父の部屋の大掃除 ものを捨てることができない父の姿に、自分を重ねてみる

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

90歳、父の覚悟

90歳でひとり暮らしをしている父の部屋の大掃除をしました。水回りはプロの業者にお任せし、いるもの、いらないもの、父がシンプルに暮らしやすくするための大掃除です。

これまでできていたことが、できなくなってくる。それが年を重ねることだと、私も時折実感します。

もうヒールの高い靴は履けないとか、もう絶叫マシンには乗れないとか、そんなことも加齢を感じたことでした。

それが90歳ともなると、さらに実感することでしょう。怖さを感じながら、その怖さを諦めていくのだと思います。2年前は1日1万歩歩くことを課していたのが、7000歩になり、今では5000歩になりました。

ところが先日、散歩のときに後ろから車に追突されるという交通事故に遭ってしまいました。幸い右膝の打撲(かなりのものですが)と、左肘の擦過傷ですんだのですが、数週間のリハビリをすることになり、しばらく5000歩の散歩はできず。

父は焦ります。毎日歩かなければ、歩けなくなってしまうのではないか。杖をつきたくない、自分の足でしっかりと歩きたい。

今の自分をキープする。その強い気持ちが、まさに父の生きる力につながっているのだと思います。

片付けをし、もう使わないだろうと思われる台所用品をどんどん捨てました。すると、「それは使う」「捨てないでそこに置いてくれ」「ここにあった〇〇はどうした?」と、古くなっている上に、もう使わないだろうと思うピーラーや泡立て器などをとっておけと言うのです。

特別に思い入れがあるものではないでしょう。(使うかもしれない)ということでもなさそうです。

何か、自分が積み重ねてきたこと、母が倒れてから8年近く一人で暮らしてきた自負のようなものを無下にされているような……そんな気持ちからなのかもしれません。

そんな父の姿に、自分を重ねてみます。まだ高齢という年齢でないから、思いきりものを捨てることができるのかもしれない。

また、好きなものを買い、ものを増やすことができるのかもしれない。毎日歩かなくては……と思ってはいても、それを切実なものにできない。

体の所々に不調が出てくる。生え際に白髪が出てくる。代謝が悪くなってくる。加齢によるさまざまな変化を「新しい自分と出会う」と捉えているのですが、まだまだ悠長なものです。

父がデイサービスを受けるにあたり、何かあった場合の延命について質問がありました。きっぱりと、晴れやかに、こう答えたそうです。

「延命の必要はありません。そうなったら1週間くらいで死にますから」

※記事中の写真はすべてイメージ

作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー

[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
吉元由美Facebookページ
単行本「大人の結婚」

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