「奨学金借りてたなんて、かわいそう」元苦学生の同期をバカにしていたら、上司に呼び出され…

キャリアが欲しい。名声を得たい。今よりもっとレベルアップしたい。

尽きることのない欲望は、競争の激しい外資系企業のオンナたちに必要不可欠なもの。

しかし、ひとつ扱いを間違えると身を滅ぼしかねないのも、また欲望の持つ一面なのだ。

貪欲に高みを目指す、ハイスペックな外資系オンナたち。

その強さと、身を灼くほどの上昇志向を、あなたは今日目撃する──

▶前回:「なんでできないの!」会議室に響くヒステリックな声。”使えない部下”ばかりを持った女の誤算とは

File10. 玲奈(36)外資系コンサルティング会社 「同期トップで昇進してみせる」聖心女子大卒のコンサル女子が持つ野望


ー 私は、この会社では特別な存在…。

そう信じて、キャリアを積んできた。

品川区で生まれ育ち、小学校から大学まで聖心女子学院。

会社を複数経営する両親のもと何不自由なく暮らす、絵に描いたように恵まれた環境。

成績も良く、大学を外部受験することも勧められていた玲奈が、それでも聖心女子大学を最終学歴に選んだ理由…。

それは、聖心が大好きで、聖心で一貫して学ぶことを誇りに思っていたからだった。

真面目な玲奈は大学入学後も成績をキープし、聖心の厳しい英語授業の賜物で就職活動時にはTOEICも900点を超えるようになっていた。

そして、3年次の終わりに迎えた就職活動。

大手企業の事務職などを目指す同級生が多い中、玲奈が目指したのはコンサルティング業界だった。

― 高偏差値大学ばかりが集まるコンサル就活では、「聖心女子大卒」は異質…というより、完全に不利よね。

そう分かってはいたものの、必死の努力が実を結んだのだろう。

リーマンショック前の好景気も重なり、玲奈は無事、厳しい状況をはね除けて念願の大手外資系コンサルティング会社への内定を手にしたのだった。



「やっぱり、女子大卒は私だけ…かぁ」

入社式を迎え、同期の出身大学を確認した玲奈は、小さな声でそうつぶやいた。

100人ほどいる同期の多くが、国立早慶と海外の大学出身者。

「聖心女子大卒」という肩書が極めて異例なことは、誰からみても明らかだった。

「ずっとコンサル業界で働きたいと思ってたけど、私、本当に大丈夫かしら…」

初めはそんなふうに不安を感じていた玲奈だったが、その心配は全くの余計な心配だった。

「聖心卒」という、一見異質な肩書。その異質さこそが、国立早慶卒がゴロゴロする中でかえって際立ち、玲奈を唯一無二の存在として確立させたのだ。

「少々難しい案件でも、玲奈さんを通せば上層部を納得させられる」

「玲奈さんにプロジェクトを任せれば何とかしてくれるよね」

真面目さと、お嬢様特有の物怖じのなさ。さらには清楚なルックスで、玲奈は入社早々に、パートナーはじめ上層部のお気に入りとなった。

次々と重要案件にアサインされるようになり、意外にも同期でもトップのスピードで昇格。

― 私は特別。

社内で評判となり、存在感や発言力を強めた玲奈がそんなふうに思ってしまうのは、無理のないことだったのだ。

玲奈の心をざわつかせる“正反対の人種”真実子の存在

玲奈は久しぶりにクライアント先から丸の内のオフィスに戻っていた。

担当する案件が多岐にわたり、都内にある複数のクライアント先を行き来する毎日が続いていたのだ。

最後に自社オフィスに戻ったのはGW明けだったから、もう4ヶ月以上も留守にしていたことになる。

今回帰社したのは、社内で立ち上げられた「人材多様性の推進活動」のキックオフミーティングに出席するためだ。

この推進活動は同期数名が立ち上げに参加していた。しかし、主導者に指名されているのは玲奈。そしてもう1人、同期の真実子だ。

広いオフィスの中でさっそく真実子の姿を見つけた玲奈は、声を掛ける。

「真実子さんお久しぶり!今回のプロジェクトどうぞよろしくね」

「えぇ…こちらこそ」

一緒にやるからには、気持ちよくすすめたい。そう思ってとびきりの笑顔を向けた玲奈だったが、真実子から返ってきたのは素っ気ない一言だけだった。

表情も変えず、最低限の返事だけ済ませると、真実子はさっさと玲奈をその場に残して去ってしまう。

そんな真実子の後ろ姿を見送りながら、玲奈は思わずため息を漏らした。

― はぁ…。ホント真実子さんって、嫌な感じ…。


玲奈は昔から、この真実子のことが苦手だった。

関東圏の県立でトップの女子高から、早稲田大学政治経済学部へ。新卒研修の自己紹介では、「学費は奨学金。学生時代は足りない仕送りを補うために、塾講師のアルバイトを複数掛け持ちしていた」なんて話をしていた。

