カマラ・ハリス米国での人気が急落で日本の出版社が大慌て!? 移民問題でミソがつき不支持率50.4%の調査結果も

 米副大統領カマラ・ハリス関連の書籍の出版が相次ぐ。東京・大手町の大型書店の売り場では、ハリスの自伝『私たちの真実:アメリカン・ジャーニー』(光文社)の表紙が見えるように陳列(面陳)されていた。

 現在発売中の「Forbes Japan」10月号の表紙を飾っているのも彼女だ。女優でエッセイストの中江有里が初めて翻訳に挑戦したという、ハリスの自伝的絵本『みんなスーパーヒーロー』(平凡社)も、今月9月21日頃に発売予定という。ロサンゼルス・タイムスのベテラン記者、ダン・モレインがハリスの光と闇の双方に光を当てた『カマラ・ハリスの流儀』(彩流社)も8月に出版している。

 出版の世界ではちょっとしたハリス・ブームではあるが、ちょっと待ってもらいたい。彼女は米国の大統領ではなく副大統領だ。

「米大統領関連の本はこれまでも出版されてきたが、副大統領関連の本が日本でこんなに出るのは初めてだ」と、この不思議な現象に全国紙のベテラン政治部記者は首をかしげる。

 確かにハリスは2020年の大統領選から注目されていた。民主党の大統領候補だったバイデンが当時77歳と歴代最高齢で大統領選に臨むため、選挙戦時、同氏の健康は常に不安視されていた。「バイデンに2期8年は無理、1期4年限りの大統領」との声もあり、55歳(指名当時)のハリスにはこれまでの副大統領候補以上に注目が集まった。

 バイデン陣営も高齢のバイデンに対する有権者の不安を払拭するため、選挙戦中は「バイデン・ハリス政権」と謳い、ハリスを通常の副大統領候補と比較にならないくらい盛り立てた。

バイデン、ハリスを移民問題の責任者に指名

 大統領選で勝利し今年1月20日にバイデン政権が発足してからも、バイデンはハリスをないがしろにはしなかった。

 バイデンは3月24日、メキシコ南部に位置する中米・北部三角地帯(グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル)などから米・メキシコ国境地帯に押し寄せる、たくさんの不法移民対策の責任者にハリスを指名。「カリフォルニア州の司法長官を務め、人権を擁護し組織犯罪とも戦ってきた。この問題を任せるのに彼女ほど優れた人物はいない」と期待を示すと、ハリスも「簡単な仕事ではない。だが大事な仕事だ」と難問に取り組む決意を示した。

 6月9日付の英BBC放送の記事によると、今年4月には計17万8000人以上の不法移民が米国とメキシコの国境に達し、1カ月間の人数としては過去20年で最多となった。家族連れや一人旅の子どもたちの40%以上が、「北部三角地帯」からだという。

 この問題の対処は誰が取り組んでも解決には困難が伴う。しかし、成功すればハリスにとって、将来の大統領候補としての自らの立ち位置を決定づけるまたとない機会となるはずだった。

 しかし、不法移民問題対応の統括ポストにつき、副大統領として初めての外遊となった6月の中米訪問時から逆風が吹き始める。

 ハリスは同月7日、グアテマラの首都グアテマラシティで、同国のアレハンドロ・ジャマティ大統領と不法移民問題について協議した。その後の記者会見で、米国境に殺到する不法移民に向けて、「米国とメキシコの国境まで、危険な旅をしようと考えているこの地域の人々に、私ははっきりと言いたい。来ないで。来てはいけない。我々の国境に来れば、追い返されるだろう」と呼びかけた。

 グアテマラなどに住む住民が危険を承知で米国を目指すのは、汚職や貧困、暴力などの社会問題が根本にあり、米国は支援を通して、これらの人々が自国に住むことに希望を見いだせるようにしたい旨の発言だったが、「来ないで。来てはいけない」の部分だけが切り取られ、「移民に冷たいハリス」の批判を招いた。

 翌8日、ハリスは同地でNBC『Nightly News』のアンカー、レスター・ホルトの単独インタビューに応じたが、まだ移民問題の最前線の現場である米・メキシコ国境を訪れていないハリスに「国境を訪れる気はあるのか」と執拗に聞かれることに。ハリスは「私は欧州にも行っていない」とやり返してしまった。冷静さを欠かなければ、「問題は深刻だ。できるだけ早期の現地訪問を検討したい」などと無難な回答もできただろうが、この時のハリスは虫の居所が悪かったのだろうか?

 前段の発言同様、「私は欧州にも行っていない」の発言部分だけが切り取られ、YouTubeやソーシャルメディアなどを通し拡散した。

※「私は欧州にも行っていない」の発言は4分16秒から。

続出するスタッフの離反 聞こえてくる事務所内の不協和音

 同じ質問を繰り返し、失言を引き出そうとする記者への対応などは、副大統領のような要職に就けば当然予想されることなので、事前に備えなくてはならない。広報アドバイザー、良き広報官はいなかったのだろうか?

 この要因の一つに、ハリスの首席補佐官、ティナ・フロノイの振る舞いがあるようだ。ハリスのゲートキーパー(門番)を自認するフロノイは、誰がハリスと面会でき、意見を具申できるかなどを全て仕切る。

 米ニュース専門局CNBCの6月29日付報道によると、フロノイのこうした独善ぶりは度を越しており、ハリスの副大統領就任以前からの長年の政財界の盟友たちが締め出されているのが現状だという。長年の盟友からは、電話をかけてもなかなか返事が返ってこない状況を、嘆く声も上がっている。

 政治に特化した米ニュースメディア「ポリティコ」は同月30日付の記事で、計22人の副大統領府の現・元スタッフから聞き取り調査を行い、フロノイが独断専行で政策遂行を図り、異論を唱える者は辞めさせていく副大統領事務所の混迷ぶりを報じた。

 まだ、政権が発足して7カ月もたっていないのに、「(副大統領)事務所は士気が低下し、ほぼ機能不全の状態に陥っている」(在バージニア州、民主党関係者)という。

 良き側近の欠如、通常の副大統領より将来の大統領になるより高い可能性を秘めているがゆえに晒されるメディアの執拗な攻撃。同情の余地もあるがハリスを取り巻く状況は厳しい。

 初の中米訪問も周囲がしっかり固めていれば、“晴れ舞台”となるはずだった。会見やメディアでのインタビューを想定しての模擬問答を通し、もっときちんと準備できただろう。

「なぜ訪れないか」と批判を浴び続けたメキシコの国境地帯を、中米訪問から約2週間後の6月25日にハリスは訪れた。南部国境地帯のテキサス州エルパソだった。これも共和党や、移民問題により敏感な民主党左派などから、なぜ移民問題がより深刻なリオグランデバレー(テキサス州)に行かなかったのかなどの批判の声が上がった。すべてが後手後手に回り批判は高まるばかりだ。

 グアテマラでの一連の失言から3カ月がたつ。その後、ハリスが失地回復に何らかの具体的行動を取ったとの声も聞かれない。

 世論調査データ収集サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、ハリスの支持率は41.2%で、不支持率が50.4%(引用した各世論調査は8月7日から9月7日まで)となっている(RealClearPolitics – Election Other – Kamala Harris: Favorable/Unfavorable)。

 

 こうした状況に反比例するように日本では、ハリス本の出版が相次ぐ。出版社としても、本の売れ行きが左右されるだけに、ハリスには何としても頑張ってもらいたいというのが本音だろう。ハリスのコアな応援団は米民主党内でなく、極東の国、日本にだけいるのかもしれない。

 

2021/9/17 6:00

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