セリフに宿る言葉の力を感じ、背筋を正された『ドライブ・マイ・カー』三浦透子さんインタビュー

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2021年度のカンヌ国際映画祭で日本映画としては史上初となる脚本賞を受賞した映画『ドライブ・マイ・カー』が8月20日から公開されます。最愛の妻を失い葛藤する主人公を再生へと導く専属ドライバーを演じた三浦透子さんに、濱口竜介監督の演出方法や主演の西島秀俊さんの印象などをうかがいました。

<作品概要>

原作は村上春樹の短編小説「ドライブ・マイ・カー」。濱口竜介監督が惚れ込み、自ら脚本も担当。原作の空気感を保ちつつ演劇の要素を大胆に取り入れ、ストーリーと“映画内演劇”が重層的に呼応しあう物語を紡ぎだした。

主人公の家福を演じるのは西島秀俊。行き場のない喪失を抱えながら、希望へと一歩を踏み出していく心の機微を見事に表現した。ドライバーのみさきには、高い演技力に加え、歌手としても活躍するなど多彩な才能で注目を集める三浦透子。さらに、物語を大きく動かすキーパーソンの高槻に岡田将生。家福の妻・音を霧島れいかが演じた。

また、韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、ドイツ、マレーシアからオーディションで選ばれた海外キャストも出演。劇中の多言語劇を中心に9つの言語を交えて展開する。

本作は今年7月に開催された第74回カンヌ国際映画祭で、日本映画としては史上初となる脚本賞を受賞。加えて、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の独立賞も受賞し、見事、4冠獲得の偉業を果たした。

<あらすじ>

舞台俳優であり演出家の家福(西島秀俊)は、愛する妻の音(霧島れいか)と満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう。

2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会う。さらに、かつて音から紹介された俳優・高槻の姿をオーディションで見つけるが…。

喪失感と“打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福がみさきと過ごし、お互いの過去を明かすなかで、それまで目を背けてきたあることに気づかされていく。

的確に言葉選びを選び、仕事に対する姿勢もカッコいい魅力的な役柄「みさき」

――出演のオファーを受けたときのお気持ちをお聞かせいただけますか。

濱口さんには『想像と偶然』のオーディションで初めてお会いしたのですが、そのときに「みさきがいた」と思ったとオファーのときにうかがいました。脚本を読むと、みさきは相手に対して的確な言葉選びができる人で、仕事に対する哲学や姿勢もカッコいい。こんな魅力的な役をやらせたいと思ってもらえたんだということが率直にうれしかったです。

ただ、原作を書かれた村上春樹さんはファンの方がたくさんいらっしゃるので、自分がみさきを演じることをファンのみなさんがどう受け取ってくださるかが心配でした。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――原作は村上春樹さんの短編小説集「女のいない男たち」に所収されている同名小説ですが、三浦さんは村上さんの作品をよく読まれますか。

村上春樹さんの本は読んだことはあります。「レキシントンの幽霊」が好きです。「女のいない男たち」は映画のお話を頂いてから読みました。小説を読んだときに感じた、登場人物たちの心の中に沈んでいくような感覚をどうやって映像にしていくのだろうと思いましたが、その小説の魅力がちゃんと脚本に残っている。追加された情報が多く、設定も変わっているのに、漂っている空気感や緊張感はむしろ増幅されていると感じられました。キャラクターの魅力も広がっていておもしろかった。村上さんの文体と濱口さんの文体のマリアージュも魅力だと思います。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――キャストの方にうかがうとみなさん、脚本がおもしろかったとおっしゃいます。三浦さんはいかがですか。

セリフが本当に素敵なんです。読み始めると最後まで本が手放せなくなります。完成した作品を見たときも感じたのですが、濱口さんの作品に出てくるキャラクターはみんな思考して言葉を発している。言葉って人を救うことがあるけれど、殺すこともありますよね。言葉には良くも悪くも強い力というか恐ろしさがあることを、濱口さんはわかっておられるのだと思います。普段から言葉をきちんと選んで語りかけてくださっている印象があるのですが、キャラクターたちにもその魂が宿っていると感じました。だからセリフを発したときに言葉の力を感じ、背筋を正されるような気持ちになるのだと思います。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

