「死んだらウイスキーで浸して…」 最後の願いをかなえる “自由なお葬式” とは
理想のお葬式とは何だろうか。近年、ごく少人数の身内で行う「家族葬」や、通夜・告別式をせず火葬場へ向かう「直葬」など “シンプル化” が進むなか、世の中には、参列者が涙したあとで笑顔が溢れる、そんなお葬式もある。
『日本一笑顔になれるお葬式』を上梓したクローバーグループ小金井祭典代表の是枝嗣人氏は、これまで故人やご遺族の希望に寄り添い「唯一無二のお葬式」をコーディネートしてきた。是枝氏が手がけてきた笑顔になれるお葬式とは?
◆棺の中が焼き菓子「サヴァラン」のように
私が営む小金井祭典では、ご遺族の意向を徹底的にヒアリングしたうえで、100人いれば100通りのお葬式を作り上げることを目指しています。なかには私の提案に対して「え、こんなことしていいの?」と、ご遺族が驚かれることもあります。
ウイスキーが大好きなおじいさんが亡くなられたときのことです。その方は生前、「オレが死んだら、ウイスキーに浸せ」と、遺言なのか冗談なのかわからない言葉を残していました。「おじいちゃんと一緒にお花見したかったよね」というご家族の願いをかなえるため、お寺であげたお葬式では、祭壇に満開の桜を飾りました。
翌日の葬儀では、おじいさんとの約束を守るために、棺にウイスキーがなみなみと注がれました。棺の中はもう、シロップを浸みこませるフランスの焼き菓子「サヴァラン」のように、ウイスキーでひたひたの状態です。火葬炉の温度は高温ですから、棺にお酒を注いでも問題はありません。
おじいさんが願い通りにウイスキーに浸されていくのを見ているご家族の表情がどん どん晴れていきます。「ああ、こんなことをしてもよかったんだ」と、安心されるのです。「これで心ゆくまでおじいちゃんにサヨナラが言える」と笑っておられました。
◆バイクのエンジン音で出棺する
別の葬儀では、バイクのエンジン音を吹かして出棺したこともあります。
故人は、海外で起きたバイク事故により亡くなられた若い男性です。多趣味な方で、特にアウトドアが好きだったようです。ご両親が最後は思いっきり息子らしいことをさせてあげたいと大きな式場を借り、お兄様が式場の入り口にキャンプ用のテントを張って、横にバイクを3台並べました。
そして式を終え、まさに出棺のときに、霊柩車の運転手さんが「バイクのエンジン音でおくるのはどうですか?」と提案してきました。この運転手さんもバイクが趣味で、式場に飾ってあった故人の出場レースの写真を見て、自分もかつて出ていたと教えてくれました。ちょうど霊柩車を出すため、故人のお兄さんにバイクを片付けてもらっていたので、お兄さんに相談すると、「そうしましょう」と賛同してくれました。
バイク事故で大切な人を亡くしており、バイクのエンジン音を聞けば嫌な思いをする人もいるのではないかと心配になりましたが、ブンブンッとスタッフが3台のバイクを空吹かしさせていると……。それを見ていた女性が泣きながら、「私にもバイバイさせてください」とアクセルを回します。「彼はバイクが好きだったんです。バイクが悪いんじゃない」と涙を流していました。
◆書道研究家の書斎を再現
亡くなった方の書斎を再現したお葬式もあります。
故人は小金井祭典の近所に住んでおられた書道研究家でした。
私は「お父様の書斎を式場に再現してみてはいかがですか?」とご提案したところ、喜んで受け入れてもらえました。
故人の書斎を再現する際、筆や道具類を運ぶのは私たちもお手伝いしましたが、実際に飾るのはご家族にお任せしました。預かった思い出の道具類を飾ることは簡単です。でも、私たちが飾ると、書斎を綺麗に再現はできても “その人らしさ” までは再現できません。それができるのは、ご家族だけです。
「おじいちゃんはいつも筆をこういう風に綺麗に置いていたなあ」
「あ、これはおじいちゃんのお気に入りだったね」
ご家族で故人を思い出しながら、みなで手を動かし再現していくから、悲しみや寂しさと自然に向き合えるのです。
◆型破りではなく、型くずし
私は、いつもサプライズに満ちたお葬式を手がけようとしているわけではありません。スタンダードなお葬式のほうが多いのは当然ですし、そもそも葬儀社は黒子でなければなりません。主役はご家族と、おくりだされる人。そこに宗教者が加わることも多くあります。この三者の合意形成のもとで、型に沿った丁寧なおみおくりができます。
茶道でも季節によってお茶の点て方を変えるように、型をしっかりと理解してはじめて、型をくずすことができます。私の手がけるお葬式は、型破りとメディアに紹介していただくことがあります。褒めていただいているのでしょうが、私は型破りではなく、型を大切にしながらご家族ごとにオリジナリティを出す"型くずし"を心がけています。
*本稿は『日本一笑顔になれるお葬式 大切な人が亡くなる前に知っておきたい葬儀の本当のハナシ』を一部抜粋、再構成したものです。