― 今時、昔の小説に出てくるようなそんな苦学生っているのね…

自己紹介を聞いた時、何不自由なく育った玲奈が抱いた感情は、純粋な驚きだった。

自分とは、生きている世界も人種も違う人。

それこそが、玲奈の真実子に対する第一印象だったのだ。


今回、そんな玲奈と真実子が一緒に進めることになった「人材多様性の推進活動」は、社内外・グローバルへのアピールのために上層部が力を入れている活動だ。

玲奈には真実子への小さな不満はあるものの、活動は順調。社長含めた上層部の思惑通り、ビジネス誌を主に様々なメディアからの取材申し込みが入っていた。

そして、ある日。

「あの新聞社のカンファレンスで、うちから登壇者出してくれと相談が来たよ」

2人は、プロジェクトの担当のパートナーからこう連絡を受けた。

新聞社主催のビジネスカンファレンスで、「人材の多様性」をテーマにしたパネルディスカッションが開かれることになり、プロジェクトから1名出すことになったのだという。

― 会社での存在感や影響力からしても、きっと私が指名されるに違いないわ。

当たり前のことすぎて、玲奈は事前に確認しようとも思わなかった。

しかし、後日パートナーからのメールを見た玲奈は、目を疑った。

「社内で協議の結果、パネルディスカッションの登壇者には、山下真実子さんにお願いすることになりました…」

それは、登壇者が真実子に決定したことを知らせる内容だったのだ。

― なぜ?新聞社主催のカンファレンスで登壇するのが、なぜ私ではなく真実子さんなの?!

何度考えても、理解できない。

この会社で、自分は特別な存在なはず。

カンファレンスの登壇者も、絶対に真実子よりも自分が指名されるべきなのだ。

登壇者が真実子であることに全く納得できない玲奈は、怒りに任せてメールを書き始める。

宛先は、担当パートナー。

登壇者は絶対自分の方が相応しいことを伝えるために、ミーティングを依頼するメールを送っていた。



翌日。メールを受けた担当パートナーは、早速玲奈との時間をとってくれた。

「お疲れ様です。カンファレンスの登壇者の件ですが…なぜ私ではなく真実子さんが登壇者に選ばれたのでしょうか?」

一夜明けても怒りと疑問のおさまらない玲奈は、問い詰めるようにパートナーに質問を投げかける。

「私は社内でのプレゼンスもありますし、外に向けて発信することも適していると思っています」

食い入るように迫る玲奈に、パートナーは椅子を傾けながらこう言った。

「確かに玲奈さんもよくやってくれた。しかし、真実子さんは企画段階から頑張ってくれたんだ。あと…」

「あと…?」

言いにくそうにするパートナーを前に、玲奈は姿勢を正す。

しかし、パートナーが言った言葉は…。

玲奈にとって、あまりにも残酷な一言だったのだ。

登壇者が真実子になった衝撃の理由に、玲奈は…

「あのカンファレンスでは、登壇者の学歴を含めた経歴を載せることになっている。こういう言い方は良くないかもしれないけどね、コンサルティング会社からの登壇者としては、『聖心女子大学卒』より『早稲田大学卒』に登壇してほしいんだ」

重い鈍器で殴られたような衝撃が、玲奈を襲った。

「そんな…」

怒りのあまり、涙が出てくる。

”聖心卒のコンサル”であることは、自分のアイデンティティだ。

それを否定されるのは、玲奈自身を否定されるのと同じことだった。

失意のうちにパートナーブースから執務スペースに戻った玲奈は、少し離れた席に真実子がいるのに気が付いた。

悲しみと怒りの感情が、再び玲奈の胸に押し寄せる。

― 真実子。あの人が、学歴をアピールすることを提案したに決まってる。私を出し抜くために…!