共演者との本読みを通じて、相手の声の変化に敏感になる身体の状態を作る

――撮影に入る前にみなさんで本読みをされたと聞いています。

本読みは映画の中でもやっていましたが、感情を入れずに淡々と脚本を読む作業です。その人にとって芯のある、本来の声を作る作業と濱口さんはおっしゃっていました。

これはあくまでも私の解釈ですが、本読みは芝居へのアプローチというよりはフィジカルへのアプローチだと感じました。ずっと読んでいるのでセリフがしっかりと頭に残るし、相手の声の変化にも敏感になる。そういう身体の状態を作ることで、現場に入ってセリフのやり取りをしたときに、相手のちょっとした表情の違いや声色の変化に気づきやすくなるのです。それが相手とお芝居をするときにプラスになった気がします。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――他の監督にはない演出方法ですね。

私は声や歌の仕事もしているので、音に対して、普段から自然と意識が向きます。ある時濱口さんが「歌って、歌詞もメロディも決まっているけれど、歌うたびに違う感情が流れたり、人の感情を動かしたりしますよね。セリフにもそういう力があると思います」というお話をされて。言われていることの意味がとてもよくわかりました。当たり前のようなことかもしれませんが、歌はそのままの歌詞とメロディがやっぱり素晴らしい。生まれた時点で既に魂が宿っているんです。だから歌う際にはそれに何かを加えようとするのではなく、ただそのまま届けようという意識があります。そういう考え方が、お芝居の現場にも活かせるんだと思いました。濱口さんの現場でないとできなかった発見だと思います。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――本読みを通じてみさきという役を作っていったのでしょうか。

私はみさきに似ているなんて言えるほど出来た人間ではないけれど、でも共感できると思える部分がたくさんある役でした。普段役にアプローチする際、「この人はなぜこういう風に考えるんだろう」と疑問に思う部分というのが多少なりあります。それをわかるに変えていく過程を通して役に近づいたと実感が持てるようになるのですが、みさきに関しては最初から分からない部分がありませんでした。だから“何をしよう?”と思ったくらい。それを濱口さんに話したところ、「何か特別なことはせず、ただ運転の練習をしてくれればいいです。運転の練習がみさきの役作りだと思ってください」といわれました。なので、とにかく運転練習を一生懸命やろうと思いました。事実、運転をしながら考えていたことがみさきへの理解に繋がったと感じています。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

役作りのために運転免許を取得も、撮影本番は外車の左ハンドル

――本作をきっかけに車の免許を取られたそうですね。

運転技術がものすごく大事になる役だったので、免許を持っていない私にオファーした濱口さんはすごいなと思いました。後から聞いた話ですが、濱口さんは免許を持っているけれど、ご自身は運転をされないとのこと。だからオファーできたのかなと思いました(笑)。出演が決まってから撮影まであまり時間がなかったので、17日間で免許をとりました。あの頃は毎日一日中教習所にいるような感じでした。しかもそのときは撮影で用意できるサーブ(saab)がマニュアルなのか、オートマなのかわからなかったので、一応、マニュアルで取っておこうとマニュアルコースで受けました。結果的にコロナで撮影が延期になり、そんなに急いで取る必要はなかったのですが、運転の練習に沢山時間を割くことができたので結果的によかったと思っています。かなり大変でしたが、教習所に通うのはとても楽しかったです。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――運転が向いているのかもしれませんね。

車はもともと機械として好きでした。ガソリンスタンドでアルバイトをしていたこともあるのですが、車って人となりが出ますよね。車の中もそうですが、運転にもその人の性格のようなものがあらわれると思いますし。また時代によって車の形も変化していますが、そこに世の中が反映されているというか。人々の生活に根付いた機械だなっていうのを強く感じます。

