コロナ禍で病床数が足りない今、自衛隊病院の廃止・縮小は本当に必要か?

拡大画像を見る

―[自衛隊の“敵”]―

◆第7回 医療逼迫が起きている一方で廃止縮小される自衛隊病院

 新型コロナの感染拡大の影響で医療逼迫のニュースが連日報じられています。東京では中等症の患者さんでも自宅待機とされており、この混乱はしばらく収まりそうにありません。ですが、病床数が足りず「救える命も救えない」と慌てふためいている一方で、国が予算削減の名目の下、自衛隊病院を廃止・縮小しようとしているのを皆さんご存知でしょうか? 

 病床逼迫に対応するため新たに「野戦病院」の設置も検討されているなかで、「すでに決まっていることだから」と杓子定規的な前例主義で、廃止・縮小に向け強引に突き進んでいく官僚の「思考停止」……。これが今回の自衛隊の“敵”です。 

◆廃止は今の安全保障環境とは違う2009年に決められた

 自衛隊病院の数は陸海空で合計15。有事の戦時治療を目的に防衛省内に設置されましたが、このほかにも、隊員の健康管理、身体的な能力の把握、CBRNEテロ対処など、自衛隊の要となる機能を有しています。病院の廃止が決められたのは、リーマンショックのあった翌年の2009年。中国の南西諸島沖への進出もまだ認識されていない頃のことです。

 当時の自衛隊病院は利用率が少なく、政府から見れば無駄な施設に映ったのでしょう。ですが今は、新型コロナワクチン接種や患者搬送を行うだけでなく、一部の自衛隊病院は新型コロナ感染症の最前線の病院としてフル回転しています。

 自衛隊の医療スタッフに私たち国民は救われていますが、頑張った人が報われないのが日本の政治です。ダイヤモンドプリンセス号の対応から始まり、ありとあらゆる新型コロナ対策に自衛隊の医療スタッフの力を借りたうえで、その恩を仇で返す国のやり方には憤りを感じます。

◆海上自衛隊では5つの病院のうち3つが削減対象

 自衛隊病院は全国にわずか15しかありませんが、そのうちの5病院が削減されます。海上自衛隊では5つの病院のうち削減対象となるのは3病院。現在、南西諸島沖や台湾周辺で実弾の飛び交う本物の軍事侵攻が起きてもおかしくない雲行きですが、そんな折も折に、国境線の防衛の要と言っていい海上自衛隊の病院でもっとも病床数が削られるのです。自衛隊病院を一度なくせば、有事に爆創や銃創のような治療する病院がなくなります。出撃で負傷した自衛隊員を治療する病院削減は自衛隊員を見殺しするようなもの……。それでも自衛隊員は戦ってくれるのでしょうか? 日本国は自衛隊員の命を軽視しているとしか思えません。この国の良心を疑います。

「わたくしは自衛隊の医療スタッフですから、目の前の患者に向き合って全力を尽くすだけです。でも、悔しいです」

 海上自衛隊の医療スタッフから、そんな悲痛な思いをしたためた手紙が届きました。

「全国の海上自衛隊の航空衛生隊や医官も後に残った横須賀病院などに集約されます。一般の患者さんも受け入れている横須賀病院が海上自衛隊の基幹病院として衛星隊員や医療スタッフの教育や様々な診療を行い、有事の際には移動衛生班を派遣することになっています。でも、5つあった病院が2つになるわけですから、能力はこれまでどおりではないでしょう。間違いなく低減します」

 やるせない心情が伝わってくる内容です。

◆隊員を「便利な道具」扱いし続ければ人材は枯渇する

 自衛隊病院の廃止・縮小は2009年に決まっています。南西諸島沖に出撃して負傷した海上自衛隊員はこれまでは佐世保病院に搬送できましたが、横須賀病院まで搬送先が伸びました。戦傷は時間との勝負です。国に、有事に負傷した自衛隊員の命を救うつもりがあればこのような選択はできません。自衛隊員への処遇はその職務に見合っていると思えないことばかりですが、自衛隊員の命までも軽視するのでは悲しすぎます。自衛隊員をただの便利な道具のように扱えば、勇敢な自衛隊員は一人もいなくなるでしょう。

