三世代・4人家族で協力しながら生活する山暮らしの魅力

「山を買う」のは、アウトドアの究極の楽しみ。山は自分だけのキャンプ場として、また週末を過ごす特別な場所として、誰にも邪魔されずに自由に楽しむフィールドとして、幅広い楽しみをもたらしてくれる。そんな山を手に入れた人たちが語る「山のある人生」の喜びとは?

◆狩猟セミナーがきっかけで運命の出会いを果たす

 話は5年前にさかのぼる。当時27歳だった新井亮介さんは、静かな山のなかに小屋を建てて暮らしたいという想いを抑えきれず、勤めていた大手企業を退職。広さ82坪の山を20万円で買い、秩父に移住する。地元の狩猟会社に職を得て、その会社が主催する狩猟セミナーの講師を務めたときに出会ったのが、のちに結婚する翔子さんだった。

「会社を辞めて山で暮らし始めた時点で、もう結婚はできないのかなと覚悟しました。両親もそんな息子を見て、孫の顔はきっと見られないだろうとあきらめた様子でした」と亮介さんは笑う。

 当時、翔子さんは父親の青木勝さんが週末を楽しむために買った500坪の山に立つ山小屋で暮らしていたが、高校生のころから都会生活にストレスを感じていたこともあり、完全に移住するつもりでいたという。

「父は仕事の関係で週末だけ東京から通っていましたが、私は最初から移住を考えていました。実際に暮らし始めると周囲にシカがうじゃうじゃいることがわかり、罠猟免許を取るために参加したのが狩猟セミナーでした」と翔子さん。

 セミナーから数カ月たったころ、SNSがきっかけでふたりは再会。いつしか交際へと発展する。狩猟セミナーに翔子さんと一緒に参加していた青木さんは、その帰り道に「あの講師は好青年だから結婚相手にどうだ?」と娘に話した。お互いに価値観が似ていることを初対面で見抜いていたのだろう。

 たまたま移住先が同じという縁で出会ったふたりだったが、亮介さんが青木さんの高校の後輩だということも判明。またしても不思議な縁を感じたという。

◆結婚後、400坪の山を買い増しカフェを開業

 その後、亮介さんと翔子さんは、翔子さんが暮らす土地の隣地に買い増した広さ400坪の山で、ふたりが一緒に暮らすための小屋をセルフビルドし、2019年5月にめでたく結婚。翌年3月には長男の善(ぜん)くんも誕生した。ちなみに、亮介さんが最初に暮らしていた小屋は、その後の台風で壊れてしまったため、残念ながら現在は使っていないそうだ。

 ふたりが小屋を建てた山林には、秩父のシンボルである武甲山に登る人向けの茶屋が残っていたため、翔子さんはここを改装してカフェに開くことにした。

「父にも協力してもらって、山に生えていた木を自分たちで製材して床を張りました。人気メニューは鹿肉入りソーセージを使ったホットドッグなので、一度食べに来てください」(翔子さん)

◆さらに300坪買い増してヤギ小屋を建てる

 亮介さんは会社員として働きながらも、生活の基軸は‟山“に置き、いまは毎日7頭のヤギの飼育に精を出す。

「毎朝搾るヤギのミルクは自家消費していますが、将来的には近くにあるチーズ工房に委託してヤギのチーズをつくって販売したいと考えています」(亮介さん)

 2020年6月にはさらに300坪の山林を買い増して、ヤギ小屋を建てた。これからはヤギのレンタルや生体販売もやっていくつもりだという。

◆ほどよい距離感が可能にする気兼ねのない自由な山暮らし

 自然あふれる山を舞台に、ほどよい距離感で助け合いながら、経済的にも自立して暮らす新井さん家族のたくましいライフスタイルには、都会にはない幸せが感じられる。

もちろん、山での暮らしは楽しいことばかりではない。2年前の豪雨では最寄りの町に至る唯一の道路が3カ所で崩落してしまったため、重機を使って自分たちで道路を応急的に復旧させたそうだ。

 「山ではすべてを自分でやらなければなりませんが、逆にいえばだれにも気兼ねせずにやりたいことは自由にやれます。義父も定年でこっちに移住したので、これからは家族4人で協力して山での暮らしを楽しみたいと思います」(亮介さん)

 最近、亮介さんは小屋の横に露天風呂とサウナを完成させたのだが、ここで使うお湯は青木さんが愛車のウニモグで近くの温泉スタンドから大型タンクで運んでくるのだとか。こんなところでも、みごとな連携プレーが発揮されている。

取材・文/後藤 聡 撮影/林 紘輝

―[山を買う楽しみ]―

2021/9/5 15:52

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