映画主演のリリー・フランキー、俳優業20年でも「職業プロとしてやってない」

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 今やイラストレーター業のみならず、文筆家、MCなどさまざまな顔を持ち、『凶悪』『万引き家族』など、俳優としても高い評価を得ているリリー・フランキー(57)。現在、カレーとラジオをきっかけに家族との絆を紡いでいく、ひとりの男の物語を描いた短編主演映画『その日、カレーライスができるまで』が全国順次公開中だ。

 俳優の斉藤工が、本名であり監督(『blank13』共同監督作『ゾッキ』ほか)を務める際の名義である齊藤工として企画とプロデュースを担当し、『CUBE 一度入ったら、最後』などの清水康彦が監督と脚本などを手掛けた、ほぼ一人芝居で展開する本作への出演についてうかがうとともに、早20年を数える俳優業について聞いた。

 さらに、さまざまな仕事への取り組み方を深堀りしていくと、「本当はぬるく生きたいのに、あくせく働いちゃってる」と言いながら、「常に新人であるほうが新鮮でいい」「出来上がったツラしたオヤジになっちゃったら、誰も新しいことに声をかけてくれない」と、ジャンルレスに活躍するリリーの芯が垣間見られた。

◆齊藤工とは本作についての話は特になし

――企画・プロデューサーの齊藤工さんからは、どのようなオファーがあったのですか?

リリー・フランキー(以下、リリー):工くんとは、今回のオファーがあってしばらくの時期は、別の仕事で何度も会ってたんですけど、この作品の具体的な話はしなかったですね。清水監督たちとは話してたんですが。

――そうなんですか。齊藤さんは「映画は不要不急じゃない!」とクリエイターとして熱い思いを持たれている方だと思いますが、今回の一人芝居をリリーさんに託した思いをぶつけられてはいないんですね。

リリー:あの人、そういう性格じゃないので。行動力のある人ですが、暑苦しくないんです。自分もお芝居をするプロデューサーなので、「お願いします」とか「期待してます」というのもよくないと思っているのかもしれないですし。完成してからもこの件については何も話してませんよ。ほかのくだらないことに関してはLINEしてますけど。

◆大笑いも大泣きも、するのは映画の中でだけ

――ほぼワンシチュエーションでの一人芝居ですが、他のお芝居と比べてやりやすかったり、やりづらかったりはありますか?

リリー:もともと舞台の戯曲なので、舞台での一人芝居だったら本当に大変だったと思いますけど、撮影していても一人芝居をやっているという感覚はありませんでした。普段の映画でもひとりのシーンってありますし。完成作を見ると確かに出ているのは俺ひとりだけど、声でほかの方も出てますし、おそらく映画をご覧になった方も、一人芝居の映画を観たという感覚にはならないんじゃないですかね。ただ、日程的にはなかなか厳しかったですよ。2日半で撮ってますから。これまで何度も一緒にやってきた監督とスタッフだったからできたことだと思います。

――確かに普段でもひとりのシーンはありますね。泣きの芝居などの感情的なものは得意ですか?

リリー:泣くに限らず、感情を大きく出すってことがそもそも普段の生活にないので。大笑いすることも大泣きすることも。映画の中だけですよね、大声出したりするのは。だから得意とか不得意とかじゃなく、新鮮な感じです。

◆多彩なキャリア、ウィキペディアで出てくる肩書は「俳優」が先頭に

――俳優業も20年になりますが、これだけ俳優としてのキャリアを重ねていくことを若いころに想像していましたか?

リリー:今でも不思議な気持ちです。今回だって、友達の自主映画に出ているような感覚なので、なぜ劇場で上映されるんだろうと思ってるくらいです。学生が作ってる自主映画よりも短い期間で撮影してますしね。

――リリーさんをネットで調べると、たとえばウィキペディアには肩書の最初に「俳優」と出てきてます。

リリー:最初に出てくるんですか。それって誰が書き換えるんだろ。最初に俳優と出てくるのはよろしくないですね。「イラストレーターなんだけど、お芝居もちょっとしてるらしいね」くらいの感じで見てもらうのがちょうどいいので。俳優としてのお芝居だと見られると面はゆいです。あくまでも蛭子能収さんとか、杉作J太郎さんとかの手法で。

――肩書って気にします?

リリー:特に気にはしないですけどね。職業欄を書かなきゃいけないときはイラストレーターって書いてます。とはいえイラストレーターの仕事よりも俳優の仕事の方が多いんですけど。まあそれも時期の問題ですから。

◆常に新人であるほうが新鮮でいい

――色々なジャンルでたくさんのお仕事をされていますが、それは結果的にそうなっているのでしょうか。それとも色々なことに挑戦している人生だと言える?

リリー:やったことのないことをやってるほうが楽しいですよ。常に新人であるほうが新鮮でいい。半端なベテランになると一番仕事が緩みますから。やったことのないことで、興味のあることはやってみたいです。でも自分からこれをやりたいと言ってきたことはないな。「やってみない?」と声をかけられることが多いですね。

――壁を作らないスタンスで来たからでしょうか。

リリー:俺もよく人に「これやってみない?」とか聞くけど、それってだいたいやってくれそうな人にしか言わなかったりはするよね。でも、そう声をかけてもらえるうちが華じゃないですか。だってたぶん出来上がったツラしたオヤジになっちゃったら、だれもそんなこと言ってくれないから。やったことのないことを、断って後悔するくらいならやって後悔したほうがいいと思いますね。

◆俳優としてはプロじゃないけど、観客のプロではある

――俳優としてのお仕事は、吟味して選んでいるのでしょうか。

リリー:当然やれないもののほうが多いですよね。感覚的にも物理的にも。職業プロとしてやってないからいいんじゃないですかね。「最近映画の仕事がないから、これつまらなそうだけど、やらなきゃ」みたいなことがないから。たくさん出てるように言われたりしますが、年に6本出てても7本出てても、1シーンしか出ていないものも2ヶ月半かけてやったものも同じ1本に数えられるので、実際に俺がお芝居してる時間ってのは、年に10分の1くらいしかないんです。

――ご自身の出ている映画やシーンを観て感動することもありますか?

