ルール無用な『THE W』、吉住の“いいコント”とAマッソのレジスタンス

 テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(12月12~19日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。

Aマッソ・加納「崖っぷちやと思います」

 出場資格は女性であることだけ。芸歴に制限はなく、漫才、コント、ピン芸なんでもあり。そんなお笑いの賞レース番組『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』(日本テレビ系)が14日に放送され、例年以上の盛り上がりを見せて幕を閉じた。

 個人的には、Aマッソの戦いぶりが印象的だった。Bグループの1組目として登場した彼女たち。ネタ作りを担当する加納はネタ前のVTRで、「もうずっと『ネクストブレイクだ』って、『来年はAマッソの年だ』みたいに言われ続けて、5年経ちましたね。崖っぷちやと思います」と語っていた。

 確かに、随分前から関係者やお笑い好きの間でネタの評価が高かった彼女たちは、なかなか世間一般に”見つかる“きっかけを掴めずにいたように見える。彼女たち自身が、世間にありきたりな形で”見つかる”ことを避けていた節があったようにも見える。

 そんなAマッソが見せたのは、映像と漫才を融合したネタ。プロジェクターで映し出されたセンターマイクの前に「どうもー!」と2人が立つ。彼女たちの掛け合いに合わせて、スクリーンに投影される映像が次々と切り替わっていく。漫才でもない、コントでもない、これまであまり見たことがないタイプのネタに笑った。

 と同時に、このネタは2つのものの可能性を同時に広げたようにも見えた。

「他の賞レースではできないネタを、『W』用に持ってきました」

 ネタ前のVTRで加納はそう語っていた。なるほど、参加資格は女性であることだけ、漫才だろうがコントだろうがネタの内容は問わない、そんな『THE W』という大会でしか今回のネタは披露できなかっただろう。

 翻って、“なんでもあり”な『THE W』は、その制限のなさが大会の評価を落とす理由のひとつになっていたはずだ。そのことをふまえると、今回のAマッソのネタは、大会の”なんでもあり”なところをデメリットではなくメリットに捉え返すものだったように思う。“なんでもあり”だからこそ、質は高いが既存の枠にハマりにくいネタを披露できる。そういう意義のある場として、大会を改めて定義し直していたように思う。

 彼女たちは今回このネタで、Aマッソの今後のキャリアの可能性を広げた。と同時に、『THE W』という大会自体の可能性を広げたのではないか。

 ある意味でわかりやすく印象に残りやすい今回のネタは、「崖っぷち」と語る彼女たちが世間に“見つかる”ことを意識したものだったかもしれない。一方で、自分たちの手が及ばないところで設えられた「女性限定の賞レース」というゲームのルールをハックし、自分たちの手でルールを再設定しようというレジスタンス。彼女たちの今回の戦いぶりには、なんだかそんなものも感じた。

 そんな今回の『THE W』を制し、チャンピオンの栄冠を手にしたのは吉住。彼女もまた、従来からネタに定評があったピン芸人だ。

 彼女が1本目に披露した「女審判」のネタ、2本目の銀行強盗のネタは、いずれも恋愛シーンを軸にしつつ哀愁を漂わせたもの。女性芸人は男性芸人に比べて恋愛をネタにすることが多いと言われるけれど、彼女のコントの設定やそこからの展開には“恋愛ネタ”にとどまらないオリジナリティが宿る。そしてそれを確かな演技力が支え、笑いに変える。1本目のネタが終わったあと、彼女は「いいコントですよね?」と周囲に問いかけていたが、まさに、“なんでもあり”を印象づけた大会で「いいコント」が勝ったという意味でも素敵な展開だった。

「こんな明るいところにいれる人間じゃないんですよ」

 優勝が決まった直後にコメントを求められた吉住は、目に涙を浮かべながら言った。

 さて、『THE W』が他の賞レースと比べ特殊な点のひとつは、優勝者に日本テレビ系の番組への出演権が特典として贈与されることだ。対象となる番組は『有吉の壁』や『行列のできる法律相談所』、『踊る!さんま御殿!!』や『ウチのガヤがすみません!』といったバラエティ番組だけでなく、『スッキリ』や『ZIP!』といった情報番組にまで及ぶ。

