【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第4話)

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理想じゃない恋のはじめ方。(第4話)

【これまでのあらすじ】

怪我を理由に自分が企画したプロジェクトから外され、落ち込む汐里。そんな汐里に追い打ちをかけるかのように、上司で元恋人の新実が、社員の前で雪村との婚約を発表する…

なんとか気持ちを切り替えようと頑張る汐里に、雪村から「プロジェクトから高杉さんを外すようにお願いしたのは、私です」と告げられ…

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理想じゃない恋のはじめ方。(第3話)

昔の記憶

出典:https://www.shutterstock.com/

子供の頃から私は、人前で泣くのが苦手だった。

長女だから、お姉ちゃんだから、弟が小さいから、理由は色々あるけども1番大きいのは「負けたくない」だった。

泣いたら負けた気がする。

そんな理由で、強い自分を演じていたのだ。

だけど、唯一私を泣かせるのが上手い子がいた。大和だ。

『しおちゃん、いいこいいこ』

母に叱られて、ふてくされた時も。

『今なら泣いてもいいよ』

部活の試合で負けて悔しかった時も。

『どうして我慢してるの? 泣けばいいのに』

社会人1年目、ミスってばかりの自分に嫌気がさした時も。

辛い時には、いつも傍に大和がいた。

『しおちゃんが悲しいと、俺も悲しい』って、私よりも泣きそうな顔をしている大和が。

ギャップ萌え

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「――――ん……、あれ」

どうやら眠っていたらしい。

ぼんやりとした視界がはっきりしていくにつれ、違和感を覚える。

ここ、私の家じゃない。一体、どこ……。

半分寝ぼけながらも、寝返りを打って驚いた。

「え? 大和!?」

目の前には、スヤスヤと眠る大和の顔がある。

驚きのあまり固まっていると、長い睫毛がピクリと動いた。

「……しおちゃん、もう起きたの」

「起きたよ、起きた! ねぇ、これどういう状況?」

「どういうって、見たまんまだけど」

大和は、んんっ!て、伸びをしながらあくびをする。

それから私の顔を見て、ふにゃっと笑った。

「寝起きのしおちゃん、可愛いね」

「何を言って……」

やめてよ、不覚にもドキッとしちゃったじゃない。

「もしかして、ここって大和の家?」

「そうだよ」

へぇ……。

黒で統一された家具や家電に、お洒落なインテリア。

部屋の奥にある本棚には、分厚くて難しそうな本が並んでいる。

ずいぶんと大人な空間だ。

「ねぇ、私、何も覚えてないんだけど」

「心配しなくても、何もないよ。酔っぱらったしおちゃんを連れて帰って、一緒に寝ただけ」

「酔っぱらったって、私、お酒飲んでないよ」

「うん、稀にノンアルで酔う人もいるからね。錯覚だけど」

まさかぁ、と笑いながらかろうじて残っている記憶を辿る。

頭の中に浮かんだのは、大和の背中に乗っている自分だった。

「大和がここまで運んでくれたの?」

「そうだよ」

「ごめん、重かったよね?」

「そっか、知らないか。俺、大学までロッククライミングをしてたんだ」

「ロッククライミングって、あの、大きな岩とかを登るやつ?」

「うん、そう。人並み以上に鍛えてるから、しおちゃんの体重なんて楽勝」

言われてみれば、背中の筋肉がすごかったかも。

腕もパッと見た感じは細いから分かりづらいけど、血管が浮き出ていて男らしい。

顔はどちらかというと中性的で可愛らしいのに……これぞ、ギャップ萌えってやつ?