気が付くと玲奈はいてもたってもいられず、真実子の席へと詰め寄り、責め始めるのだった。

「真実子さん、カンファレンスに登壇することになったんですってね」

「えぇ」

相変わらず真実子は素っ気ないが、いつもなら許せるこの素っ気なさが今日ばかりは玲奈の苛立ちを増幅させる。

玲奈は、少し意地悪にこう言った。

「ねぇ、なんてパートナーにアピールしたの?教えてよ」

すると真実子は、突然表情を変えたかと思うと、PCをバタンと閉じて立ち上がる。

「は?この活動、企画からずっと推進したのは私よ。登壇の件だって誰にも何のアピールもしていないわ。パートナーにアピールして登壇者になろうとしたのは、あなたの方じゃないの?」

そう言い切る真実子の視線は、真っ直ぐに玲奈に向けられている。

ほとんど話をしない人間にいきなり反撃に出られた玲奈は、思わず後ずさりするしかなかった。

「この際だから言わせてもらうわ。たかが偏差値55の聖心卒のくせに、上に可愛がられて『私は特別』とばかりに振舞うあなたが、昔から大嫌いだった。

同期と仲良くせずに、上にばかり取り入っていたわよね?今回もどうせ、上層部が自分を選んでくれるって思ったんでしょう?私含めた同期が仕立てたものに乗っかろうなんて甘いわよ!」

玲奈は、真実子が苦手だった。

しかし、それは真実子の方も同じ。苦手どころか、“聖心卒のお嬢様”の看板をぶら下げて上層部にチヤホヤされる玲奈が、嫌いで嫌いで仕方なかったのだ。


にわかに挑戦的な顔になった真実子はこう続ける。

「ねぇ、この活動のテーマ理解してる?人材多様性よ」

― わかっているわよ、この人は何言っているのかしら?

質問の意図を理解できず玲奈が答えないでいると、真実子がさらに言った。

「あなたって、『人材多様性』という言葉1つとってもどうせ資料を教科書的になぞって知った気になっているだけでしょ?

私は違うわ。地方の公立育ちで色んな家庭環境の人を見てきたし、私なりに想いをもってこのプロジェクトに取り組んでいる。

あなた、地方の給与水準でできる生活知ってる?」

「……」

玲奈は答えられなかった。

「どうせ知らないでしょう?地方だけじゃなく東京にだっていろんな人がいるのに、そういうことを何も知らないで『人材多様性』を語ろうとか笑わせないでくれる?」

こう言うと席に着き、PCを再度広げて仕事を進めた。その姿は、まるで隣に立っている玲奈など存在が見えないかのようだった。



玲奈は席に戻ったものの、あまりの出来事にショックで仕事が手につかない。

もとは玲奈が吹っ掛けた小さい喧嘩だった。

しかし、受けて立った真実子の目には長年の憎悪が表れ、玲奈は何も言い返すことができなかった。

玲奈は自他ともに認める“特別な社員”だった。

上層部のランチによく誘ってもらっていたし、他愛のない会話の中でも親しみを持って接してもらっていたし、重要案件にもかなりの頻度でアサインしてもらっていた。

しかし、それを見て周りはどう思っていたのだろう。

常に社内のスポットライトを浴びてきた玲奈の周りには、きっと多くの影があったに違いない。

とりわけ同じスタートラインに立っていたはずの同期にとっては、同じくらいの成果を上げても社内評価を玲奈がかっさらってしまえば、面白くないと思うのは想像にたやすい。

玲奈は遠くに目をやりながら、考えを巡らせる。

― 周りはどうして私を “特別扱い”してくれたのかしら…

その答えは明白だった。

― 私が、“聖心卒のお嬢様”だったから。

しかしそれは、玲奈の実力というよりも、ただの物珍しい“イロモノ枠”に過ぎなかった。

もし玲奈が聖心卒ではなかったら、ここまで特別扱いされることはなかっただろう。

そう考えていくうちに、玲奈は気が付いた。

「そっか…結局私には、周りを納得させられるだけの実力がなかったんだわ」

“聖心卒”は自分にとって大切なアイデンティティだ。

しかし、少なくとも仕事においては、その“聖心卒”という看板を外さないといけない時期にきた。

― “聖心卒のお嬢様”から、“真に実力をもった1社員”にならないといけないんだわ。もう「聖心卒」から、卒業しないといけない時がやってきたのね…。

その時、真実子が同期数名と財布を持って笑いながらエレベーターホールに向かう姿が見えた。

先ほどまでの剣幕はどこに行ったのか。あんな笑顔の真実子や同期の姿など、玲奈の前では見せることはないだろう。

特別扱いされることなく、実力を磨き続けた真実子たち。同期である彼らと今の自分は、どれほどの差が開いているのだろう。

しかし、すべてを得られることなど世の中にはない。

何かを捨てないと、得られないものがある。

それはつまり、聖心卒という看板を捨てた自分は、これから何かを手に入れるということなのだ。

玲奈は1人財布を持って、執務スペースの自販機に向かう。

「絶対、実力でも”特別”になってみせる」

そう決意した玲奈は、真実子たちが向かったのとは違った方向へと、力強く、まっすぐに歩き始めるのだった。



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「こんな女性になりたい!」と思っていた憧れの人のキャリアは今、見るも無残に…

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