「絶対に失敗できない!」勝負デートの前日に、男がコッソリ仕込んだ“完璧な計画”とは?

「相手にとって完璧な人」でありたい-。

恋をすると、本当の姿をつい隠してしまうことはありませんか。

もっと好かれようとして、自分のスペックを盛ったことはありませんか。

これは、恋するあまり理想の恋人を演じてしまう“背伸び恋愛”の物語。

◆これまでのあらすじ

東京に暮らすズボラ女子・芹奈と伊勢志摩でワーケーション中の自信のない男・瑛太は、東京で初対面。初デートの終盤、瑛太は芹奈に告白。初のリアルデートは成功したと思いきや、実は互いにダメな部分を隠したままでいて…。

▶前回:待望のイケメンと初デート!完璧なプランに女が失望した“ひとつの理由”とは


「帰りたくない」

芹奈の控えめな声に、瑛太は足を止めた。

「本当に?」

瑛太が聞くと、芹奈はコクリとうなずいた。

「じゃあ…」と言いかけて、これからどうするか頭を高速回転させる。

― 付き合った日にすぐ部屋に誘うなんて、ちょっと早すぎやしないか?だけど、もうお店は閉まっているし。かといってホテルに誘うもアレだし…。

そうして逡巡しながら、彼は口を開いた。

「じゃあ、うちでもう少し飲みますか…?」

その言葉に、芹奈はとても嬉しそうに頷いた。

竹芝から、彼の自宅がある品川へタクシーで移動する。数十分で到着したマンションのエントランスを見て、芹奈は大きな目をさらに見開いた。

「瑛太さん、こんなところに住んでるんですか?」

うわずった声を出す彼女と一緒にエレベーターに乗り、瑛太は37階のボタンを押す。「高級ホテルみたい…」と、キョロキョロとしながら声を漏らす芹奈。

「ドキドキしちゃいます」

胸に手を当てて話す芹奈を見て、瑛太は心の中でホッと胸をなでおろした。

― ああ。昨日、準備しておいてよかったな。

瑛太の“準備”とは一体…?

東京に戻ってきたばかりの昨日。

瑛太はホームクリーニングサービスを使って、部屋中をピカピカにしてもらっていたのだ。

しばらくクローゼットに入っていたタオル類や部屋着、戸棚に眠ったままになっていた食器類も、綺麗に洗い上げて収納してもらった。

部屋を綺麗にしたのは、芹奈が来るかもしれないと思っていたからではない。

瑛太は元々、東京に住んでいたころから、週に3回ルームクリーニングを依頼していた。

今はホテル暮らしだから困っていないが、瑛太は掃除・洗濯・料理が大の苦手なのである。その苦手な作業を、料金を払えば誰かがやってくれるのなら、そこにはお金を惜しまない。

…それは、ルームクリーニングに限った話ではない。


実は今日、瑛太が彼女をエスコートしたデートコースは、自分が考えたものではない。

デートプランニングサービスを利用したのだ。

『東京都心で、予算8万くらい』などの条件を伝えると、“デートプランニングのスペシャリスト”がデートコースを組み上げるサービスがあるのだ。

依頼したデートプランは、メールで送られてくる。瑛太は昨日、そのプラン通りのデートコースを1人でたどった。方向音痴なので、移動に手間取らないために下見をしたのだ。

1回のデートプランにつき4,500円。絶妙な値段設定だと彼は思った。

いわゆる専門家が、最高のプランを用意してくれる。絶対失敗できない今日のような日であれば、安いくらいだ。

サービスを使ったおかげで、瑛太は初デートで堂々と彼女をエスコートすることができた。

もし自分で考えたプランだったら、楽しんでもらえているか気になってソワソワしてしまう。すると、芹奈との会話もままならなかっただろう。

そして、彼が今日着ているシャツとパンツ。シンプルなものだが、これもスペシャリストの力を借りて選んだものだ。

昨日、デートコースの下見を終えたあとに、プロのスタイリストと一緒に服を買いに行った。

ネットで依頼したスタイリストのアドバイス料は、3時間で15,000円。

これも、ファッションにまったく自信がない瑛太にとって、十分払う価値のあるものだった。

やがて、エレベーターが37階に止まり、ドアが開く。2人は、廊下を歩いて瑛太の部屋に入った。

完璧な瑛太の部屋に、芹奈の反応は…?

