3回目のデートでも進展ゼロ。不審に思った女が、男の”裏の顔”を探ってみたら…
目まぐるしい東京ライフ。
さまざまな経験を積み重ねるうちに、男も女も、頭で考えすぎるクセがついてしまう。
そしていつのまにか、恋する姿勢までもが”こじれて”しまうのだ。
相手の気持ち。自分の気持ち。すべてを難しく考えてしまう、”こじらせたふたり”が恋に落ちたとしたら…?
これは、面倒くさいけれどどこか憎めない、こじらせ男女の物語である。
◆これまでのあらすじ
志保の友人・美玲が、恋人・雅人さんと同棲を始めた。志保が新居に遊びに行くと、そこには雅人さんの友人であるショーンがいた。イケメンハーフのショーンは終始素っ気ない態度だったのだが、翌日、志保の元に一通のLINEが届く…。
▶前回:「この人、何が目的なの?」32歳バツイチ女が突然、初対面の男性から連絡先を聞かれて…
― 天は二物を与える。
ショーンを見て、一番に思ったことだった。ここ東京には、天から何物も与えられた人間が数多く生息している。
ショーンのルックスは私のドストライクだったけれど、客観的に見てもその容姿の良さは群を抜いているはず。
あの面食いの美玲が第一声で「めっちゃイケメン」と教えてくれたぐらいだ。
それに加え、早稲田卒の外コン勤務というステータス。身長もゆうに180cmは超えていた。声もセクシーで魅力的。
”東京の男の魅力”を寄せ集めた、完成形。そんな感じの男性が、ショーンだった。
けれど、妙なことが起きるものだ。
ショーンと出会った翌日、彼からこんなLINEが届いた。
<ショーン:ずっと在宅だと、なかなか切り替え難しいですよね。家もご近所みたいなので、今度息抜きがてらごはんでも行きましょう!>
少々まどろっこしい言い回しだが、私を食事に誘ってくれているらしい。
果たしてこれは社交辞令なのか?それとも、デートの誘いなのか?
彼が何を考えているかわからなかったが、それはこのときだけの話ではなかった。
ショーンの行動はいつも私を混乱させる。私はこの後もずっと、ショーンに振り回され続けることになったのだ。
ショーンから食事の誘いを受けた志保だが、ショーンの行動には疑問点が多く…
麻布十番に住むショーンと、恵比寿に住む私。確かにそう遠くはないものの、正直、ご近所とも言い切れない距離感な気がする。
食事に誘うための口実を、無理やりつくってくれたのだろうか?私のためにそんなことを?
ショーンが何を考えているのか全く分からなかったけれど、誘いを断る理由はなかった。あのご尊顔をもう一度拝みたい。そのモチベーションだけに突き動かされ、私は彼からの誘いを快諾した。
そして、とある水曜日。18:30。
待ち合わせ場所である恵比寿像前を目指して歩いていると、まだ距離は遠いながらも、私を待つショーンの姿が目に入ってきた。
スラっとしたスタイルに、異国情緒あふれるオーラ。マスクをしていても滲み出る色気を隠しきれず、近くを通る女性はみな彼を二度見する。
― こんなカッコいい人と、今からデートするんだ…。
ふと、そんな事実が誇らしくてたまらなくなった。…けれど、同時に少し怖くもなった。
少し脇道に逸れマスクを外し、スマホをインカメにして自分の顔を確認する。
―…大丈夫だよね。メイク崩れてないし、顔もむくんでない。…大丈夫。自分が一番綺麗に見えるメイクも髪型も、完璧にキメてきた。マスクをすれば、美人にみえるはず…。
そしてスマホのカメラをオフにして、美玲とのLINEを見返す。ついつい弱音を吐いてしまったときのやりとりだ。
<美玲:志保、自分が思っている以上に美人だよ?メイクしたら更に別人になるわけだしさ>
<志保:ひどい、元旦那にもいじられてたコンプレックスを!(笑)>
<美玲:ごめんごめん、でも、本当に綺麗だと思うからこうやって言えるんだよ。自信もって>
もともと地味な顔立ちがコンプレックスで、元旦那には「スッピンがブスだ」とずっと言われ続けていた。その事実は、化粧をして綺麗になった状態でも、じわじわと私の自信を蝕む。
ショーンみたいな、圧倒的な造形美を目の前にすると、その負の感情がどうしても蘇ってしまう。
けれど、地味な顔は化粧映えする。きちんとメイクをしていれば、美人だとチヤホヤしてもらえる。
それに、今日はショーンから誘ってくれたデートだ。カメラに映った綺麗な自分と親友からの言葉に勇気づけられ、私はショーンの元へと急いだ。
「ショーンくん、お待たせしました!」
そう言って駆け寄る私に気がついたショーンは、手元のスマホから顔を上げてこちらに笑顔をむける。前回会った時には気が付かなかったが、彼の瞳は、色素の薄い綺麗な色のグレーだった。
「全然待ってないですよ、行きましょうか」
2人きりだから当たり前かもしれないが、ショーンの態度に先日のような素っ気なさはなく、むしろ親しみやすささえ感じる。