 南西諸島沖紛争時には護衛艦内で外科的な処置して自衛隊中央病院や横須賀病院などに搬送すればいいと政府は考えているようですが、戦時治療は早ければ早いほどいいのは当然の話。病院が遠ければ遠いほど人命は失われていくのですから。

◆新型コロナウイルス感染症患者の病床数は足りないまま

 新型コロナ感染症の患者を診る病床数が増えないのは、新型コロナに対しての防護の知識と実践力のある医療スタッフと施設の設備が追い付かないからです。ものや場所はお金があれば増設できますが、人工呼吸器、ECMO、透析装置など高度な医療機器を必要とする患者さんの治療には、十分な経験と知識と技術が必要です。しかも、命がかかっている重篤な患者さん相手にミスすることができません。そのICU内で新人を研修するような無茶な教育ができるはずがありません。

 新型コロナ感染症では2類感染症指定医療機関と登録された感染症指定医療機関、結核指定医療機関が入院先となっています。一般の病院では新型コロナ感染症の患者がやってきた場合、その感染を防ぐすべが十分ではありません。病気治療のために通院している患者さんたちや医療スタッフが感染してしまう心配もあります。病床数は世界一なのに、なぜ医療逼迫なのだ?という声を耳にしますが、実は日本の病床は5種類に分けられています。一般病床、感染病床、療養病床精神病床、結核病床です。この中で新型コロナ感染症を診ることができるのは前2者だけで、世界一ではありません。

 厚生労働省と東京都は23日、改正感染症法に基づいて都内すべての医療機関に病床確保や人材派遣を要請。特措法に基づく要請でも、感染者受け入れ病院には病床数を増やす努力をお願いしました。また、臨時医療施設への医療スタッフ派遣も要請しています。これは正当な理由がないにもかかわらず応じなければ勧告が可能で、勧告に従わなければ医療機関名を公表できるというもの。国が病床確保のために強い行動に出なければならないほど深刻な感染状況にあるということです。

◆自衛隊病院は廃止ではなく、むしろ能力拡大を図るべき

 コロナ禍でこれだけ自衛隊に頼っているというのに、なぜ逆をいくような決定を出すのか。むしろ自衛隊病院の病床数を増やすなどして能力を拡張し感染症にも対処できるようにする意識の切り替えができない頑固頭では国民は救えません。

 自衛隊には医療の教育機関である防衛医科大学校もあります。この教育機関の定員を引き上げて、新型コロナ感染症に対処できる医者や看護官、薬剤官を国費で大量に育てるという考え方もあります。いっそのこと、自衛隊病院に必要な設備投資をして、新たな感染症にも対抗できる病床を擁した巨大病院にしてはどうでしょうか。

 防衛予算を拡大できないのなら、別会計で予算を補填すればいいだけです。病床の確保に必要な費用などに充てる「緊急包括支援交付金」1.5兆円の予算はほぼ未消化で終わりました。これを自衛隊病院に投入すれば優秀な医療スタッフがいる病院ができます。

 新型コロナ感染症は変異種も次々に発生し、しばらくは終息しそうにありません。医師会を説得して病床数を増やすより、自衛隊病院にその予算を投下して政府直轄の感染症病棟をつくるのが合理的です。人員数とその予算があれば、感染症対策と戦時治療の両立も可能でしょう。ヤル気と「緊急包括支援交付金」予算を使えばできます。

 海上自衛隊佐世保・舞鶴・大湊病院は来年3月に診療所となり、衛生隊に吸収される恰好で消えてしまいます。病床数を増やすつもりが政府にあるのかどうか、最後まで見守りたいと思います。

<文/小笠原理恵>

―[自衛隊の“敵”]―

【小笠原理恵】
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot

関連リンク

  • 9/20 8:52
  • 日刊SPA!

スポンサーリンク

この記事のみんなのコメント

2
  • 観音寺六角

    9/20 20:56

    生まれた時から成人する辺りまで掛かり付けの病院はあったけど…閉鎖になり今もまだ掛かり付け医が居ません。遠く離れた病院から紹介状もらってまた遠い病院なんか行かんわ‼️😤日本死ね💣

  • トリトン

    9/20 11:56

    長いみる価値無し朝鮮コラム。

記事の無断転載を禁じます