「(いやいや、おかしいよ)」

どうして大和相手にドキッとするの。

負けるな、私

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「おはよう、旭日」

月曜日の朝。

会社のエントランスでエレベーターを待つ旭日に声をかけた。

「おはようございます! 先輩、今日元気そうですね」

「そう?」

「なんか良いことあったんですか?」

良いことは……無いかな。

だけど、久しぶりにゆっくり寝て食べて、泣いて愚痴ってスッキリした。

おかげで吹っ切れた。

「引っ越ししたの、会社からはちょっと遠くなったけど良い物件があって」

「へぇ!今度遊びに行っても良いですか?」

「片付いたらね」

新しい家は、完成したばかりの賃貸マンション。

偶然にも大和が住んでるマンションから徒歩5分くらいの距離で、近くに知り合いがいるという安心感もあり即決した。

「片付けなら私が手伝いますよ~」

「旭日はそれより、プロジェクトに集中して」

「あぁ……考えないようにしてたのに、胃が痛くなってきました」

例のプロジェクトは、私の同期が引き継ぐことになった。旭日はその補佐。

頑張ってね、と肩を叩こうとした瞬間、彼女は誰かに会釈をした。

「おはようございます、新実課長」

「おはよう」

吹っ切れたはずの胸が、鈍く痛む。

「おはようございます」

「あぁ」

いつかこの人の顔を見ても、何も感じない自分になれるのかな。

失恋の傷は、自分で思っていたよりも深い。

「旭日、朝イチで会議をするぞ。資料は揃ってるか?」

「すみません、サンプルがまだ……」

新実さんが放つ威圧感に、旭日は身を縮こまらせる。

見ていられず、助け舟を出した。

「サンプルなら備品室にあるよ」

「本当ですか? 行ってきます!」

備品室へ行くには、エレベーターより階段の方が早い。

そちらの方へ向かい走って行く旭日を目で追いながら、「しまった」と思う。

気まずさで、消えてしまいたくなる。

到着したエレベーターに乗り込んだ後も、新実さんがいる右側が見れない。

そうしているうちに上昇するエレベーターから1人、また1人と降り、新実さんと2人きりになった。

「引っ越ししたのか?」

ポツリ呟くように、新実さんが聞いてきた。

「もう関係ないですよね」

「汐里」

久しぶりに聞いたその呼び方に、泣きそうになる。

恋人でいられないなら、心の中に入ってこないでよ。

「そんな風に呼んだら、婚約者が誤解しますよ」

「……」

「プロジェクトから私を外したのは、常務の指示だったんですね。新実課長はそういうのに屈しないタイプだと思ってました。」

声が震える。

だけど、泣き顔なんて見せたくない。

「信じていたのに、がっかりです」

負けるな、私。前を向け!

ときめき……?

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骨折って手術をすれば、すぐに治ると思っていた。

術後は余裕だったリハビリも、だんだん辛くなってきた。

「痛たたたたた、痛いです」

「少し休みましょうか?」

「いえ、続けてください」

この前の理学療法士さんはドSだったけど、今日の人は優しい。

それでも相当な痛みに、さすがの私も涙目になってしまう。

「あ!北崎先生だ」

その時、手術着姿の大和がやって来た。

この総合病院はリハビリテーション室も併設されており、大和は退院した患者の様子を頻繁に見に来ているらしい。

大和の登場に、リハビリを受けている患者たちが一気に色めき立つ。

「先生、見て!膝の可動域がもうこんなに広がったの」

「お~すごいですね! リハビリを頑張っている証拠ですね」

「北崎先生、次こっち!こっちに来て」

「はい、すぐ行きます」

優しくて親切でいつもニコニコしている大和は、この病院ではちょっとした有名人。

わざわざ遠方から通院する患者さんもいるくらいの人気者らしい。

「(そういや昔から、人に好かれるタイプだったなぁ……)」

そんなことを考えていると、大和と目が合った。

だけど、思わず視線を逸らしてしまう。

この前、家に泊めてもらったことを思い出し、若干気まずくなったのだ。

「(大和を意識しちゃうなんて、変なの)」

「そろそろ終わりにしましょうか」

理学療法士さんが時計を見ながら言った。

いつもよりかなり時間が短い。

「もう少しお願いします」

「でも、今日は痛みも強いようですし、あまり無理しない方がいいですよ」

「これくらい平気です」

リハビリをサボれば、サボった分だけ治りが遅くなるような気がする。

だから頑張って痛くても堪えないと……!

1日でも早く仕事に完全復帰できるように。

そう焦りを滲ませていると、

「しおちゃん」

後ろから大和が近づいて来た。

「リハビリはやればやるほど効果があるってわけじゃないよ」

「でも、」

「頑張り過ぎるの禁止だって言ったよね。無理をしたら余計体を痛めるだけ。治らないよ」

「……」

「はい、分かったら今日は終わり!」

強制終了をくらってしまい、そのままリハビリテーション室から出される。

休憩コーナーの椅子に座って待っているよう私に言った大和は、少ししてから戻って来た。

「はい、これあげる」

「何?」

「ご褒美のアイス」

「私は子供か」

「要らないの?」

「何味?」

「しおちゃんが好きなチョコミント味」

「ちょうだい」

いつまで私の好きな味を覚えているのよ。

拗ねて構ってちゃんになってしまったみたいで、気恥ずかしい。

「しおちゃんはさ、十分頑張ってると思うよ」

「……」

「でも、基本的にせっかちだよね」

「知ってる」

「しおちゃんのそういうところすごく尊敬できるけど、同時に心配になるよ」

「大和……」

「だから、時には力を抜いて休んで欲しい。自分にためにも、近くで応援してる人のためにも」

言い聞かせるように、お願いするように。

優しい表情でそう言った大和は、私の唇に付いたアイスを親指で拭い「子供かよ」と笑った。

「……」

やっぱりおかしい。

だから、どうしてドキドキするの。

理想じゃない恋のはじめ方。第4話に続く…

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