リリー:ありますよ。俺は今でも99%観客側で、自分が出てることはプロだと思ってないけど、映画を観る観客としてはプロだと思ってる。役者さんはまず自分のお芝居をチェックするとか言いますけど、俺はまったくそんなのなくて、純粋に映画として観てるから、自分が出ているシーンで泣くこともあります。別に俺の芝居がどうこうじゃなくて、映画としていいからだと思います。

◆人と一緒にやると100点以上になることも

――ご自身が向いている職業ってなんだと思います?

リリー:表に出ない仕事でしょうね。家でひとりでやる仕事。今こうやって外に出て、映画に出させてもらったり、ラジオやテレビでMCをしたりしてますが、ひとりだと世界も視野も狭くなるので、ちょっと留学させてもらっている感じがすごくあります。いろんなモノ作りを教わって。外に出る仕事をやればやるほど、原稿を書くのがめんどくさくなっていくんだけど。

――(笑)。それでも外に出た方が自分のためだと感じる?

リリー:自分ひとりでやるときは最高で100点ですけど、人とやると120点とか200点とかありますからね。自分が想像していたものよりもこんないいものになったと。20代、30代のときは、雑誌もたくさんあったので、家でひとりでやる仕事がほとんどで、どうかと思うくらいの数の連載を書いてました。だから余計に外に行くと楽しいですよね。撮影とか行くと、「わー、人がいっぱいいる」ってそれだけでも。

◆「好きを仕事にしたい」と言う人へ

――読者にメッセージをお願いしたいのですが、好きを仕事にしたいと思いつつ、頑張れていない後輩世代に声をかけるとしたら?

リリー:好きを仕事にするってのはいいことですよ、“好きこそ物の上手なれ”とか昔から言いますしね。でも勘違いしてるなと思う人もいるんですよね。遊びを仕事にしようとしている人がいる。それは難しいと思います。仕事の中で遊ぶのと、ただの遊びを仕事にするのは意味も立場も違う。

――好きと遊びをごっちゃにしている?

リリー:そこはちゃんぽんしないほうがいいかなと。平成時代によくいましたけど「楽しく遊んでるみたいに仕事している人が好きです」とかって。俺、絶対にそんな人と仕事したくないです。好きなことであろうが、遊びであろうが、仕事になって水準の高いものを求められたら絶対に苦しいですから。楽しくやってるんだったら、もうちょっと頑張れるってことだと思いますけどね。

◆「ぬるく」と言いつつ、結局なにかをやっている

――一方で、本当はぬるく生きたいのに、なんかあくせく働いちゃってるな~という人には。

リリー:それ、俺です(笑)。俺、めちゃくちゃ怠け者なので。仕事がなかったら、本当にずっとただ寝てます。本当はぬるくしてたいのに、友達に誘われて自主映画やるんだと言われて、今日もこうやってプロモーションに駆り出されて。なんでなんだろうとずっと思ってます。映画を作ったからプロモーションしないとってのも、考え直さないといけないと思いますよ。たぶんこの映画はプロモ―ションをやってもやらなくても人は入らないんだから。もうちょっと諦めることで、もうちょっとぬるさを大切にしていこうじゃないかと。

――でもリリーさんはぬるく生きられてないんですよね。

リリー:そうなんですよ……。思いがけず忙しくなってしまっているという。今までもゆっくりやってるほうだとは思いますけど、これからはもっとゆっくりしたいです。寝ていたいです。若いころは貧乏性だったんでしょうね。毎日書き散らかしたり、考え散らかしたり。

 仕事をするために九州から東京へ出て来たと思ってるし、何かしていて当たり前だと、していないといけないと思っていた。でものんびりしたいですね。ただ、同じこと言ってるような友達が周りにいっぱいいるんですけど、実際にのんびりしてるヤツはひとりもいないんですけどね。貧乏性って治らないんでしょうね。仕事にならなくても、だれが見なくても、結局みんな何かやってますからね。本当にのんびりしてる人は、東京では単にヒマな人。

◆数年後に迎える還暦の誕生日も、例年通りひとりで

――プロモーションもどうかとお話しされてましたが、最後に本作の見所を教えてください。

リリー:ひとりでカレーを作りながら、考えてもしょうがない、立ちいかないことをずっと考えているという、いわゆる一人暮らしの男の典型的な生活が描かれてます。でも自分では満たされていないと思っていても、はた目から見ると、結構豊かな生活にも見えるんですよ。この映画を観た人には、いろんな可能性を感じて欲しいですね。「俺の毎日って、そんなにつまらなくないのかも」でもいいし、それこそひとつの部屋でひとりしか出てなくても映画になるんだから、「俺も携帯で映画でも撮ってみるか」でも。何かしら思ってもらえたら。

――ちなみに、本作の主人公は今では出て行ってしまっている奥さんの、誕生日に毎年食べていたカレーを作っています。リリーさんはあと数年で還暦を迎えますが、そのときの誕生日はどう過ごしたいですか?

リリー:俺、毎年誕生日はひとりで過ごしてるんです。母親が死んでからはひとりで過ごすと決めていて。だからこれからも誕生日はひとりかな。これやってると、孤独死は近いかなと思いますけどね。

<取材・文/望月ふみ>

【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異 Twitter:@mochi_fumi

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