ネットで騒然「8月20日富士山噴火説」の真偽、火山学の専門家はこう見る

 現在、ネット上でまことしやかにささやかれる噂がある。それは、「8月20日に富士山が噴火する」という一つの予言だ。その発端は、1999年に刊行された漫画『私が見た未来』(著者:たつき諒/朝日ソノラマ)。同作では、作者のたつき諒氏が見た予知夢が紹介されているのだが、「大災害は2011年3月」との東日本大震災の予知に始まり、フレディ・マーキュリーやダイアナ妃の早逝などを指摘。作中で紹介された予言の的中率は9割にも及ぶ。

 この“予言の書”に記され、刻々と日が迫っているとされるのが、2021年8月20日の富士山噴火だ。そのほかの予言と同様に、富士山噴火が発生する可能性について、プロの火山学者はどう見るのか。自らが監修を手掛けた『富士山噴火 その時あなたはどうする?』の発売を控える、京都大学特任教授・名誉教授の鎌田浩毅氏にその真偽を聞いた。

◆「富士山は100%噴火する」のが、火山学者たちの常識

 まず、富士山は噴火するものなのか。それについて、鎌田氏は「火山学的には富士山は100%噴火する」と断定する。

「富士山が噴火することは間違いありません。でも、それがいつなのかを前もって言うことは不可能です。たとえば、雑誌やテレビで富士山噴火を年月日まで明言する人が後を絶ちませんが、これは科学的にはまったく根拠がありません。確かに噴火予知は進歩しましたが、残念ながら一般市民が知りたい『何月何日に噴火するのか』に答えることはまだまだ無理なのが現実です。火山学者が予測できることは、低周波地震が起きてから数週間から1ヵ月ほど後には噴火が始まる可能性が高い、というだけです」

◆専門家が24時間体制で見守る富士山の噴火状況

 では、日本の火山防災の現状はどうなっているのだろうか。

「現在111個ある活火山のうち、50個の活火山は『常時観測が必要な火山』とされています。これらの活火山は、今後100年程度の中長期的な噴火の可能性があるため、気象庁が24時間体制で監視しています。もちろん富士山も、24時間監視中の火山の中に含まれています。具体的には、各火山に地震計や傾斜計、監視カメラなどを設置して観測し、得られたデータをすべて気象庁の火山監視・警報センターに送っているのです」

 なお、他の49火山と比べると、富士山は圧倒的にサイズが大きいため、地震計や傾斜計などの観測点の点数が多いのも特徴だとか。

「現在の観測態勢は、富士山においても完璧とは言いがたいですが、火山性地震や地殻変動などの現象は正確に記録されています。我々専門家は24時間態勢で、観測機器から届けられる情報をもとに富士山を見張っている。なお、現在の状態は直ちに噴火につながるものではないことも、知っておいていただきたいですね」

◆自然災害は、不意打ちを食らったときこそ被害が最大に

 専門家が24時間体制で富士山を見守っているからといって、そう簡単には安心はできない。なぜなら、自然災害で一番注意すべきは「不意打ちを食らったタイミング」だからだ。

「自然災害では何も知らずに不意打ちを食らったときに、被害が最大となります。日本は世界有数の火山国といっても、実際に噴火を見た人はそう多くはありません。つまり、多くの人は噴火を知らないということ。人間は経験のないことに直面した時にパニックに陥りやすくなります。したがって、富士山の噴火に対しても、前もって最新の情報を得ておくことが重要なのです。いざ、災害が起こってからでは遅いからこそ、『平時のうちに準備する』のが防災の鉄則です」

◆富士山の火山灰が、飛行機や新幹線を止め、交通の大動脈を寸断する

 では、仮に富士山で噴火が起こったら、どんな事態が発生するのだろうか。

「仮に、富士山でマグマが上昇して噴火に至った場合、これまでとは異なる様相の災害が起きることは間違いありません。たとえば、江戸時代の宝永噴火と同規模の噴火が、もし現在起きたと仮定した場合、首都圏を含む広い範囲で被害が想定されます。富士山の噴火では、溶岩流、土石流、火山灰による厚い堆積物という、直接起きる被害がまず想定される。そして、大量の火山灰が空中に飛散するでしょう」

 溶岩流や土石流によって家や田畑に被害が起こるのと同時に、広範囲にわたって被害を与えるのが火山灰の存在だ。一見危険性が少ないように感じられる火山灰の被害こそが、実はかなり深刻なのだと、鎌田氏は続ける。

