東欧で人気の日本食のお味は?寿司に生肉、天ぷらに山椒、餃子はポーランド風etc.

◆普通のスーパーにも日本食材が並ぶ時代に

 いまや、世界中で味わうことのできる日本食。「スシ」や「テンプラ」といった言葉は、海を越えて共通語として通じるほどポピュラーになっている。特にイギリスではカツカレーが大人気で、もはや“イギリスの国民食”とも言われている。筆者が住んでいる、東欧・ポーランドのトルンでも、人口20万人ほどの都市に5〜6軒の日本食レストランがひしめき合っており、その人気の高さがうかがえる。

 しかし、ひとえに日本食といっても、味や「らしさ」は店によってまちまちだ。首都ワルシャワの高級レストランで日本食を食べたことがあるが、庶民にはとても手が出ない値段のわりに、肝心の味は完食するのに苦労するほどの低レベル……。

 以来、海外での日本食は敬遠していたが、現地の友人から「本当に美味しいから!」と太鼓判を押され、「東欧の和の味」にチャレンジしてみることにした。

 大型スーパーや輸入食材店では、いわゆる日本人がイメージする米や海苔、醤油やワサビ、そばやうどんなども手に入るようになっている。そのため、昔に比べれば食材ひとつとっても、クオリティは上がっているはずだ。ちなみに米に関しては独特の表記がされており、「白米」と表示されているものは、たいてい東南アジア系の細くてパサついたもの。丸くて粘り気のあるものは「寿司用」と書かれている。はたして、気になるお味は……。

◆餃子の中身はポーランドの国民食!?

 まず、チャレンジしたのは「ドム・スシ」(※直訳すると寿司家)の餃子と天ぷら。餃子は日本食じゃないというツッコミはさておき、メニューには刺身や唐揚げといったお馴染みの料理から、「ハラペーニョのタタキ」や「海老ワカモレ」といった創作料理まで並んでおり、写真を見る限りではどれも美味しそう。

 さっそく、餃子から味見してみると……。なかなか、美味しい! が、いくつか気になる点も。まずは梅干しの入ったタレだ。「甘じょっぱい」と言えば聞こえはいいが、甘〜いタレと梅干しの組み合わせは、醤油やラー油、お酢やオーソドックスな餃子のタレに慣れた舌には、あまりにも甘すぎる……。「寿司家」という家系の名とは裏腹に、タレの味は完全にスウィーツだ。

 もうひとつ気になったのは、餃子に入った鴨肉の質感。肉々しく、食べ応えもあるのだが、どうも質感がしっくりこない。どこかで味わったことがあると記憶と辿ると……コレ、中身はピエロギではないか。挽き肉なのはたしかだが、それを通り越して食感はペースト状に近い。まさに餃子の皮を被ったピエロギである。

 ちなみにピエロギとはポーランドの国民食。挽肉にキノコ、チーズ、ザワークラフトなどを混ぜた具を小麦粉で作った生地で包んで焼く餃子のようなものだ。

◆天ぷらになぜか大量の山椒が……

 続いて食したのは海老の天ぷら。サイズはかなり細身で、お値段もポーランド価格ではやや高いが、見た目は日本で食べる天ぷらと変わらない。ただし、写真を見ておわかりのように、何か黒いものがかかっている。これは何だ? と思い口に運ぶと、なんと山椒。やけに山椒がかかっている以外は、味もなかなかのもの。餃子のタレのせいで不安視していた天つゆも、日本で食べるのと変わらないお味だ。

 天ぷらの命である衣も、サクサクしていて文句なし! ロックダウンの影響でデリバリーせざるを得なかったが、お店で食べればさらに美味しいこと間違いなしだろう。

◆「寿司=巻き寿司」が一般的

 そして、メインディッシュは「スシ・クシ」の寿司セット。店名のわりに串系メニューは少なかったが、単に韻を踏みたかったのか。トルン以外にも10店舗以上展開しているので、そちらは串モノも充実しているのかもしれない。

 注文したのは、「ロックダウン・セット1」。オシャレな箱は、手に取るとずっしりと重みが感じられ、否が応でも期待が高まる。セットの内容は以下の通りだ。

・ お新香の細巻き×4

・ 卵の細巻き×4

・ すり身巻き×10

・ タタール(タルタル)巻き×10

・ カリフォルニアロール×5

・ ベジ天ぷらロール×5

 このように、握り寿司はゼロ……。実は寿司といっても、こちらで食べられるのはほとんどが巻き寿司だ。

 握り寿司もあるにはあるが、生で食べられるのはサーモン、イカ程度。場所や店によっては、もっと幅広いメニューも食べられるのかもしれないが、大トロなどはほとんど見かけたことがない。

◆タルタルと寿司の相性やいかに

 遠い異国で寿司が食べられるだけ、ありがたいというもの。トロがないだのと文句をいうのは無粋というものだ。まずは、お新香と卵の細巻きから試してみると、お味はまずまずといったところ。食感も、お米の味も、日本で食べるスーパーやコンビニのものと、大きな差はない。コスパを考慮しても、十分合格点である。

 すり身巻きも、お弁当などで食べる味に近く、再現度はなかなかのものだ。カリフォルニアロールは、やや甘口だったが、以前食べた日本食に比べれば、味は格段に向上している。

 一番期待が高かったのは、タタール巻き。ポーランドでは美味しいタルタルステーキが食べられるので、具に関しては心配無用だ。問題はお米や海苔との相性だが……。

 う〜〜〜ん、び、微妙……。タルタルはたしかに美味しいが、米との異文化コミュニケーションが成功しているとは言い難い。鉄火丼の要領で、そのままご飯に載せたほうが、まだ美味しいのではないかと感じてしまった。

◆「稲妻のようなラーメン」はどんな味?

 日も暮れて、膨れた腹がようやく落ち着いたころ、最後に食べたのは日本を代表する夜食・カップラーメンだ。カップラーメンはここポーランドでもスーパーやコンビニで簡単に手に入り、味の素の「OYAKATA」ラーメンなど、日本メーカーの商品も展開されている。「OYAKATA」ラーメンは数種類食べたことがあるが、さすが日本メーカーのものだけあって、どれも「これぞカップラーメン!」という味だった。

 しかし、日本のものを食べても芸がないので、今回はベトナムのメーカー「VIFON」の醤油ラーメンを食べてみることに。パッケージには「稲妻のようなスープと麺」と、かなり景気のいい謳い文句が踊っているが、日本人の心にも響くのだろうか。

◆粉っぽい麺と薄味のスープ

 お湯を沸かして、待つこと3分……と言いたいところだが、パッケージをよく見ると調理時間は「6〜8分」とのこと。稲妻のわりには長い。麺は粉っぽい食感で、カップラーメンであるにしてもモチモチ感には不満が残る。スープはワカメが入っていることもあって香りは良好だが、やけに薄味で、文字通りお湯に醤油を混ぜたようなイメージだ。

 値段はこれまでの寿司や天ぷらに比べるとはるかに安いが、メーカーや種類も増えつつあるいま、数あるカップラーメンのなかから選ぶかというと、躊躇してしまうというのがホンネである。残念……。

◆海外の和食はどんどん美味しくなる!

 味にはバラツキがあり、お値段もやや高めではあるが、日本食が人気を博しているのは嬉しいことだ。ラーメンやカレーが日本で独自の進化を遂げたように、日本食が普及していくことで、今後は新たな味の地平が切り開かれることだろう。

取材・文・撮影/林 泰人

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

2021/9/20 15:52

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