木村拓哉「パラパラ動画」がアメリカで拡散! キムタクが“キッチュな日本文化”のアイコンになる日

 解散からはや4年。SMAPメンバーたちのそれぞれの活動は今も芸能ニュースを賑わせているが、とりわけ木村拓哉の存在感は未だ健在だ。マクドナルドや日産のCMはもちろん、モデルとして活躍する娘らの人気も併せ、今なお幅広い層に支持されている。そして、その人気は思わぬ形で国外にも波及しているようだ──。

『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)内で2000年頃に放映された「バッキー木村」というコントを覚えているだろうか。当時既にやや懐かしい存在だったパラパラを、ホスト風のスーツを着たキムタクが踊るシリーズもののコントだ。真剣なまなざしでパラパラの型を完璧にこなすキムタクの姿を、シュールなギャップとともに筆者は記憶している。

 2021年1月26日、@effectuate_というあるTwitterユーザーが、この「バッキー木村」の映像を「このビデオのことをほぼ毎週考えてる」という旨の英文とともにアップロードした。このツイートは瞬く間に拡散され、現時点(1/31日)で約5.5万回のリツイート、動画自体は約320万回再生されている。映像はディズニーとの公式コラボレーションの回で、ミッキーやドナルドダックが「Night of Fire」やトランス・アレンジの「ミッキーマウス・マーチ」で踊る姿に、海外のアカウントから驚き、戸惑い、笑い、さまざまなリアクションが英語で寄せられている。

「ミッキーと踊るこの男は何者なんだ?」というリプライには、「彼はTakuya Kimuraという日本のタレントで、SMAPというグループで活躍し……」といった解説も書き込まれる。その際、彼はHayao Miyazakiの作品では声優を演じ、『Yakuza(「龍が如く」シリーズの英語版タイトル)』にも登場している……といった、海外でも知られている日本のアニメ・ゲーム作品を通じての紹介が目立つのも印象的だ。

 更にはなんと、SF作家ウィリアム・ギブスンまで、このツイートをリツイートしている。技術が発達しすぎた近未来の世界を描く「サイバーパンク」というジャンルの代表的な存在であるギブスンだが、いったいバッキー木村のパラパラの何が、ここまで広く国も言語も超えてウケているのか?

 前述の、最初にバッキー木村の動画を転載した@effectuate_というアカウントは、普段はヴェイパーウェイヴと呼ばれる音楽についての意見や感想を中心にツイートをしているようだ。ヴェイパーウェイヴとは2012年頃から登場した海外の音楽ジャンルで、インターネットと情報社会、過剰な消費主義、80~90年代へのノスタルジー、そしてかなり偏った日本へのイメージ(漢字、アニメ・漫画、かつてのハイテク先進国etc…)などをテーマとしており、根強い人気を誇っている。

 アメリカやオーストラリアのアーティストが、芸名や曲名に日本語(漢字)を用い、日本のひと世代前のアニメやゲーム~シティポップ(山下達郎、竹内まりや、杏里etc…)からの引用・サンプリングで曲やアートワークを創るのが、ヴェイパーウェイヴのシーンでは当たり前になっている。

 そのセンスと作品は、日本人から見るとかなり奇妙な印象を受ける。だが世界から見れば、日本という国は今でもそのように、ハイテクとノスタルジーの混在する不思議な国だと思われているのだろう。(前述のギブスンを代表とするサイバーパンクも、ヴェイパーウェイヴとはそう遠からぬコンセプトを持っている。映画『ブレードランナー』での2019年のロサンゼルスの風景、ゲイシャ・ガールがビル街の大型スクリーンに映し出される有名なシーンを思い出してほしい)

 ピンプ(女たらし)風のスーツを着込んだ、やけにキリッとした謎の東洋人の男が、凄まじくテンポの速いド派手なシンセサイザー・ミュージックに合わせて、ミッキーマウスと共に、腰を使わない不思議なダンスをテキパキと踊る──海外から見たバッキー木村は、日本人が想像する以上に、謎めいたインパクトと面白さがあるのではないだろうか? ヴェイパーウェイヴのような音楽が人気だと考えれば、それも頷けるところだ。

 そしてパラパラ。近年、日本のミュージシャンがパラパラを取り入れた楽曲をリリースする例が、じわじわと増えつつある。筆者と同じく90年生まれのプロデューサーtofubeatsによる、2014年リリースの「CANDYYYLAND feat. LIZ」は切なくも盛り上がるトランス・ナンバーで、ライブではtofubeats自らパラパラの振り付けを踊る一幕が披露された。

 また2018年には、現在若者の間で最も注目を集めているラッパーTohjiとgummyboyによるユニットMall Boyzが「Empire 2000 [NEO PARAPARA mix]」を発表。曲名の通りパラパラを踊るPVが公開されたが、10代のファンの目にはどのように映ったのだろうか?ちなみにこの年は青山テルマも「世界の中心~we are the world~」のPVでパラパラを披露している。

 昨年末リリースされた田島ハルコ・Marukido・valknee(彼女らを擁するラッパー集団Zoomgalsについては、サイゾープレミアムでの記事も参考されたし)による「未来世紀ギャルニア」のPVでは、ギャル文化の魅力を宇宙規模でたたえる壮大なラップとともに、当然のようにアーティスト本人らがパラパラを踊っている。

 注目すべきは、いずれのアーティストも、パラパラを単なる「懐かしのネタ」のリバイバルとしてではなく、批評的な視点とともに作品に取り入れていると思しき点だろう。YouTubeやSNSを通じて海外からの反応も多い彼ら・彼女らは、パラパラの持つわかりやすさ・キッチュさこそ日本独自の音楽としてアピールできるはずだ……という発想の下に、これらの楽曲をクリエイトしているのではないかと筆者は予想している。

 先述のヴェイパーウェイヴの影響から、元ネタである竹内まりや「プラスティック・ラブ」松原みき「真夜中のドア」の再生数が爆発的に伸び、海外のマニアたちの間でシティポップのレコードが大人気なのは、ここ数年、日本の音楽マニアや業界人の間では定番のトピックだ。もし、その次に「来る」のがパラパラで、しかもそれがバッキー木村がきっかけだとしたら──?と、妄想を膨らませつつ、やはりキムタクの存在感は唯一無二で天性のものだと、改めて思わざるを得ない。

2021/2/2 12:00

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