「何十日も舞い上がる火山灰は、通信・運輸に大混乱をきたす恐れがあります。たとえば、富士山の南を走る東海道新幹線と東名高速道路には、きわめて大きな障害となり、へたをすれば何日も止まってしまうことも起こりえます。日本では、上空高く舞い上がった火山灰は、偏西風に乗って東方へ飛来します。仮に、宝永噴火と同規模の噴火が起きた場合には、富士山の東にある羽田空港はもとより、成田空港までもが使用できなくなるはず。これらだけでも、首都圏を結ぶ大動脈は寸断されてしまいます」

◆噴火で続出するのが、目の痛みや気管支炎喘息など

 また、火山灰は、健康にも大きな影響を及ぼすという。

「地面に降り積もった細かい火山灰は、晴れの日に舞い上がると、飛散してなかなか消えることがありません。さらに、ごく細粒の火山灰は室内にも入り込む。花粉症以上に鼻やのどを痛めることがあります。また、目の角膜を痛めや気管支炎を起こす人が続出し、医療費が一気に増大する恐れもあります。また、火山灰の風下の地域では、居住環境の悪化が懸念されます。1980年に米国西部のセントヘレンズ火山で起こった噴火や、1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山の噴火でも、風下の広い範囲で居住環境の悪化が起こりました」

◆火山灰によって、パソコンやスマホの通信も遮断

 そして、現代社会において、何よりも怖いもの。それは、ネットインフラの寸断だ。

「細かい火山灰は、コンピュータや携帯電話などの電子通信機器にも大敵で、思わぬ障害に長期間悩まされる恐れがあります。1991年の雲仙普賢岳の噴火では、観測小屋の中にあったパソコンが動かなくなった。これは、コンピュータの放熱用の穴から、微細な火山灰が入り込んだためだったとか。同様に、細かい火山灰は浄水場に設置された濾過装置にダメージを与え、水の供給が停止する可能性もあり、火山灰が大都市のライフラインに及ぼす影響も心配されます。

 特に、富士山の場合は、風下にあたる東側に、東京や横浜など政治経済の中心地があります。大量の火山灰が流れ込むハイテクの高度情報都市は、細かいチリに最も弱い存在といえるでしょう。もし富士山が大噴火すれば、首都圏だけでなく関東一円に影響をもたらすのは必定です」

◆噴火によって引き起こされる大混乱の中で、大切なのは「正しく恐れる」こと

 一度富士山が噴火してしまえば、日本の中枢である関東がマヒし、いずれは日本中の機能が止まり、大混乱が起こることが予想される。だが、恐怖にあおられてばかりではいけないと、鎌田氏は警鐘を鳴らす。

「我々は江戸時代とは、比較にならないほど高度で快適な機能を持つ都市に暮らしています。同時に、この生活は、当時と比べてはるかに脆い基盤の上にあることも、忘れてはならなりません。重要なのは、自然災害に対する正確な知識を事前に持ち、起きつつある現象に対してリアルタイムで情報を得ながら、早めに準備すること。過度の不安に陥るのではなく、『正しく恐れる』ことがポイントです。そのためには『正しい』を前もって持っておくこと。何も起こっていない今こそが大事なのです」

 住んでいる地域や自らの家族構成やライフスタイルによっても、被害状況は変わって来る。だからこそ、個々人が、万が一富士山噴火が起こったに備えて、いまからできる限りのシミュレーションを行っておくこと。それが、自らできる最善の噴火災害対策だと心得たい。

鎌田浩毅(かまた・ひろき) 

1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。現在は京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・京都大学名誉教授。内閣府災害教訓継承分科会委員、気象庁活火山改訂委員、日本火山学会理事、などを歴任。日本地質学会論文賞受賞(1996年)。「京大人気No.1教授」の「科学の伝道師」。著書に『富士山噴火 その時あなたはどうする?』(扶桑社)、『富士山噴火と南海トラフ』『地学ノススメ』(ブルーバックス)、『火山噴火』(岩波新書)、『火山はすごい』(PHP文庫)、『もし富士山が噴火したら』(東洋経済新報社)など。鎌田浩毅のホームページ

―[富士山噴火 その時あなたはどうする?]―

2021/8/17 8:53

この記事のみんなのコメント

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  • 今日じゃん( ゚д゚)ハッ!、でも家から見える富士山は今日もでっかくて異常なし(^o^ゞ、専門家?ちょっと何言ってるかわかんない(-_- )

  • たつき氏の予言が外れることを願うしかない。災害は忘れた頃にやってくる。万年野党が政権与党になったらたつき氏の予言通りになるかもしれない。たつき氏が阪神淡路大震災の予言もしていたのか気になる。

  • たつき氏は野党側が政権を奪還しようと考えているのをどう思うのかなあ?

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