「彼には、絶対言えない…」女が4回連続でお泊りデートを断った、本当の理由とは
彼氏やパートナーがいる人が幸せって、誰が決めたの?
コロナの影響で、出会いの機会が激減したと嘆く人たちが多い2021年の東京で
ひそかにこの状況に安堵している、恋愛に興味のない『絶食系女子』たちがいる。
この連載では、今の東京を生きる彼女たちの実態に迫る。
▶前回:4年間彼氏がいない29歳美女。20万かけて婚活を始めてみたものの…
恋人がいるのに恋愛したくないオンナ・沙羅(30)
『いま東京大変でしょう?体には気を付けてね』
「うん、ありがとう。ワクチンは2回目終わったから、年末には実家帰れるといいな」
『そうねぇ。じゃあ沙羅、そのときはまた大和さんを連れてきなさい。お父さんも彼に会うのを楽しみにしてるから』
― 出た……。
昨年春頃から、母と通話するときのトピックスは、ほぼこの2つ。
1つはコロナ。もう1つは、2歳上で大手総合化学メーカーに勤める恋人・大和のこと。
『もう沙羅も30でしょ?将来のこと、そろそろちゃんと大和さんと話し合いなさいよ』
「はいはい。明日早いからもう切るね」
母が何か言いかけたが、それを遮るように電話を切った。
ホーム画面に戻ると、LINEの通知が目に入る。件の恋人、大和からの連絡だった。
『あさっての土曜日だけど、どこに行きたい?久々にお昼から会えるし、ショッピングでも行こうか』
そのLINEを見て、私は思わず頭を抱える。彼と会う約束をしていたことをすっかり忘れていた。
― しかも、前回会ったときから3週間ぶりのデートじゃん……さすがに断れないわ。
約束を忘れていた私が100%悪いけれど、最近仕事が忙しかったこともあり、土曜日は久々に家でゆっくり過ごすつもりでいた。
― めんどくさい……。
3週間ぶりのデートだというのに、こんなふうに思ってしまうなんて。
これは、彼のせいじゃない。私が『恋愛』そのものに限界を感じているのだ。
彼との3週間ぶりのデートを面倒と感じる沙羅。その理由は…
恋愛に割く時間が無駄
「沙羅、それってただの倦怠期じゃない?あ、大和さん真面目すぎて飽きちゃったとか?他の男紹介しようか」
「いや、新しい出会いが欲しいとかも全然思わなくて……恋愛する気が起きないんだよね」
私は、学芸大学駅近くの自宅に女友達を呼んで手料理を振る舞っている。
今日のメニューは、鯛のアクアパッツァと、じっくり煮込んだスペアリブ、具だくさんのコブサラダに、自家製のふわふわちぎりパン。
友人が喜んでくれるのが嬉しくて、いつも作りすぎてしまう。
「大和は、付き合ってから4年も経つのに、扱いも全く雑にならないし、色んなところに連れて行ってくれるんだけどね」
「え~そんなの最高じゃん!なんで好きじゃなくなっちゃったの?」
友人の言葉に対し、私は腕を組んで首を傾げ「うーん」とうなる。
うまく説明できる気はしなかったが、言葉を選びながら話してみた。
「去年の外出自粛くらいかな。会わないでいたら、すごくラクだなって気づいちゃったんだよね」
一度目の緊急事態宣言が発令され、私は家でじっと過ごしていた。大好きな友達に会えず、気軽に買い物や外食にも行けない。
実家に帰省もできない。
本当につらい期間だったが、大和に会えないことだけは、全く苦にならなかった。
そのうえ、“こんなご時世だから、積極的に出会いを求めなくても仕方ない”というような風潮が漂っていることに、どこか安堵している自分がいたのだ。
『もう、私も無理に恋愛をしていなくても良いのかもしれない』
そう思った瞬間、私の中で何かがプツンと切れた。
「男性と遊ぶよりも、一人で過ごしたり、こうやって同性の友達といるほうが楽しいなって思っちゃうんだよね。実は今まで、親からの圧とか世間の目を気にして、無理に恋愛してた部分が大きかったのかなって。
大和とも、『この人なら条件良いし、私に過干渉はしてこなそうだし』と思って付き合うことを決めたし……」
「正直、大和さんみたいな素敵な恋人がいて贅沢だなぁとは思っちゃうけど。女友達といるほうが楽しいっていうのは、私もなんとなくわかる気がするよ」
友人はスペアリブを食べながら、「そんなことよりコレめっちゃ美味しい」と笑う。
こういう気楽な時間だけが、私の人生に流れていてほしい。
デートのためにメイクをしたり、仕事の話にニコニコ相づちを打ったり、抱き合ったり……そういう、恋愛におけるコミュニケーションすべてが退屈で億劫に思えてしまう。
前から薄々気づいてはいたが、コロナ禍の世界で確信してしまった。
私に恋愛は必要ない。
◆
「……本当にごめんね」
「いいよ、気にしないで。今日はゆっくり休んでね」
3週間ぶりのデートは、極力会話をしなくてもいい映画を選んだ。