「お腹すきましたね」
「予約したイタリアン美味しいんで、楽しみにしててくださいね」
何気ない会話をしながら歩くその時間を、私はすでにとてもかけがえのないもののように感じ始めていた。
志保とショーンが食事に行くのだが、意外と
「志保さんって、お仕事なにしているんでしたっけ?」
「外資系のメーカーでマーケティングやってます!ショーンくんは、コンサルだったよね?」
「うん、僕はコンサル。マーケティングなんてカッコイイな~」
食事中は、敬語を混ぜながら当たり障りのない会話が進んだ。正直、その場がとても盛り上がったというわけではない。
…それなのに、私はどうしようもなく気分が高揚してしまった。彼と一緒にいるだけで楽しくてしょうがなくて、帰りたくないと思ってしまう。
― ショーンは、楽しんでくれているのかな…。もしかして、改めて私の顔を正面からみて、幻滅しちゃったかな…。
彼がどう思っているか掴めないまま、あっという間に20時になってしまった。
「ご馳走になっちゃってすみません、ありがとうございます!」
「いえいえ、僕がお誘いしたので」
もっともっと話がしたい。恋愛の話にも踏み込んでみたい。まだ20時。…なにより、もっと一緒にいたい。
…けれど、そんな思いを口にできるほど、私は素直じゃなかった。面倒くさい女だとも思われたくない。ガッツいているとも思われたくない。
「また行きましょうね」
「はい、是非また」
色んな思いが交錯する中、断腸の思いで絞り出した帰宅を示唆する言葉は、あっさりと受け入れられてしまった。
ショーンは、あまり楽しくなかったということだろうか。
私はとても楽しい時間を過ごしたのに、あっという間に帰らなくてはいけないモヤモヤを抱えながら、帰路についた。
しかし…。
その後もまた、2回もショーンから食事のお誘いがあったのだ。いずれも、水曜日に、18:30に待ち合わせをして、20時までご飯を食べるだけのデート。
毎回楽しいのだけれど、突っ込んだ話をするには時間が足りない。もっと一緒にいたいと言えるような関係値にまで発展せず、モヤモヤとした思いを抱えたまま帰宅する。
食事に誘ってくれるということは、少なからず私に興味はあるのだろう。けれど、恋愛の話には発展したことはない。一応3回もデートしたけれど、付き合うような気配もない。
ついつい、ふとした瞬間にショーンのことを思い出しては、彼が何を考えているか思いを巡らせてしまっている自分がいる。
そんな、ある日のことだった。
◆
「志保、お疲れ」
会社のトイレでメイク直しをしているとき、同僚の真紀子と久々に顔を合わせた。
「真紀子、今日出社してたんだ!」
「うん、ちょっと商品サンプルの整理したくてね~」
基本在宅勤務だから、こうしてたまに出社すると同僚に会えるのが嬉しい。ついつい井戸端会議に花が咲いてしまう。
「…あ、そういえば真紀子って、もともとコンサルからの転職だったよね?」
仕事の話になったとき、ふと彼女がショーンのいる会社から転職してきたことを思い出した。
「そうだよ~。転職してもうすぐ1年かな~」
「そういえば、ショーンくんって知ってる?友達が仲良くてさ、この前飲んだんだよね」
とくに深いことを考えずに、ただお喋りが楽しくなってしまった勢いのまま、そんなことを口走ってしまった。
「あ~、あのハーフのイケメンね!知ってるよ!いっつも六本木か西麻布にいそうな子ね。結構派手に遊んでるみたいだよね~。志保、気を付けて」
「いや、私はそんなんじゃ…」
そこで言葉が詰まってしまった。
「じゃあ私もういくね」と、カラッとした笑顔で真紀子はデスクに戻り、私はメイク直しを続けるふりをしてその場にとどまった。
そして、鏡に映る自分をじっと見つめた。
ショーンの第一印象は確かに、”遊んでいそう”というものだった。でも、3回のデートを経て、それはあくまでイメージに過ぎなかった…と思えていたのに。
第三者の口から聞くと、忘れかけていたよろしくない第一印象は、一気に現実味を帯びてくる。
― やっぱりショーンは遊んでいるんだ。私はキープされている大勢のうちの一人なのかな…。
自分の顔を見つめながら、どんどん気分が沈んでいく。
化粧しても、やっぱり私ってブスなのかな…。全然関係ないところでもどんどん自己肯定感が下がっていく。
抱いていた淡い期待が、ただの妄想に過ぎなかったように思えてきてしまった。
このときは、ショーンが本当は何を考えているのか、全く知らなかったから。
▶前回:「この人、何が目的なの?」32歳バツイチ女が突然、初対面の男性から連絡先を聞かれて…
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ショーンはやはり遊び人?彼が胸の内を明かす…。