元カノへ衝動的にLINEした男。「俺のダメだったところ教えて」の質問への、ミもフタもない返答とは
目まぐるしい東京ライフ。
さまざまな経験を積み重ねるうちに、男も女も、頭で考えすぎるクセがついてしまう。
そしていつのまにか、恋する姿勢までもが”こじれて”しまうのだ。
相手の気持ち。自分の気持ち。すべてを難しく考えてしまう、”こじらせたふたり”が恋に落ちたとしたら…?
これは、面倒くさいけれどどこか憎めない、こじらせ男女の物語である。
◆これまでのあらすじ
志保とショーンは体の関係になり、その後も何度かデートを繰り返していたが、曖昧な関係のまま。ショーンはきっと遊んでいるだけだと思い、志保は彼と距離を置き始める。
▶前回:彼と何回寝ても「好き」と言ってもらえない。脱・遊び相手を決意した女はついに…
最後のデートの日。
「あ、ショーちゃん、ごめん遅れちゃった」
そう言って、志保は僕の腕を掴んだ。
そのときの感覚が、たまらなく心地よかった。
ショーちゃんという砕けた呼び方。志保の甘えた感じでのボディタッチ。そしてそれが全て、違和感なく自然体なこと。
まるで、本当の恋人かのような感覚を抱いたのは、きっと僕だけではなかったはずだ。
…それが、なぜなのか。
<ショーン:今度はいつ会えそう?>
今まで連絡は毎日当たり前のように取っていたというのに、僕がこのLINEを送ってからもう、3日も返事がない。
そして、焦った僕は…自分でも驚くような行動を起こしてしまったのだ。
志保と連絡がつかないショーンが、とってしまった行動
仕事を早めに切り上げることができた日は、ルンルン気分で家路につく。軽く晩酌をしながら、溜めていたアニメを一気に見るのが至福のひと時なのだ。
…けれど、その日はそんな気分になれなかった。
鬱屈した気分を抱えながらアニメを見たって楽しめないし、むしろ見たいとすら思えなかった。
<ショーン:最近は忙しい?>
打ち込んでは消し、打ち込んでは消しを繰り返すが、僕の右手は送信ボタンではなく缶ビールに伸びる。
自宅に帰ってきてから、ソファに寝そべり、かれこれ1時間もこんな調子だ。服も着替えないまま、帰りがけに買ってきたクラフトビールは2缶も空いている。テレビも垂れ流したまんま。
上手くいかないことがあると、それに引っ張られ、どうしても生活までだらしなくなってしまう。そしてアルコールが入ると、それに拍車をかけるように脱力していってしまうのだ。
そして、考えたくないことが頭をよぎる。
― …今回も、またやってしまったのか?
7年前に大失恋したかすみをはじめ、僕の派手なルックスとインドア派な内面とのギャップに引いて去っていった女性たちの顔が、まるで走馬灯のように蘇る。
志保は、この部屋に何度か来ている。僕がアニメ好きだということを知っても、僕と何度かデートをしてくれた。
たしかに、アクティブなデートの提案は一度もしなかったけれど、それでも毎回のデートをお互いに楽しんでいたと思っていた。
…いや、そう思っていたのは僕だけだったのか?
一度しはじめた妄想は、どんどんネガティブな方向へと膨らんでしまう。
「…そうだ、僕に愛想を尽かしたタイミングはいつだったのか。”経験者”に聞いてみればいいんだ」
酔っていたのだろうか。このときは、まるで名案を思い付いたような気がしたのだ。
そして僕はすかさず、LINEで長い長い文章を打ち始めた。
LINEを送る相手は…過去に僕に愛想を尽かした経験者である、かすみだった。
<ショーン:かすみ、久しぶり!あのさ、ちょっと聞きたいんだけど…(笑)かすみが僕と合わないって思ったのっていつ頃かな?かすみはさ、僕がインドア派だって気づいて…>
画面めいっぱいに並ぶほどの文章を打ちこみ、衝動的に送信したあとに気が付いた。
― …もしかして、僕、ヤバいことしてる?かすみに引かれるかな?
