「年収3,000万以上の男がいい!」高望みする29歳女を、格安の店に連れて行ったら…

彼氏やパートナーがいる人が幸せって、誰が決めたの?

出会いの機会が激減したと嘆く人たちが多い2021年の東京。

ひそかにこの状況に安堵している、恋愛に興味がない『絶食系女子』たちがいる。

この連載では、今の東京を生きる彼女たちの実態に迫る。

▶前回:慶應卒で年収900万。麻布十番在住の32歳美女が『彼氏不要論』をとなえるワケ

高望みするオンナ・恵里佳(28)


『気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい。あなたのこと、好きになれないと思う』

グレーのニュアンスネイルを施した指先で、送信ボタンをタップする。

きっと、もう二度と彼に会うことはない。

相手からの返信を見ることさえ面倒に思い、ブロック消去してLINEを閉じた。隣の座席に置いたレディ ディオールにスマホをしまい、ため息をつく。

「はぁ、イイ男がいないわぁ~」

渋谷にある大衆的な焼鳥屋さんのカウンター席。ノンアルコールビールを飲みながら、燻製卵のポテトサラダを一口だけ食べる。

「イイ男がいないんじゃなくて、恵里佳の“お眼鏡”にかなう男がいないだけだろ」

本当なら、六本木や広尾のオシャレなレストランでコース料理が食べたい。だが、こんな店で1本100円くらいの串ものをつまんでいるのは、この男に誘われたからだ。

彼は、幼なじみの翔太(29)。IT企業で営業をしている。

そこそこ稼いでいるらしいが、接待で行くようなかしこまった店が苦手なようで、2人で飲むときはいつもカジュアルな居酒屋ばかりだ。

「はいはい、どうせ私は高望み女ですよ~」

テーブルに肘をつき、枝豆を口に運ぶ。

頬を膨らまし、ふてくされている風に装っているが、実は彼の言葉をそこまで気にしているわけでもなかった。

私は再来週、29歳になる。恋人は、もう4年ほどいない。はたから見れば、崖っぷち女と思われるだろう。

それでも、私にはゆるぎない信念がある。

イケメン長身、年収3,000万以上、知名度がある、トーク力抜群、どんなワガママも聞いてくれる、運動神経が良い、読書家、料理上手…。

これらの条件をクリアする男じゃないと、絶対に付き合いたくない。

いくら高望みと言われようが、いたい女と思われようが構わない。

“あの人”を超えるような男が現れなければ、私は一生恋愛なんてしなくてもいいと思っているのだから。

恵里佳が、そこまで高い条件を求める理由とは…?

元彼を超える人が現れなくて……


私は、恵比寿の自宅に帰り、シャワーを浴びて部屋着に着替えた。冷蔵庫で冷やしておいたミニボトルのシャンパンを飲みながら、録画していた番組を再生する。

大御所お笑いタレントが司会を務め、毎回様々なゲストが出演する、“家庭の医学”をテーマにした医療バラエティ番組。スタジオのパネラー席に座る、彫刻のような顔立ちをした白衣姿の男・真一郎。私は彼に釘付けになった。

「かっこいい……」

カッシーナのソファに体を預け、クッションを抱きしめる。テレビの向こうの彼を眺めながら、心の中では興奮と空虚がせめぎ合っていた。

4年前まで、真一郎は私の恋人だった。

“ミスター東大のイケメン外科医”という、いかにもメディアから好まれそうなスペックを持つ男。

さらに、様々なカルチャーに精通していて物知りだし、学生時代は陸上の全国大会に出場していたくらい運動神経抜群で、料理も得意。

私が高い理想を掲げているのは、完全に彼の影響なのだ。

真一郎とは、23歳の頃に大学の友達から誘われた食事会で出会った。私が、人生で初めて自分から恋をして、猛アタックした相手だった。

小さなアパレルブランドに勤める私なんかとは釣り合わないだろうと半ばダメ元だったけれど、奇跡的に彼も私のことを好きになってくれて交際がスタート。

彼と付き合って、目の前の景色ががらりと変わった。連れて行ってくれるお店も、会わせてくれる人も、彼がかけてくれる言葉も、すべてがキラキラと輝いていた。彼のそばにいることによって、自分のステータスが何ランクもアップしたような気がしたのだ。

しかし、付き合ってから約2年後、彼は「他に好きな子ができた」と言って人気アイドルグループに所属する若いタレントに“乗り換え”をした。

「恵里佳のワガママならなんでも聞くよ。食べたいもの、行きたいところ、欲しいもの、全部俺が叶えてあげる」

付き合っていた頃は、そんな歯の浮くような台詞を言っていたのに。

あのとき、「何もいらないから、ずっと一緒にいてほしい」と答えていたら、私は今でも彼のそばにいられたのだろうか。


感傷的な気分に浸っていると、手元のスマホが鳴った。画面には『翔太』と表示されている。

「もしもし?」

『あ、もしもし。ごめん、今日言い忘れてたことがあってさ。再来週の水曜、恵里佳の誕生日だよね?』

私が、「そうだけど、何?」と返すと、彼は少し口ごもりながら言った。

『その日、前に恵里佳が行きたいって言ってた、南青山の予約困難な焼肉屋が2名入れるみたいで……もし何も予定なかったらどうかなって思ったんだけど、もう先約あるよな?』

― んんん……?

