【ネタバレ考察】ジブリ映画『風立ちぬ』堀辰雄の同名小説との関係は?

拡大画像を見る

宮崎駿監督のジブリ作品『風立ちぬ』。ベースとなった堀辰雄の同名小説や小説「菜穂子」など、モチーフとなった作品から物語を紐解きます。

『風立ちぬ』あらすじ

風立ちぬ(2013)

風立ちぬ(2013)

2013年/日本/126分

作品情報 / レビューはこちら

第二次世界大戦中、日本海軍の戦闘機「零式艦上戦闘機(零戦)」を設計した実在の航空技術者堀越二郎をモチーフに、創作を交えながらその激動の人生と飛行機づくりの情熱と葛藤を描いていく。

飛行機が好きだった少年時代の二郎は、夢の中で飛行機の設計士カプローニ伯爵と出会い、航空技術者を志す。やがてその情熱は実を結び、飛行機を開発する会社に就職。海軍戦闘機の開発に携わるが、完成品が空中分解する事故を起こしテスト飛行は失敗に終わる。

挫折を味わった二郎は軽井沢でしばし休養を取ることにし、そこで、関東大震災の時に助けた少女菜穂子と再会する。二郎は彼女の朗らかさに次第に惹かれて行き、仲を深め合った二人は結婚を約束する。

二郎の仕事が多忙を極める中、徐々に病気が進行していく菜穂子。雪の降る日、サナトリウムを抜け出した菜穂子は、二郎のそばで幸せなひとときをかみしめる。そのまま二人はささやかな祝言を挙げるのだった。
結婚生活がはじまるが、菜穂子はますます衰弱していく。ある日、菜穂子は二郎の元を去りサナトリウムへ戻っていく。

失意の二郎は夢の中で、戻ることのなかった飛行機たちと菜穂子に思いを馳せる……。

© 2013 Studio Ghibli・NDHDMTK

スタジオジブリ製作の劇場用長編アニメーション作品としては18作目、宮崎駿監督作としては7作目にあたる、2013年の作品。主人公二郎を『新世紀エヴァンゲリオン』などの監督をつとめた庵野秀明が担当したことでも注目されました。
また、本作を監督した宮崎駿がこの作品を最後に引退を表明したことでも、大きな話題に。(しかしのちに引退を撤回しています)

本作は、実在の航空技術者堀越二郎の人生と堀辰雄の小説から着想を得て監督が自ら書き上げた原作漫画をもとにしています。監督はインタビューで、
「この時代の人で一番自分に身近に感じられたのが堀越二郎と堀辰雄だった。堀越二郎の内面はおのずと堀辰雄になっていった」
と語っており、1930年代それぞれの道を歩みながらも同時代を生きた二人の若者を融合し、そしてものづくりに携わり「飛行機好き」である自身も投影させて、戦闘機を設計しながらもそれが戦争の道具となることに葛藤もありつつ、しかし飛行機への並々ならぬ情熱を持ち、「美しい飛行機」への夢のために力を尽くす、どこか矛盾もはらんだ人間らしい堀越二郎のキャラクターを作り上げました。

小説『風立ちぬ』とは?

本作のタイトルは堀辰雄の1938年刊行の小説から借用されており、内容においても共通点が見られます。

小説『風立ちぬ』は作家堀辰雄の実体験をもとに書かれたもので、結核に冒されている主人公と婚約者の限りある尊い日々を描いています。小説に登場するヒロイン節子のモデルとなっているのは堀の婚約者だった矢野綾子です。
作中に登場し、タイトルの元にもなっている、ポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓地』の一節を堀自身が和訳した「風立ちぬ、いざ生きめやも(風が吹く、生きていかなければ)」は、映画のキャッチコピー「生きねば」と通じるものがありますね。

また、堀は「風立ちぬ」の後に「菜穂子」という小説を書き上げており、映画『風立ちぬ』の菜穂子の名前はこちらから取られています。小説の「菜穂子」も結核を患っている女性であり、雪の日にサナトリウムから東京にいる夫の元に向かうというシーンもあります。映画の菜穂子との共通点が見られますね。

ちなみに、小説は度々映像化されており、1954年版と1976年版の映画が特に有名です。1976年版は山口百恵主演文芸シリーズの第5作目で、三浦友和とのゴーデンコンビ共演が話題を呼びでヒットを記録しました。戦争を時代背景として色濃くしている悲恋、という点はよりジブリ作品と近いものがあるように思えます。

風立ちぬ(1976)

風立ちぬ(1976)

1976年/日本/94分

作品情報 / レビューはこちら

また、監督は敬愛する作家である堀田善衛の作品からも大いに影響を受けたと語っており、随筆「空の空なればこそ」で引用されている旧約聖書からの一節「凡て汝の手に堪ることは力を尽くしてこれを為せ」の「力を尽くす」という言葉は、映画でもカプローニ氏が夢の中で二郎に度々語り掛けるセリフでもあります。

宮﨑監督「最後の作品」?

前述のとおり、本作は監督にとって格別に思い入れのあるものであっただろうことは、構想に16年をかけたことからもうかがえます(とはいえ模型雑誌「モデルグラフィックス」に連載していた原作は自分の道楽のために書いていたとも語っており、当初は映画化には難色も示していました)。

宮﨑監督はこれまでにも、『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『紅の豚』など、印象的な飛行機が登場する作品を手掛けてきました。
本人も飛行機や戦闘機への愛を語っており、監督の中では重要なモチーフとなっているのがわかります。
まさに、これまでの「飛行機愛」を費やしたのが本作だったのではないでしょうか。

特に注目すべきは終盤、二郎が夢で見る「飛行機たちの墓場」のシーン。『紅の豚』でも生死の狭間をさ迷うポルコ・ロッソが似たような光景を見るシーンがありましたが(ちなみに原作漫画では菜穂子以外は豚の顔をしています。『紅の豚』は本作と地続きになっている作品と言えますね)、まるでそれは、これまで描いてきた作品への弔いのようにも見え、これを最後の作品としたかった監督の思いはひしひしと伝わってくるものがありました。

© 2013 Studio Ghibli・NDHDMTK

映画『風立ちぬ』は、堀辰雄の小説「風立ちぬ」の悲恋、堀越二郎の飛行機への情熱と葛藤、そして「力を尽くす」という堀田善衛の精神性を引き継いだ、宮崎駿監督の集大成と言える作品です。

関連リンク

  • 8/16 2:12
  • 映画board

スポンサーリンク

記事の無断転載を禁じます