったんです。なんかとっても気分が重くなったのを覚えています」
◆悪い人ではないけど気が重い
その後、いつもの日々が過ぎていったそうですが、以前と変わったのは音楽とサプリメントの話が半々になったこと、そして恩田教授に対する感情や見方が少しずつ変わっていったといいます。
「もちろん今でも恩田教授は立派な音楽家で、私の師匠には代わりありません。でも、なんかあれ以来仕事が億劫になったかもしれません。恩田教授自身も後進育成に熱心な人であり、悪い考えを持ってやっているわけではないのでね」
瑞江さんは落胆気味でそう語ります。
◆転職を考えるようになった
「これって、ネズミ講なんですかね? それを考えるとやっぱり怖いですし、かと言って拒否したら恩田先生を裏切ることになりそうでそれも嫌なんですよね。あー、これからどうしよう…」と、少し諦め気味の瑞江さん。転職も視野に入れているといいます。
親しい間柄や尊敬しているが故、本音を言えないことってありますよね。とはいえ、尊敬していた恩師が怪しいサンプリメントを布教する迷惑おじさんになっていく様子を見るのはつらいものがありそうです。果たして教授の目が覚めるの日はくるのでしょうか。
―シリーズ「私の周りの迷惑○○」―
<文/片桐麗音>