本当は夜まで一緒にいて彼の家に泊まる予定だったけれど、途中で帰りたくなってしまい、体調不良を理由に夕方頃に解散した。
彼とのお泊りをキャンセルするのは、これで4回目だ。
怒らせても仕方のないようなことをしているのに、彼は私を笑顔で見送る。その優しさが痛くて、苦しかった。
― 私、本当に最低。もう気持ちがないのにいつまでもダラダラ付き合い続けて、大和に失礼だ……。
タクシーの中でうなだれる。彼と過ごす時間が楽しくないわけではないけれど、やっぱり彼と一緒にいたいと思えない。
これ以上彼を傷つけないためにも、自分の気持ちを素直に打ち明けようと思い、翌週の金曜日に私の家で会う約束を取り付けた。
恋人に会うことがしんどくなった沙羅の取った行動とは…
今の自分に恋愛はいらない
そして、金曜日。
彼は私の好きなパティスリーのケーキとシャンパンを持って、19時ごろにマンションのインターホンを鳴らした。
それに比べて私は、料理ひとつ用意していなかった。仕事は、17時ごろに終わっていたというのに。
「夕飯はウーバーで頼む?あ、でもこの時間ならまだお店やってるよね、どっか食べに行く?今日は、沙羅に早く会いたくて、お昼も食べずに爆速で仕事終わらせてきたよ。ケーキ、モンブランかアップルパイか迷ったけど、モンブランにしたよ」
どこか気まずい空気を察してか、彼が沈黙を埋めようと一人で喋っている。私はそんな彼の姿を見ていられず、重たい口を開いた。
「……大和。夕飯の前に、ちょっと話さない?」
ケーキとシャンパンを冷蔵庫にしまっていた彼が、ゆっくりとこちらを振り向いた。
少しの間を置いてから、冷蔵庫が閉まる「パタン」という音が静かな部屋に響く。
彼は神妙な面持ちで、私の座るソファにやってきた。
「……別れ話?」
隣に来た途端、彼が確信をつく。私は、違うともそうだとも言えず、うつむいた。
「沙羅、他に好きな人ができたの?」
彼の言葉を「違う」と否定する。心なしか、彼は少し安堵したような表情を見せた。
「……大和のせいじゃないの。大和は何も悪くない。私が、ダメなの」
つぶやくように言うと、彼は眉をひそめる。張り詰めた雰囲気に、部屋の温度がどんどん冷えていく気がした。
「大和のことが嫌いとか、そういうのじゃなくて。誰かと恋愛すること自体が、めんどくさくてしょうがないの」
自分の気持ちをストレートに伝える。うまく言語化することはできなかったが、嘘偽りない、今の私の本当の思いだった。。
「俺のこと、もう好きじゃないってこと……?」
大和の声が震えている。私はためらいながらも、しっかりとうなずいた。
その後、2人の間には長い沈黙が流れる。
彼は何かを言いかけては黙り、私も同じように何かを言いかけては黙り込んだ。
伝えたいことは山ほどあるけれど、これ以上話しても結果は同じだということを、きっとお互いにわかっていた。
「……俺は、まだ沙羅のことが好きだよ」
長い沈黙を破った彼の目には、涙がにじんでいる。その顔を見て辛くなるが、私はただうなずくことしかできない。
「……でも、もう仕方ないよね。沙羅、今までありがとう」
彼は私に背を向けて荷物をまとめ、そっと部屋を出て行く。
4年間の感謝を伝えなくてはと言葉を探したが、何も言えなかった。
◆
翌日。
朝ご飯を作ろうと思い冷蔵庫を開けると、昨日彼が置いていったケーキとシャンパンが目に入った。
― 本当に別れちゃった……。
4年という長い月日を過ごしたけれど、別れるときはあっけない。
なんだか虚無感に襲われて泣きそうな気持ちになったが、自分から振っておいて泣くのは違うと思ったので、ぐっと我慢した。
― ちゃんと、けじめをつけよう。
朝ご飯作りを一旦やめて、ベッドに戻る。スマホを手に取り、大和にLINEを送った。
『今までありがとう。わがままでごめんね。幸せになってください』
“幸せになって”なんて、一番無責任で残酷な言葉かもしれない。でも、今の私にはこれしか言えなかった。
大和からの既読が付く前に、私は彼の連絡先をブロックして消去した。
彼からのLINEが来ることが嫌なわけではない。この先、うっかり私から何の気なしに連絡をしてしまわないようにするためだった。
自分の身勝手で、あんなに優しい人と別れてしまったことを、いつか後悔する日が来るかもしれない。
でも、もしもこのまま彼と付き合い続けて、結婚でもしたら?
きっと、もっと後悔するに違いない。
閉め切っていたカーテンを開ける。清々しいほどの秋晴れに、今日の午後はベランダに出てゆっくり読書でもしようかと小さく心躍らせた。
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