SNSよりも選挙。ツイッターデモで政治は変わらない 吉田照美×前川喜平×寺脇研

 文部科学省OBの前川喜平、寺脇研らがあるべき官僚制の姿について語った『官僚崩壊 どう立て直すのか』。本書のために収録されたフリーアナウンサー・吉田照美さんとの鼎談のうち、書籍未収録の箇所をWeb限定で公開する。

◆Twitterデモが阻止した黒川検事長の定年延長

吉田照美(以下、吉田):最近では、Twitterをはじめとする様々なSNSが大きな影響力を持っているように思います。現状、進んでいる施策に多くの人がSNSで反対を表明することで、方向性が覆るケースも出てきました。

前川喜平(以下、前川):検察庁法の問題(※2020年1月、政府はそれまでの法解釈を変更して安倍政権に近いと言われていた黒川弘務・前東京高等検事長の定年延長を決めた。しかし野党や世論の激しい反発を受け、検察庁法の改定を断念)や入管法の問題では、SNSで反対の声が高まったことが、法案成立を阻止することにつながりました。意外な話かもしれませんが、いずれもSNSの中に小泉今日子さんがいたんですよね。

吉田:それは大きかったかもしれませんね。

前川:相当の効果があったと思うんです。私自身、キョンキョンのファンでしたし(笑)。彼女のような情報発信力の強い芸能人の中からも声を出す人が増えてきましよね。

吉田:確かにこのところそういう方が現れているのは間違いないですね。

◆検察庁法の問題で見えた一筋の光

前川:検察庁法の場合には笛美さんという方が最初にハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」を付けてツイートし、またたく間に拡散したんですね。入管法については、やはりウィシュマさんの事件が、どう考えてもひどいじゃないかという世論が起こりました(※名古屋入管に収容されていたスリランカ人の女性、33歳のウィシュマ・サンダマリさんは、体調悪化を訴えていたが治療を受けられないまま2021年3月6日に死亡した)。

 いくらオーバーステイをしていたからとはいえ、治療らしい治療をしないとはひどいことだと誰もが思いました。あのケースは業務上過失致死です。未必の故意による殺人だと言ってもいいくらいです。この事件は、刑事事件として立件すべきだと思っています。このような理不尽なことがさらに広がりかねない法律であれば、そんなものは作るべきではないでしょう。

 私が日本国民を見直したのは、今回の入管法の問題は外国人の問題ですが、外国人の問題でも人道・人権に反するという感覚を持っている。そういう日本国民がたくさん現れたということは非常に心強いと思っています。そのあたりにこれからの日本の希望の光が見えるような気はします。

◆選挙で政権交代を目指せ

寺脇研(以下、寺脇):ただ、選挙で国の仕組みを変えるところにまで至らないと……。Twitterデモのような動きがいくつかあったとしても、状況は大きく変わらないんじゃないでしょうか。

吉田:そうなんですよね。結局選挙に行かないと変わらない。選挙に行かない人が圧倒的に多いという問題はどう解決していけばいいんでしょうか。

寺脇:そこは、国民全体が「政権は変えられるものなんだ」ということを思い出さなければならないと思います。

吉田:メディアは「今度の選挙では自民党が過半数をとる」というようなことを選挙前に先行して報じたりもします。そのような報道があると、「なんだ、選挙に行っても変わらない。もう決まっているのか」といった気持ちにさせられる。こうした報道もやめた方がいいですよね。

◆「安倍政治を許さない」だけでは不十分

寺脇:選挙情勢は選挙情勢で伝えるとして、政権が自民党ならこれからの方向性はどうなるか? また、仮に立憲民主党が政権を奪取したらどうなるのか? そうしたことを明確に示していかなければならないと思います。

 以前の民主党政権の場合には、選挙前に民主党が政権を獲った場合にはどうなるのかということが喧伝されイメージができていたので、みんなが選挙に行って実際に政権交代が起こったわけです。

 しかし、どっちが政権を獲ってもなにも変わらないと思えば誰も選挙に行かない。ですから、新しい提案を盛り込んだ政策を提示していかなければならない。現在の社会をどのようにするのかという提案が明確に出てくれば状況は変わると思います。少なくとも2009年の選挙以降ここ10年以上、選挙の時に明確な打ち出しがあったことはないです。「安倍政治を許さない」だけでは不十分なんです。

※インタビュー収録は6月30日

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部を卒業後、文部科学省に入省。大臣官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官などを経て、2016年6月文部科学事務次官に。その後、省内で起きた再就職等規則違反を受けて退官。著書に『面従腹背』『権力は腐敗する』(ともに毎日新聞出版)などがある。

寺脇研

1952年、福岡県生まれ。東京大学法学部を卒業後、文部科学省に入省。職業教育課長や広島県教育長、大臣官房政策課長などを経て大臣官房審議官に就任。2006年退官後は、映画プロデューサー、評論家として活躍。著書に『権力、価値観、天下り…… 「官僚」がよくわかる本 官僚の実態がわかれば、政治の仕組みがみえてくる!』(アスコム)や『文部科学省 - 「三流官庁」の知られざる素顔』(中央公論新社)など。

―[官僚崩壊 どう立て直すのか]―

2021/9/16 8:50

こちらも注目

新着記事

人気画像ランキング

※記事の無断転載を禁じます