ただ、車自体が好きであることと運転が上手であることはまた別です。苦手だったらどうしようと心配でした。けど運転もすごく楽しかったし、好きだと感じられたので、ほっとしました。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――教習所では右ハンドルの車で練習したかと思いますが、サーブは左ハンドルですよね。苦労しませんでしたか。

免許を取った後に撮影に向けて、左ハンドルの車の練習時間をかなり設けていただきましたが、左ハンドルということで高級車ばかり。緊張しました。最初はとにかく都内をいっぱい走って、最後は高速でも練習しました。練習のためとはいえ、初心者マークをつけた高級車が走っていたら周りの車の方々は嫌ですよね。申し訳ない気持ちでした。プライベートでは運転をしていないので、私の運転経験はほぼこの作品だけ。今はむしろ右ハンドルが怖い気がします。運転をするなら、改めて練習しないといけませんね。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――現場での運転はいかがでしたか。

免許を取ったばかりで、不安な気持ちもありましたが、スタッフのみなさんは私の運転技術に対してとても信頼してくださっていて。自走シーンも予定より増えました。安心して任せてくださることが嬉しかったしリラックスにつながりました。ただ、運転が上手であることを画面を通して伝えるということはやはり難しかったです。“みさきだったらどういう風に運転するか”ということにこだわって、運転手としてのみさき像を私なりに作っていきました。

具体的には綺麗な運転を心がけました。上手にも種類があると思うんです。例えば、慣れている人だと片手でハンドルを持ったりだとか、リラックスした姿勢で運転するようになる。でもみさきがとる行動としては少し違うと思いました。みさきとしての運転の上手さを考えたときに基本の基なのではないかと。運転に慣れてしまわず、人を乗せているという緊張感を常に持って運転をしているだろうと考えました。その上で演出部の方や運転練習に付き合ってくださった車のプロフェッショナルな方たちに相談したところ、「それだったらこういう運転の仕方をするのではないか」とか、「こういう目線の配り方がいいんじゃないか」とたくさんのアドバイスをくださいました。それが映像にもきっとあらわれていると思います。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――運転していると共演者の顔が見えません。顔を見ないで演技しながら運転をするというのはマルチタスクですね。

運転をしながらちゃんと会話するのはとても難しいこと。しかも相手の顔を見ずにあの言葉選びができるのは、同じ空間にいる人からいろいろなことが感じ取れる繊細さがあり、気遣いができる人だから。いろいろな意味でものすごく視野が広くないとできません。やってみて改めてよくわかりました。

ただ難しいけれど、それがみさきたるところ。マルチタスクを技術的にこなせるようになるための作業が役作りに直結していると思いました。美しく運転している姿を見せることがいちばんみさきという人間を伝えることに繋がると思ったので、みなさんに助けていただきながら一生懸命取り組みました。

西島さんは普段からよく運転をされているので、運転しながらのお芝居が初めてで緊張している私に「車を牽引されているときはこの辺を見たらいいよ」とさり気なく声を掛けてくださいました。運転している人がよくする癖といった細かいところも教えていただきました。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

西島秀俊さんとの間の緊張感が緩んでいく瞬間がスクリーンにも反映

――西島秀俊さんとは今回が初めての共演ですね。

西島さんは寡黙というかクールな役を演じている印象があったので、お会いしたときに柔らかい方でびっくりしました。現場では笑顔を交えてすごく穏やかにお話ししてくださり、バラエティ番組などで拝見するフランクな西島さんそのものでした。しかもオンとオフがはっきりしているという感じではなく、リラックスしている時間と集中している時間が地続きにあるのです。ちょっと不思議な感じですが、たくさんの現場を経験されてきた西島さんだからこその居方だったのかもしれません。そうしてくださることで私は安心できました。

私が運転をしているときなど、セリフのない場面もありましたが、話さなくても緊張しないし、落ち着いていられました。2人でいる時間が自然とそうなっていったというのが、家福とみさきに現れていると思います。一緒にお芝居させていただいてものすごく勉強になりました。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――2人の関係がスクリーンにも現れていたのですね。

