チャットモンチーの楽曲を今聴くと「沁みる」ワケ

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高校生時代、私には好きで好きで仕方がない男の子がいた。周りの友達も応援してくれたりなんかしちゃって、ど真ん中ストレートの青い春だったと思う。

もちろんその気持ちは本人にもバレていて、後に告白してもらい付き合うことになった。その頃の私、とってもおめでとう。

■私だけのチャットモンチー

まだ片想い中の時の話。何かのきっかけで彼のウォークマンを見たら、チャットモンチーが入っていた。当時は「あぁ『風吹けば恋』を歌ってる人達か」くらいしか認識がなかったから、彼と仲良くなるために地元のCDショップでベストアルバムを借りた。

その頃の私はただただ恋する女子高生なので、形から入ったのだ。仲良くなりたいからCDを借りるという行為、なんとも愛おしい。純粋に人を好きになっていたんだろうなと思う。

そんなかわいい私の行為だったが、気がついたら当初の理由なんてどうでもよくなるくらい、チャットモンチーが大好きになっていた。結局彼とはチャットモンチーの話をしなかったくらいだ。きっとチャットモンチーを、自分だけで独占したかったんだと思う。

そんな、彼と同時期に好きになったチャットモンチー。彼とはもうお別れしちゃったけど、チャットモンチーはそこから10年近く経つ今も聴き続いている。甘酸っぱい高校時代も、大人になりかけだった大学時代も、大人になった今も、つかず離れずで寄り添ってそばにいてくれる存在なのだ。

節目節目に『CAT WALK』を聴いては、高校時代自転車を二人で押して歩いた帰り道を思い出す。

あぁ、あの時の1日と今の1日、全く違うものだけど、どっちも同じく尊いな――と。

■コロナで“初めて”人生を振り返ってみたら

時は今に移り、先日私は新型コロナウイルス感染症で陽性となった。

身体的にも精神的にもかなりつらい時期だったが、何年かぶりに“ゆっくりとした時間”を過ごした。

私は、高校生以来“ゆっくり”したことがなかった。

大学生の頃から、好きなものや人を知るたびに「いつか○○とこういうことがしたい」とメモをしているようなタイプだったから、出版社に入ってからは24時間365日、仕事のためのインプットの時間になっていた。好きなことを仕事にしてしまったから、プライベートと仕事の境目がなくなってしまったのだ。

「一体何年前から息をついていなかったんだろう?」と考えたけど、私は一度だって息をついたことがないのかもしれない。この問いへの答えが分からなかったのだ。私はいつだって何かを頑張っていて、なんとなく過ごした日なんて1日もなかった気がする。

特に社会人になってからは、趣味でもあり仕事でもある好きなものに対し、異常な執着心と得意の努力で、愛と情報量では誰にも劣らないと自信を持って言えるほど熱中した。おかげでいろんなものを得ることができたが、その代償はデカかった。

仕事も恋愛も、ゆっくりする時間が全く取れていなかったのだ。私は全部がずっとせわしない。

元々メンタルケアがうまくないのも重なって、うつ状態になり、極限まで追い込まれ、真っ暗な時期が何回かあった。その度に「一般の会社員だったらどうなっていたか」「安定とは何か」を考えた。そして、気づいた。今まで自分は普通だと思って生きてきたけれど、どうやら普通ではないっぽい。

こうやってゆっくり自分の時間を取ることが、こんなにも楽しい素敵な時間だなんて、今まで気づけなかった。しっかりと時事ニュースを調べることも、ずっと見たかったアニメを一気見することもできる。

人生はなんて自由なんだ、と。たまにていねいな暮らしを頑張ってやっている人がいるけど、そりゃあ頑張りたくもなるわ、と。

■この人生を好きにさせてくれたのもの

そんな自宅療養中に、ちょうどこのコラムのお話をいただいた。取り上げるアーティストの候補を見ると、そこには“チャットモンチー”の文字があった。もちろん即決し、最近はヒップホップばかりを聴いている耳に、久しぶりにチャットモンチーをあてがった。

『染まるよ』が沁みた。

過去は振り返らず前だけを見ているタイプだけど、たまには過去を振り返ってみるのも悪くないと思えた。そして、振り返ってみると、全部に対して肯定的に思えた。

せわしなく、情緒が不安定で、「いつまで荒れてるの?」と言われてしまいそうな今までの人生も、全部たまらなく特別なものに思えて、キラキラ輝いていた。私に暗黒な時期なんてなかったのだ。こんなにも、過去がたまらなく愛おしいと感じたことはない。

チャットモンチーと出会わせてくれた彼とのことはもちろん、それから今に至るまでしてきた数え切れないほどの恋愛も、経験も、全部がいい思い出だし、私はきっとこれからも素敵な人生を歩む。

だって、どんな恋愛をしていても、どんな暮らしをしていても、いついかなる時だって私は自分の人生を全速力で楽しんでたんだから。

これが大人になったということなのか。自分の人生が、今、誰よりも好きだ。

「こんなに頑張ってたんだな、私」と自分の軌跡を眺めることができた。いつも何かが物足りないと感じていた私は、もしかすると本心では自分の人生を良いものと思えていなかったのかもしれない。

でも、25歳の今、チャットモンチーが“人生への恋愛”を教えてくれた。本当に幸せな生き方とは、自分の人生を愛してあげられることなんだ。

あの時ウォークマンにチャットモンチーを入れていたセンスのある彼、チャットモンチー、そして今まで頑張ってきた自分、ありがとう。きっと私は、何年か後も、変わらずにチャットモンチーを聴いている。

あぁ、10分後も10年後も、同じように生きているだろうか。

(文:佐々木笑、イラスト:オザキエミ)

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  • マイナビウーマン

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