 で、吉住は早速、翌朝の『ZIP!』に出演。ネタを披露した後のトークでは、賞金1000万円を狙いにくる先輩の存在を明かした。

「結構芸人から…ちょっとあんまりアレかもしれないですけど、お金を貸してほしいという…」

 続いて出演した『スッキリ』でも、次のように語る。

「人力舎の先輩の岡野陽一さんっていうめちゃめちゃ借金してる先輩がいるんですけど、あの人から借金させてくれっていう。私のことをもう『債権者様』って呼んでる」

 さらに、岡野からは借金とは別に3万5000円がほしいと言われているらしい。太陽が高くなるにつれて、「借金をしにくる先輩」の情報が少しずつつまびらかになっていくのがおかしかった。

 ところで、『THE W』のネタ前のVTRでは、自身でも「ポップさはないねぇ」と語っていた吉住。心休まるのはマンション管理人のバイトをしているときで、人と関わらなくて済むから、らしい。

 そんな彼女が、日テレの番組にこれから次々と出演し「明るいところ」に連れ出される。一体どんなことになるのか。なんだかもうすでに面白い。いや、こんなわかりやすいキャラクター設定は、すでにある程度は日本テレビの演出なのかもしれないけれど――。

 あと、『ZIP!』や『スッキリ』に出ていた吉住はVTRを見るときだけ眼鏡をかけていた。高木美帆、中山エミリ、北川景子、芦田愛菜と続いてきた系譜を引き継ぐことになるのか、個人的には注目したい。

 そんな『THE W』の2代目チャンピオン、阿佐ヶ谷姉妹の2人が13日の『ボクらの時代』(フジテレビ系)に出演。同じくほのぼの中年芸人である、ずんの2人とリモート形式でトークをしていた。阿佐ヶ谷姉妹の江里子さんと美穂さんは、いつものように阿佐ヶ谷の自宅からの出演だ。

 ともに30歳を超えてからコンビを組み、40歳を超えてブレイクした2組。そのトークは予想通りのほんわかしたものでとても面白かったのだけれど、なかでも特筆すべきは次のシーンだ。

 江里子さんいわく、自分たちはネタ作りに行き詰まると「季節の果物ベスト3」について話し合ってしまうらしい。そんなツイートを江里子さんがしたら、ずんの飯尾和樹から「僕は1位は梨です」とリプライが来たのだとか。そのことを覚えていた江里子さんは、ずんのやすが新型コロナウイルスに感染し療養した際、お見舞いとして梨を送った――。そんな話を江里子さんがしている最中に、彼女の家のインターホンが鳴った。

 リモート画面から外れ玄関へ向かう江里子さん。何かを手にしてカメラの前に戻ってきた彼女は語る。

「今ですね、ご近所のおせんべい屋さんから急に差し入れをいただいてですね。お赤飯2つとですね、飯尾さんはちょっと苦手だっていうのは知ってるんですけど、酢漬けのカリフラワー」

 カメラに映る、せんべい屋から届いた赤飯と酢漬けのカリフラワー。阿佐ヶ谷で暮らす彼女たちが、いかに地域に根付いているかを再確認させるシーンだ。せんべい屋から届くのが、せんべいではない。その事実が、彼女たちの付き合いがご近所さんとしてのものであることもうかがわせる。

 また、もらう人はあげる人でもある。梨のエピソードもそうだが、江里子さんは飯尾が苦手なものもちゃんと熟知している。彼女たちが常に誰かに何かをあげる人であることの証左だろう。そもそも、ずんに梨を送った話をしているときに、おすそ分けが届いた。この事実がすでに象徴的だ。

 阿佐ヶ谷には、あの姉妹を要とした贈り物の経済圏があるのかもしれない。

  • 12/22 14:00
  • サイゾー

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