車という狭い空間に2人でいると、会話をしなくても相手の存在を気にせざるを得ません。その緊張感が緩んでいく瞬間を現場で体験できた気がします。それって家福とみさきの間にもあった瞬間だと思うので、体験できたのは大きかったです。映画にもちゃんと反映されていると思います。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――助手席の家福からタバコを渡されて、タバコを吸いながら運転し、ルーフを開けてタバコを持った手を家福とともに外に出したまま走るシーンが印象的でした。

あのシーンはすごく大変でした。前のカメラカーとの距離を一定にするために速度を保ちつつ、当然ですが車線の真ん中を走らなくてはなりません。ところが、あのサーブは実際の速度がメーターに反映するのが遅く、メーターでスピードを維持しているつもりだとスピードが落ちて、カメラカーとの距離が空いてしまうのです。体感で判断してアクセルとブレーキをちょっとずつ押すという、私にはすごくハードルが高いシーンでした。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

―――この作品で心に残るセリフはありますか。

たくさんありますが、高槻と家福が車の中で長く語るシーンで、高槻が愛する人を理解するためにはどうしたらいいのかを語っていました。そのセリフは、実際に運転しながら聞いていて考えさせられました。高槻のセリフはどれも結構好きです。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――三浦さんは「私が演じたみさきという女性は、自分の足で立って、仕事をして生きていく覚悟のある人です。彼女の姿勢から、私はたくさんのことを学びました」と作品についてコメントを出されています。撮影後にみさきのことを思い出されたりしましたか。

働くということに対するみさきの姿勢や哲学はものすごくカッコいいし、自分もそうありたい。まだまだみさきのようにはなり切れないけれど、この先も、折に触れてみさきのことを思い出すだろうし、「みさきだったらどうするのかな」と考えるのではないかなと思います。

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

コロナ禍の中で自分をみつめ、そしてその先の人生を生きる

――これから作品をご覧になる方にひとことお願いいたします。

みさきという人間は、深い悲しみを経験し乗り越えた、その後の人生を生きている人だと思います。家福が絶望から抜け出していけたのも、その先を生きているみさきとの出会いがあったからこそ。私自身もコロナ禍のなかで、自分の人生や働くということについて考える時間がすごく増えました。ステイホームの時期にいろいろ考えて不安になることもありましたが、みさきとの出会いで救われた部分がありました。このタイミングでこの作品と出会えて本当によかったです。ご覧になった方にも彼女の優しさが何か与えられるものがあるんじゃないかと信じています。

あとはとにかく真っ赤なサーブがとっても魅力的です。日本中を駆け巡る様子がかっこいいので、ぜひ映画館でその姿を観ていただけるとうれしいです。


(取材・文:ほりきみき)

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

<プロフィール>

三浦透子

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

1996年10月20日、北海道出身。02年、サントリーのCM「なっちゃん」で2代目なっちゃんとしてデビュー。主な出演映画は、『私たちのハァハァ』(15/松居大悟監督)、『月子』(17/越川道夫監督)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18/冨永昌敬監督)、『ロマンスドール』(20/タナダユキ監督)、『おらおらでひとりいぐも』(20/沖田修一監督)など。また、『天気の子』(19/新海誠監督)では、主題歌のボーカリストとして参加。昨年には、初のオリジナル作品となる1st mini album「ASTERISK」を発売するなど歌手としても注目を集める。今後は、映画『スパゲティコード・ラブ』(21/丸山健志監督)の出演や、新曲「通過点」がテレビ東京で放送中のドラマ「うきわ―友達以上、不倫未満―」のエンディングテーマに決定している。

『ドライブ・マイ・カー』

©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

原作:村上春樹 「ドライブ・マイ・カー」 (短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介 
脚本:濱口竜介 大江崇允 
音楽:石橋英子
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生
配給:ビターズ・エンド 
©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
2021/日本/1.85:1/179分/PG-12
8月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

映画『ドライブ・マイ・カー』公式サイト

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