「手切れ金を渡すから」と言われ、結婚を渋られた男。しかし家柄が良い彼女を諦めきれず…
「愛ではなく、金目当てで結婚するのは女性だけだ」という考えは、もうひと昔前のものなのかもしれない。
男にだって“玉の輿願望”があると、私たちはなぜ気づかなかったのだろう。
これは逆・玉の輿で成り上がりたいと願い、夫婦になった男と女の物語。
あなたの周りにも、逆玉狙いの男がいるのかも…?そこのお嬢さんも、どうぞお気をつけて。
▶前回:夫との子を産む気になれないと、嘆く妻。ある日“最低な計画”を思いついてしまい…?
家飲みが大好きな、IT系サラリーマン友斗(30)
「真穂、これからもよろしくね」
今日は真穂と付き合って10回目の記念日。いつものレストランで、久しぶりに2人だけのディナーだ。
子どもは義母が見ていると言ってくれたので、甘えさせてもらった。
「Thank you for the 10th anniversary」のメッセージ付きケーキと10本のバラの花束、そして欲しがっていたエルメスのボリードを用意した。
いつも仕事をしながら、妻としても母としても頑張ってくれているお礼だ。
「わ!ありがとう。友斗と家族になれて本当に嬉しいよ」
そう言う真穂の顔は、昔と比べて少しだけ目尻のシワは増えたけれど、こぼれ落ちそうな大きな目や艶のある肌は相変わらずだ。
― いろいろあったけれど、可愛くて強い真穂と結婚できてよかったな。
普通のサラリーマンである俺が、超お嬢様の真穂を手に入れられた理由はわからないが、今のところうまくやれているのだ。
ただのサラリーマンが、超お嬢様をゲットできたワケ
真穂と出会ったのは、大学時代に入っていたバスケットボールサークルだった。
最初は元気がよくて可愛い彼女を友人としか思っていなかったし、お酒を飲んで男女の関係になるなんてことは一度もなかった。
しかし、あるきっかけが俺たちを恋人にしてくれたのだ。
「もしもし、友斗…。あのな、会社が倒産した」
忘れもしない、20歳の夏の終わり。突然掛かってきた父からの電話で、実家の倒産を告げられた。
― 嘘だろ、そんなことって…。
父は長野で物流の会社を営んでおり、母は一度も働いたことのない専業主婦だった。
慌てて実家に帰ると、引っ越しの準備をしていた父と母の姿を見てしまった。その光景を見て悟ったのだ。これまでの生活はもうできないと。
「ごめんな、友斗」
涙を堪えてそう言う父。横にいた母は、何もできなかったのだろう。ただ泣きながらダンボールに荷物を詰めていた。
大学に入り、女性もバリバリ外で働けることを改めて知った。
だから、母への虚しさが募ってしまったのだ。家事をするだけでなく、もう少し経済的に父を支えたりできたのではないか、と。
― 情けないよなあ。俺は必ず、働く女性と一緒になろう。
そう決意した。しかし、なかなか気持ちは晴れなかったのだ。それでも、何事もなかったかのように大学へ通う俺に寄り添ってくれたのが、真穂だった。
「友斗さ、なんかあった?少し痩せたよね」
俺の様子がおかしいことに気づいてくれたのが嬉しくて、友人だった真穂を初めて異性として意識したのだ。
それからというもの、彼女は常に側にいてくれた。愚痴に付き合ってくれたり、時には手料理を振る舞ってくれたりも。
こうして心の支えになってくれていた真穂に、俺から告白したのだった。
そしてそのときに初めて、彼女が“お嬢様”だということを知ったのだ。
◆
「真穂、俺と結婚してください」
社会人3年目。エコノミークラスの飛行機で行ったハワイで、俺がした精一杯のプロポーズは、彼女には物足りなかったかもしれない。それでも喜んで受け入れてくれた。
そんな仲のいい俺たちにも、たった1つだけ問題があった。それは義父の存在だ。
真穂の実家は、祖父の代から手掛けるリゾート施設やゴルフ場が、国内にいくつもあるような家。当然のように“その家柄に見合う相手”しか受け入れないつもりだったのだ。
「真穂を諦めてくれないか。…言っていることはわかるね?」
ある日いきなり掛かってきた電話で、そう告げられた。
その後も、しつこく手切金の話をされたり「倒産した会社の血が混ざるのは困るんだ」とハッキリ言われたこともある。
けれど、どうしても真穂のことが大好きで諦められなかったのだ。
最終的には義父も諦めたのか「勝手にしてくれ」と言われ、俺たちは結婚した。
そうして2人の間に生まれた孫のことは、義父もちゃんと可愛がってくれる。でも俺とは未だに、面と向かって会話してくれたことなど、一度もない。
…もちろん「お義父さん」と呼んだことも。
両親に猛反対されながらも、お嬢様はなぜ結婚を決めたのだろうか
一方で、こういう軋轢があって良かったとも思っている。
「真穂の実家が太くても頼れない…」という気持ちがあったから、頑張ってこられたようなものだからだ。
実は副業での収入も含めると、俺は年収2,000万を超えている。だから妻の収入と合わせると、かなり余裕のある生活ができるのだ。
3歳と2歳の子どもも、公立に進学できればそんなにお金はかからない。
義父の問題はあるにせよ、これからが楽しみなのだ。
真穂「家柄で男を選ぶ女は、たいしたことないから」
「つい最近さ、実家の会社が倒産して…」
10年前。そう言って憔悴しきっている彼の顔は、悲しさを通り越し絶望したような表情をしていて、今でもよく覚えている。
大学までずっと一貫校に通っており、周りも似たような子ばかりの環境で生きてきた私が、初めて「人を助けたい」と思ったのも、このときだ。
だから最初は異性として…だとか、そんな意識はなかった。
しかし友斗をサポートし始めると、次第に私の考え方が変化していったのだ。
懸命にアルバイトをし、切り詰めて生活している彼を見て、生きることの大変さを自然と学んだ。
― 私は本当に恵まれていたんだなあ。
そう思うと、これまで何ひとつ不自由なく育ててくれた親への感謝の気持ちも増し、卒業後もきっちり働くと決めて、今に至る。
だからこそ、友斗との結婚を父から猛反対されたのは本当にツラかった。
「倒産した会社の血が混ざるのは…」と、両親が話し合っているのを聞いてしまい、ひとり涙が止まらなかった夜もある。
一方で、父が反対する理由も理解していた。結婚は当人同士だけで決められないということも。
それでも私は父の反対を押し切り、友斗と結婚できてよかったと思っている。
友斗は、家事にも育児にも協力的だ。それに私のことをいつも尊重してくれて、稼ぎだって増えるように頑張っている。
私も実家で働いていて会社の株も持っているし、何かあっても最悪の場合、家計を支えられるから問題はない。
だから「相手の家と経済的な格差があるから…」なんて言っている女子は、正直たいしたことない家の育ちなのではないか、と感じてしまう。
夫に何かあったときは、自らの力でどうにかするか、実家に助けてもらえばいいだけだから。
それなのに“相手の実家が裕福であること”を望むのは、自分の実家に経済的な自信がない、何よりの証拠だと思うのだ。
― 経済力より、夫には愛を求めなきゃ。
目下の私の目標は、長女の小学校受験を成功させること。
今は父の友人が経営するスクールに預けているが、小学校はやはり自分と同様、私立受験をさせるべきだと考えている。
だから今晩、友斗に話してみるつもりだ。
彼が大好きな、豚の肩ロースをトマト缶とバルサミコ酢で煮たおつまみと、ワインをテーブルに用意して。
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