子育てのために山を買う。アクアラインの先に東京から一番近い田舎があった

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「山を買う」のは、アウトドアの究極の楽しみ。山は自分だけのキャンプ場として、また週末を過ごす特別な場所として、誰にも邪魔されずに自由に楽しむフィールドとして、幅広い楽しみをもたらしてくれる。そんな山を手に入れた人たちが語る「山のある人生」の喜びとは?

◆都会育ちの家族が決断したのは、房総に「田舎を持つ」ことだった

 東京に生まれ育ち、同じく東京育ちの夫と幸せな家庭を築き、子どもたちとの充実した暮らしを送っていた馬場未織さん。その充実感が微妙に変化し始めたきっかけは、子どもたちの成長だった。

「とくに長男は小さなころから虫や魚とかの生きものが大好きで、ヒマさえあれば図鑑を読んだり絵を描いてました。当然、実物を見たり捕まえたりしたくなるので、それをできるだけかなえてあげたくて。当時は、時間の許す限り子どもと一緒に近所の公園に通ってましたね」

 好奇心の塊のような子どもたちと生きものと触れ合ううちに、子どもの笑顔を見られることのうれしさと同時に、自分自身も幼いころには生きものが大好きだったことを未織さんは思い出す。

「でも、子どもの生きものの知識レベルがグングン上がっていくのに、近所の公園で見られるのはセミとかチョウとかアリだけなんです。かっこいいクワガタとか珍しい植物とかは見られなくて……。公園そのものも人工的な自然なので、子どもにとっては全然つまらない場所だったことを痛感させられました」

◆里山物件を探していたらインターネットに出ていない物件も

 夫婦ともに実家は都内なので夏休みに帰れる田舎もなく、都会で子どもを育てていくことに漠然とした疑問を抱き始めた未織さん。夫とも相談しながら、家族で自然と触れ合いながら暮らせる「もうひとつの拠点」探しをスタートさせた。 最初はインターネットで神奈川県の里山物件を探すものの、そうは簡単に見つからない。そこで不動産屋に直接問い合わせてみると、インターネットには出ていない物件があることがわかってきた。

 それからは毎週末のように不動産屋めぐり。一度は契約寸前まで行った物件もあったものの、先方の都合でキャンセルに。

「それで、当時はまだ通行料が高額だったアクアラインで房総半島に渡ってみようと思って。それが、私たちの新たな暮らしが始まるきっかけでした!」

◆アクアラインを渡ると目からウロコの世界があった!

 未織さんが初めてアクアラインで房総半島に渡ったときの第一印象は、素朴でほっとする風景が色濃く残っていたこと。幹線道路から一歩入るだけで典型的な里山が現れ、南に行けば行くほど海の青さが感動的に美しくなる。まさに、「都心から一番近くて一番深い田舎」だ。

 しかし、田舎物件が比較的多い房総でも、自分たちが思い描いているような物件はなかなか見つからない。もともと未織さんは最初から山を買うつもりはなく、土地の広さが500坪ほどあることが物件探しの第一条件だった。当時は「それぐらい広ければ何でも楽しめそう!」とのイメージだったとか。さらに、周囲に家が少なくて美しい山々や生きものがいっぱいいる川に隣接していること、都心の家からクルマで1時間半程度で通えることなども譲れない条件だった。そんな理想の物件を求めて週末の不動産屋めぐりは続いていたが、ある日、インターネットで目にした8700坪という広大な里山の物件を見に行くことになる。

「南房総の内陸にある物件で、山の中腹あたりに築120年の古民家が立っていました。その家の裏庭からは、美しい田園風景がわーっと広がっていて……。それまで50件近い物件を見てきましたけど、この場所に立った瞬間に心は決まっていた気がします。それほど、この山里を通る風が気持ちよくて本当に感激しました」

◆地域に根差した山を買う責任を自分たちで背負えるのか?

 500坪の土地を探していたなかで、その十倍以上の広大な山を購入する決断をした未織さん。しかし、契約引き渡しが終了するまでには、さまざまな問題を解決する必要があった。なかでも最大の難関だったのが、まさにこの敷地の「広大さ」である。実際、過去に何人かの購入希望者がいたそうだが、広い山の管理や草刈りの重労働などのハードルの高さで折り合いがつかなかったという。

「売主さんの意向として、この土地は一括してすべてを真剣に管理・保全してくれる人だけに使ってほしいとのことでした。たしかに、先祖代々守ってきた山を手渡す相手は心から信頼できる人じゃないと、っていうのは私たち夫婦も共通の理解でした。なので、売主さんにお会いしたときにも、その気持ちが痛いほど伝わってきて……。私もやる気と体力だけは自信があったので、この土地でがんばっていく本気度を懸命にお話しさせていただきました」

 その情熱のおかげで広大な里山を譲り受けることになった未織さんだが、もうひとつのハードルが、この山の地目のなかに「田、畑=農地」が含まれていたこと。基本的に農地の売買は農家だけに認められているため、農地を購入する場合は転用許可を得る必要があるのだ。しかし、未織さんが選んだのは、自分自身が農家になるという方法。これも大きなハードルではあったが、不動産屋や地元の農家、役場の人などが汗をかいてくれて、契約から2年後にようやく農地部分を本登記することができたのだ。

「ここを買えたのは運もありましたけど、やっぱり地元の方々の協力なしでは語れません。いずれにしても、山を買うというのはイコールその地域に根差している人々と生き様を共有すること。そこには当然、地域の一員としての責任が生じますし、それなりの覚悟も必要になってくると思います」

取材・文/西野弘章 撮影/林 紘輝

―[山を買う楽しみ]―


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  • 日刊SPA!

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