「昼デートじゃ満足できない…」28歳女が週末のお泊りデートを望むワケ

平日は全力で働き、週末は恋人と甘い時間を過ごす。

それが東京で生きる女たちの姿だろう。

でも恋人と、“週末”に会えないとわかると

「いったい何をしているの?」と疑心暗鬼になる女たち。

これは、土日に会えない男と、そんな男に恋した女のストーリー。

◆これまでのあらすじ

「土日には恋人とデートしたい」と考える笹本美加(28)は、土日に会えない恋人=脚本家の釘宮海斗(32)にフラれてしまう。

だが、ある男女の10年におよぶ物語を聞いた海斗は、心の中で「美加とやり直したい」と思うようになっていた…。

▶前回:「彼氏以外の男性と…」マジメに生きてきた女性の、人生が変わった夜

8th week 「決断」 ―月曜日―


美加は5日間の有給休暇を取ることになった。

土日を含めれば9連休という事になる。

「労働基準法上違反になるので、いい加減、有休を使ってください」という上司・総務部・人事部各所からのプレッシャーに折れた格好だ。

新規アプリの開発も一段落していたから、仕事的なタイミングとしては申し分ない。

が、プライベート的なタイミングとしては最悪だ。

― 海斗さん、今、何をしているのかな。やっぱり仕事かな…?

ご時世柄、そしてこの暑さで外出することもなく、ソファとベッドを行き来するだけの午前中。

頭をかすめるのは先週金曜に「別れよう」と言ってきた海斗のことだ。

昨日、会えたことは素直に嬉しかった。

広尾駅での待ち合わせ。彼を見た瞬間に「やっぱり好き」と叫びたくなった。

合流後、カフェで孝介から沙希との10年におよぶ話を聞いた。

それが終わったあと海斗と二人きりでゆっくり話をしたかったが、彼には原稿の締め切りがあるそうで、すぐに解散してしまった。

『昨日の話、海斗さんはどう思った?』

ベッドで寝そべりながらLINEを下書きする。

孝介から聞いた話は、美加には到底理解できないものだったが、この際、何でもいい。

理由をつけて海斗と会いたかった。話したかった。

― でも私は、たった3日前にフラれた身だから…。

寸前のところで送信をためらってしまう。

葛藤を続けていると唐突に海斗からLINEが入り、文字どおりベッドから飛び起きた。

『明日、会えない?』

海斗の言動に大喜び? or 困惑?

―火曜日―


美加の住む目黒まで海斗が来てくれ、ランチをすることになっていた。

住宅街の一角にある隠れ家的なフレンチ。

美加は海斗を待つつもりで約束の時間より10分早く到着したが、すでに海斗が着席していた。

「ごめんなさい」

思わず美加が言うと、海斗は笑う。

「いいよ。俺が早く着いただけだから」

「ううん、そうじゃなくて…昨日のLINEなんだけど、すぐに既読をつけちゃったのは、私も海斗さんにLINEしたくて画面を開きっ放しにしていて…」

「…ん?」

海斗の表情が、困惑の笑みに変わる。

― 何を言っているんだ、私は…。

落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせながら美加はオーダーを決めていく。

食事中の話題は、きっと“あの話”になるだろうと思っていた。沙希と孝介の10年についてだ。

が、海斗は一切、それに触れなかった。

脚本家としての最近の仕事――執筆の進み具合や、筆が止まっている箇所についての相談など――を美加に話してくれた。

「美加さんはどう?」

プロジェクトリーダーを務める新規アプリの開発がうまくいっていることや、有給休暇を使って9連休に突入していることなど、美加はごくごく自然な流れで話す。

― 今の私たちって…まるで、付き合う前の男女みたい。

思わず浮かれてしまう。

だが浮かれた分だけ、疑問も生まれる。

4日前の金曜、正式なカレシ・カノジョとなる前に「付き合うことはできない」と言ってきた海斗が、今こうして優しい笑顔で話しかけてくる状況が理解できない。

― 海斗さん、いったい何を考えているの?どういう気持ちで私をランチに誘うの?