そんな風な考えが一瞬頭をよぎったけれど、かすみからの返信はすぐにきた。
そして、彼女からの返事は予想外のものだった。
かすみからの返信をみたショーンは、さらに別の人物へコンタクトする…
<Kasumi:久しぶり!なんか、いい人できたみたいでよかったね!>
<ショーン:え、それだけ?僕の質問、答えてよ(笑)>
<Kasumi:私がどう思うかと、ショーンの今好きな人がどう思うか、必ずしも一緒とは限らないから。参考にならないと思うよ>
たしかにそうだ。真っ当すぎる返答だった。
― わかった、じゃあ志保を良く知る人物に聞けばいいんだ。
酔った勢いなのか、何かにすがりたかったのか、僕はほとんど無意識のうちに雅人に連絡をしようと親指を動かしていた。一番最初に志保と出会うきっかけになった男。雅人だ。
<ショーン:久しぶりに、うちで飲まないか?>
<雅人:おう!>
雅人とは、大学時代からの仲。かすみのことも含め、僕のことは何でも知っている。…プライドがないわけじゃないが、奴に対して恥ずかしいという感情はもう湧かない。
少なくとも、雅人へのプライドよりも、志保への思いがこのときは勝っていたのだ。
◆
「お前、相変わらずだな」
「何が?」
「いや、アニメ」
「ああ」
長年の付き合いになると、会話も単語だけで成立する。
久々に僕の家に足を踏み入れた雅人は、狭いワンルームを内見でもするかのように一周してから、ソファにドカッと腰を下ろした。
「で?志保ちゃんのことか?」
「…え?あぁ」
…そして、僕が何を話したいかも、当たり前のように伝わっていたようだ。けれど、僕がくちごもりなら返答をすると、彼は突然しびれをきらしたような、いい加減にしろよと呆れたような表情でこう言い捨てた。
「も~、お前いつまでそんなこじらせてんだよっ!」
僕が差し出した缶ビールを受け取りながら、雅人はやれやれとでも言うかのように続ける。
「志保ちゃんのこと好きなんだろ?俺は彼女から直接何も聞いてないけど、美玲にもなんか相談してたみたいだぞ。あれこれ色々考えてる暇あったら、ちゃんと付き合おうって言えばいいだけだろ。それでダメだったら残念だけど、早く決着つけちゃえよ」
「美玲ちゃんに相談してたって、何を?」
「いや、詳しくは聞いてないけど。俺らを通してじゃなくて、直接2人でコミュニケーションとれよ」
まだ何も相談していないというのに、かすみに続き、真っ当すぎる雅人の言葉に僕は何も言えなくなる。
そして、雅人は雑談するかのように付け加えた。
「そういや俺さ、美玲にプロポーズしようと思うんだよね」
「…え、まじ?お前、結婚すんの?」
志保はなぜ連絡をよこさないのか。何を考えているのか。本当は聞きたいことがたくさんあったはずなのに、雅人からの告白にそれらが一掃される。
「もうすぐ記念日だし」
「…まじか、雅人が結婚か~まじか」
そして、自分の置かれた立場と親友の置かれた立場に、大きく水をあけられた感覚がした。
「だから俺がプロポーズする前に、お前の問題も解決しとけよ。ほら、乾杯!」
その日は、図らずとも雅人のプロポーズの決起会のような雰囲気になってしまったが、どこかそれに勇気づけられたような気もした。
― …志保と向き合うか。
雅人のプロポーズが成功することを本気で願っていると、自分もちゃんとするかという気持ちがふつふつと湧き上がってきた。
ビールを2、3缶飲んで、雅人を下のエントランスまで見送った。
元ラガーマンでガタイがいいというのに、雅人は酒にかなり弱い。千鳥足とまではいかないけれど、念のためタクシーに乗るまで、彼を見送る。
「プロポーズ頑張れよ」
「ショーン、お前もちゃんとしろよな」
タクシーの窓越しに、そんな言葉を交わす。外は少し小雨が降っていた。
「わかったわかった、またプロポーズの結果、報告してくれよな」
「うん、もういいから、お前中入れよ、じゃあな」
雅人はそう言って、運転手さんに行先を告げ、去っていった。
少しずつ強くなる雨音の中消えるタクシーを見つめながら、雅人という友人の存在の心強さを感じた。
大人の男同士だというのに、友人に対する感謝を心から感じるのは気持ち悪いだろうか。
…だけど、この日ばかりは、そんな臭いことを思わずにはいられない気分だった。
そして僕は、志保に思いを告げることを決めた。
▶前回:彼と何回寝ても「好き」と言ってもらえない。脱・遊び相手を決意した女はついに…
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重い腰を上げ、ショーンは志保に思いを伝えようとするのだが…