少しだけ嫌な予感がした。わざわざ私の誕生日に、いつもは連れて行かないような高級店に誘ってくるなんて、何か他意がある気がしてならない。

― でもあの店行ってみたいし、誕生日当日はちょうど予定ないしなぁ……。

せっかくの誘いを断るのも申し訳なく思い、私はとりあえずOKを出した。

そして誕生日当日。翔太から驚きの一言が……

タイプじゃない男に告白されて


「俺、ずっと前から恵里佳のことが好きだった」

― ハイ、来た。来ると思った~!

『Happy Birthday』と書かれた透明な大皿に、小さなケーキや果物が盛られている。その可愛らしいプレートを目の前にして、私は翔太からの告白に戸惑っていた。

確かに、翔太のことは大好きだ。でも、それはあくまでも友人として。

私の好みのタイプに、申し訳ないが半分も当てはまっていないと思う。

友人を一人失うことに心苦しさを感じながら、私は意を決して口を開いた。

「翔太、ごめん。私は……」

「わかってる。俺は全く恵里佳の理想じゃないってこと」

私の言葉を彼が遮る。私は「うん」と小さくうなずき、押し黙った。

「だから、今すぐに付き合ってくれとは言わない。俺が、恵里佳のことを好きだって知っておいてほしかっただけ」

「……ありがとう」

私は心底ホッとした。彼とはまだ友達のままでいられるようだ。

過去にも何度か、男友達から受け止められない好意を向けられて揉めた経験がある。アラサーになってまで、そんなつまらないことで大切な友人と縁を切りたくない。

しかし。

「だから俺……恵里佳の好みのタイプの男になれるように頑張るよ」


「……え?」

私は思わず、素っ頓狂な声を上げる。彼は食後のコーヒーをぐっと飲み干し、大真面目な顔で私を見つめた。

「顔や身長はこれ以上どうにもできないとしても、スポーツとか料理は頑張れるし、最近は読書量も増やしてる。コミュ力はもっと色んな人に会って磨くとして、あとは年収と知名度だよな。実は俺、いま起業しようと思ってて……」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」

私は思わず彼を静止する。自分で言うのもなんだが、あのバカみたいに高い理想のハードルを、彼が本気で超えようとしていることに驚いた。

「てか、え?翔太が起業するの……?」

「だって、今の会社じゃ年収3,000万なんてまだまだ遠いからさ」

翔太は当たり前のように言ってのける。まさか、私のタイプに近づくために起業まで考えていたなんて……。

「……そこまでしてもらっても、私、翔太のこと好きになれないかもしれないよ?」

彼に対して酷いことを言っている自覚はある。でも、それは紛れもない本音だった。

こんなときだって、私は、“これがあの人だったらいいのに”と思ってしまうような女だ。

後ろめたさをごまかすように、私は彼から目をそらす。

バースデープレートにのったブルーベリーを一粒つまむと、少しの甘味と強い酸味が口の中にじわじわと広がっていった。

「それはそれで仕方のないことだよ。それに、自分を高める努力は損じゃないし、元々いつかは今の会社を離れるつもりだったしね」

翔太は一息ついたあと、笑って言った。

「誰にでも、忘れられない恋はあるから。俺にとって、恵里佳がそうだったみたいに」

頬をかきながら、うつむく翔太。彼のこんな表情は初めて見たかもしれない。なんだか私も恥ずかしくなってしまい、冷めきったホットティーに口をつけてぼそっと呟いた。

「……まあ、考えとくね」

「おう」



帰りのタクシーの中で、翔太のことを思い出す。彼の真剣な顔がなんだかおかしくて、耐えきれずに小さく吹き出した。

この4年間、思えば私はずっと後ろ向きだった。月日は過ぎていくのに、ひたすら真一郎の幻を追い続けていた。

彼と付き合って、自分も彼と同じらいハイステータスな人間になれたと“錯覚”していた。別れてからもブランド品で身を固めてみたり、ちょっと無理して家賃の高い家に住んだりして、絶対に自分のランクを落としたくないと、必死にしがみついていた。

正直、そんなつまらない見栄を張り続けることに、最近はどこか疲れていた。だから、翔太と小さな居酒屋で過ごす時間に、心が癒されていたのも事実だ。

今日から、ついにラスト20代。

翔太と付き合うか否かはさておき、そろそろ子どもじみた背伸びはやめにしよう。翔太の真っすぐな告白を受けて、そう思えた。

これからは男や装飾品ではなく、本当の意味で自分自身を高めていきたい。好きなタイプをすぐに変えることが難しくても、徐々に分相応の感覚を取り戻していけばいい。

― このご時世、無理に今すぐ恋愛しなくちゃいけないってわけでもないしね。

私は前に向かって小さく伸びをしながら、元彼が出演している番組の録画は今日中にすべて削除しようと思った。



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