だが美加はその疑問を口にすることはない。出会ったばかりの頃のように弾む会話を優先した。

食事を済ませて店を出ると、海斗は「執筆に戻らないと」と言い麻布十番へ帰るため、タクシーを捕まえようと手を上げた。

美加は正直、もう少し一緒にいたかったが、去り際の海斗の言葉に救われる。

「明日もランチを一緒にしてくれない?」

9連休、何の用事もない美加に断る理由などない。

―水曜日―


「旅行とかもちろんできないけど、せめてこの9連休はずっと海斗さんと一緒にいたかったんだよね」

そう告げた瞬間、美加は後悔する。

― しまった。口が滑った…。

昨日、海斗が目黒まで来てくれたお返しに、今度は美加が麻布十番を訪れ、二人はモダンな内装の創作うどん屋でランチをしていた。

二日連続で海斗と会えることが嬉しく、美味しいうどんを食べ終えた多幸感も相まって、美加はつい本音を口にしてしまう。

「ごめんね。俺は仕事があってさ…」

「いいの。わかってる」

付き合う前の男女、というより、交際中の男女のような会話をする。

「でも、もし良かったら――」

海斗は伏せていた目を上げる。

「明日も一緒にランチしない?」

「明日も?」

「土日は執筆で忙しくて会えないけど、平日は当然毎日ランチをするわけだから、せめてそのときぐらいは美加さんと会いたいんだ」

「…」

「もし良かったら、だけど…」

申し訳なさそうに海斗は覗き込んでくる。

嬉しすぎて絶句していた美加は、慌ててうなずく。髪が揺れるほどに、何度も首を縦に振った。

「会いたい。会いたいです」

しかし美加には沸々と疑問の感情が…。

―木曜日―


この日は二人の家の間を取り、白金高輪のイタリアンでランチをした。

食事中は火曜や水曜と同じように会話を楽しんだが、店を出ると前二日とは違う展開が待っていた。

「このあと少しカフェで話せない?」

海斗が言った。

「もちろんいいですけど、執筆は大丈夫なんですか?」

来週の月曜朝には締め切りがあって、それはとても大事なものだと海斗は火曜に言っていた。

「昨日がんばったから、今日はあと2時間ぐらいは一緒にいれるよ」

カフェに移動すると海斗から柔和な表情が消え、これまでの数日間には見せなかった真剣なものとなる。

「実はさ、確認しておきたいことがあるんだ」

「なんですか?」

「孝介さんから聞いた、沙希さんとの10年間のこと」

ついに来た、と美加は思った。

海斗は、日曜に聞いた“あの話”を、ここ数日はあえて避けていたのだろう。

「あの話を聞いて、美加さんはどう思った?」

「…理解できないと思いました。海斗さんは?」

「それは俺も一緒だ」

でも――と海斗は続ける。

「孝介さんが『俺と沙希は、互いの違いを認め合ってる』と言ったことが、強烈すぎて頭から離れないんだ」

たしかに、あの一言は美加にとっても強烈だった。返す言葉を失った。

「あの言葉を聞いたとき、俺がどうして美加さんのことを好きになったのか、わかった気がするんだ」

「私のことを、好きになった理由…?」

「これまでの俺はいつだって『土日に会えない男』だった。そんな俺を過去の恋人は誰も理解してくれなかった。でも美加さんは、締め切りのあるクリエイターという意味で似た職種だから、俺のことを理解してくれるかと期待したんだ」

前にも同じようなことを海斗は言っていた、と美加は思い出す。

「だから好きになったんだけど、うまくいかなかったよね」

「それは…私が『土日に会いたい女』だから…?」

「そう、そうなんだ」

と海斗は深くうなずいてから丁寧に言葉を発する。

「当たり前のことを言うようだけど、結局、俺たちは『違う人間』なんだ。でもね…」

海斗はそこまで言うと、コーヒーを静かに一口飲んだ。

「でも、なに?」

続きが気になり、美加は尋ねてしまう。

フーっと息を吐いてから海斗は答える。

「でも美加さんは、考え方が違う俺のことを懸命に理解してくれようとした。俺はこの7、8週間、そんな美加さんの姿にどうしようもなく惹かれていたんだ」

「…」

「美加さんは、互いの違いを認め合おうとしてくれた。でも俺は『考え方が違うから』と言って別れを決めた。自分がとんでもない未熟な人間だと、今さら気づいた」

そして海斗は「本当にごめんなさい」と深々と頭を下げる。

「互いの違いを認め合おうとする美加さんが、俺は好きだ」

「…」

「もし許してくれるなら…美加さんと付き合いたい。もう一度、真剣に向き合いたい。俺と、正式に、付き合ってくれませんか?」

美加は答えに迷った。

嬉しい――はずなのに、なぜか即答できない自分がいたのだ。

―金曜日―


美加はこの日、海斗と会わなかった。

『今日は、ひとりで考えたい』

朝になって海斗へLINEをした。

― 昨日の海斗さんの発言、身勝手すぎない?

時間が経つにつれ、疑問と怒りが込み上げる。

沙希は常人では理解できない考え方を持っている。

孝介はそんな沙希を「理解できない」と言いつつ、その違いを認め、許し、そして愛しているらしい。

沙希たちカップルに比べれば、「土日に会いたい」「土日に会えない」という美加と海斗は違いは些末なものかもしれない。

― だからこそ海斗さんは、やり直したいって言ってきたんだろうな。

それってズルい、と美加は思った。

― 他のカップルと比べた結果、自分たちがマシだから元サヤに戻ろうなんて…ズルいよ…。

海斗のことは好きだが、彼の言動に振り回され、疲れてしまう。

美加の脳裏に「互いの違いを認め合おうとする美加さんが、俺は好きだ」と発した海斗の声がリフレインする。

― 大事なのは『違いを認め合う』とかじゃなくて、土日に会えるか会えないかの一点だけなんだけど。

心の中で愚痴をこぼしているうちに、その愚痴に気づかされることがある。

次第に考えがまとまってきた美加はスマホを手に取ると、海斗にLINEした。

『海斗さん。明日、会えませんか?』

ほどなくして返信が来る。

『今夜でも大丈夫だよ』

しかし、美加は強い気持ちで再返信する。

『今夜ではなく、明日の“土曜”に会いましょう』

あえて土曜を強調するマークを入れて、美加はスマホを閉じた。


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最終回:土曜に海斗のもとへ向かう美加の真意とは…!?

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