「す、すっごい綺麗…」

「そう?」とだけ瑛太は言って、芹奈にスリッパを差し出す。

「洗面台、使っていいよ。ここのタオル使ってね」

ふわふわのタオルが綺麗に積まれた棚を指さすと、芹奈は感心したように言うのだった。

「瑛太さんって、綺麗好きなのね。ここ、モデルハウスみたい」

「どうかな?しばらく向こうで暮らしてたから、生活感がないだけだよ。芹奈ちゃんの家だって綺麗でしょう?」

瑛太は、そう言い残して逃げるようにキッチンに移動し、白ワインのボトルを出す。

そして、戸棚を開け閉めしてワイングラスを探した。自分の家なのに自分で片付けをしないから、どこに何があるのかわからないことが瑛太にはよくある。

ようやく見つけたグラスにワインを注ぎ、芹奈とソファに腰掛けた。


「瑛太さん。今日、本当に楽しかったわ」

「こちらこそ。ありがとう」

グラスを軽く合わせる。

「私、こんなに最高のデート初めてだった。色々考えてくれてありがとうね」

芹奈の目元が、瑛太を見て嬉しそうに弧を描く。

「よかった」

― よかった。ありがとう。僕の代わりに考えてくれた人。

その瞬間、芹奈の小さな頭が肩にぽんと乗ってきた。ふわっとシャンプーのいい香りがする。

― 幸せだな。

そう思う瑛太だが、まるでカンニングをして100点を取るような後ろめたい気持ちとなってしまった。不安をかき消すように、ワインを勢いよくあおる。

便利なサービスを使えば、その道のプロが自分の代わりに色々なことをしてくれる。自分がどんなに努力したところで到底できない高いクオリティーのものが提供されるのだ。

彼はそれを、実りあるお金の使い方だと思っている。

しかし、そのようなお金の使い方をするたびに、瑛太はどこか、自分がひどく無能な男であるような気持ちに苛まれるのだった。

頭からつま先まで一点の曇りもない美しい芹奈を見て、瑛太はたまらなく不安になる。

― 大丈夫か?これからも、今日みたいにちゃんとできるか?

瑛太は自問した。

― これからも毎度、デートのプランニングを外注して、前日に下見をして、洋服も選んでもらう…?

そんなことはきっと無理だ、と彼は思う。このように無理をして付き合うなんて、何か違うような気がしたのだ。

本当の恋愛というのはもっと自由で、どんな自分でも愛してくれるという確信があるからこそ、包み隠さずすべてをさらけ出せるというものではないか。

眉間に軽くシワを寄せながら瑛太が考えていると、芹奈が話しかける。

「ねえ、瑛太」

…初めて名前を呼び捨てされたことに、一瞬で顔がほころぶ。

「ん?」

「瑛太の彼女になるなんて、夢みたいだなあ」

「…俺の方がそう思ってるよ」

「私の方が思ってるよ。だって、こんな完璧な人いないもん」

うっとりと、頬を赤らめて顔を覗き込んでくる彼女。

― 違うんだよ、芹奈ちゃん。芹奈ちゃんは勘違いしててね、本当の俺は、デートプランを決められないし、方向音痴だし、ファッションセンスも皆無だし…。

そう言ってしまえば、楽になるだろうと思った。

しかし、いっそのこと打ち明けて楽になってしまいたいという気持ちと、この夢のような状況を失いたくない気持ちを天秤にかけ、後者が勝つ。

吸い寄せられるように彼女の頭の上に手を置き、ポンポンとなでる。

瑛太は幸せの絶頂にいるはずなのに、何か悪いことをしているような、複雑な気持ちになるのだった。


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