美女のワガママに翻弄される男。親友との友情を守るため引き起こす“ある行動”とは

「あのコは、やめた方がいい」

恋人との交際を友人から反対されたら、あなたはどうしますか。

愛する人を、変わらずに信じ続けられますか。

そして、女が隠す“真実”とは…?

これは、愛と真実に葛藤する男の物語。

◆これまでのあらすじ

誠は親友の恋人・真紀に、出来たばかりの彼女・咲良のことを「やめた方がいい」と言われてしまう。誘惑にも似た彼女の懇願ぶりに困惑し、かつて真紀に思いを寄せていた誠は揺れ動く…

▶前回:“親友の婚約者”と“自分の恋人”の確執。男が戦慄した女のエグい世界とは

2019年8月


―『後悔しても、しらないから』

目黒の行きつけのビストロで会食した夜、真紀が囁いた言葉。以来、誠はその言葉が頭から離れなかった。

というより、彼女の囁きが、ぬるい吐息の心地よさが、誠の心をとらえて離さない。気がつけば、真紀のことばかり考えている自分がいる。

― 咲良がいながら、僕はなんてことを…。

真紀のことが頭に浮かぶたびに、自己嫌悪に陥ってしまう。彼女の単なるワガママに、翻弄される自分が情けなかった。

常識的に考えて、自分の意志も感情も、すべて結論は「真紀の頼みには応じない」の一択なのに、こんなにも心が揺らぐなんて。

― やっぱり最近、浮かれすぎているのかな…。

誠は今までの人生で、周囲に年頃の女性がいることがほぼなかったのだ。

大学の頃は地方の工学系学部だけあって、コンビニの店員さんか学食のスタッフさんくらいしか女性と接する機会はなかった。今も日常的に接するのは男ばかりだ。

― それが今や、2人の女性に…。

誠は頭に浮かんだ途端、すぐにかき消した。

― 別に、真紀さんは僕に言い寄っているわけじゃない…はず。

とは言いながらも、あんな態度を取られたら勘違いしても仕方がない。

彼女のことをぐるぐる考えていたら、会社のパソコンの前でじっとしたまま午前が過ぎてしてしまった。誠は案件に余裕のある時期でよかったと心から安堵する。

気持ちを切り替えんとばかりに、昼休憩でロッカーへ行きスマホを確認する。

だが、届いていたLINEのメッセージが、誠をさらに悩ませるのだった。

誠のスマホに届いていたメッセージとは…

『昨日、何かあった?真紀がもう誠に会いたくないって言ってるけど』

圭一から届いていたLINE。何て返せばいいのか…悩んだ挙句、誠はとぼけることにする。

『何もないよ。もし、気がつかずに怒らせることしていたら謝っておいて』

『そっか。お前はたまにそういうところがあるからなー』

圭一は近々仲直りの会を開いてくれると提案してくれた。誠は遠慮したが、真紀に「会いたくない」と言われていたことは正直ショックだった。

彼女の言っていた“後悔してもしらない”の意味が、“今後の縁を切る”ならば、まんまとその思惑に乗って落胆している自分が悔しい。

― でも、ずっとこの調子が続くなら、彼女が言うようにもう縁を切った方がいいのかもしれないな…。

そうすれば、誰にも翻弄されずに咲良と交際を続けることができる。

圭一とも会う機会が減るだろうが、もう30を超えた大人だ。いつまでも学生気分でつるんでばかりはいられないのだ。


そう決心したものの―

3日後には圭一の行きつけのビストロに呼び出され、彼と夕食をとっている自分がいた。

「同期会、お前また行かないのかよ」

「ああ。圭一と会っていれば十分だよ」

というのもふたりのもとに、中高を過ごした学校の同期会が開かれるという知らせがあったのだ。同期会は約5年ごとに開かれているが、誠は何かと理由をつけて行ったことはなかった。

「幹事から言われているんだよ。『仲がいいなら連れて来い』って。今年は大々的にやりたいんだってさ」

「いや…。僕はそういうの苦手なんだ」

「なに言ってんだよ。同じ青春を過ごした奴らだろ」

圭一は肩を組み、ためらう誠を励ますように身体を揺らす。そして、顔を覗き込み、探るように言った。

「…まさか、松尾のことか?」

うっすら気づいていたのだろうか。いきなり核心を突く問いに、誠はただ黙ることしかできなかった。

「だよな。でも前回、松尾は来ていなかったから、きっと今回も…」

「きっと、じゃ行かないよ。アイツの名前を聞くだけで吐き気がするんだ」

『松尾純哉』―

その名前を聞くだけで、蘇える嫌な思い出。この傷は誠のなかで、一生消えないものであろう。

中学生ながら少々悪い連中とも通じていた、妙に威圧感があったその男。聞けば、建設業において一代で財を成した社長の息子なのだという。

誠は中学一年生の頃、彼に壮絶なイジメを受けていたのだ。

今も心に傷が残る、誠の中学時代の思い出とは…?

命の恩人・圭一


小・中・高の男子一貫校で中学から外部生として入学し、成績は優秀だがおとなしく地味だった誠。素行の悪い松尾は教師から目の敵にされており、誠は彼らのような連中の恰好のターゲットであった。

教科書や私物を捨てられることはもちろん、倉庫に長時間閉じこめられたり、ひどいことを強要させられたりしたのだ。

しかし、ある休み時間のこと。

「ばかじゃねえの」

圭一は誠に絡んでいる松尾たちに言い放った。

「なぁ誠。そんな奴とおかしな遊びしてるより、こっちきて勉強教えてくれない?数学、得意なんだろ」

そんな言葉から始まった、20年近い友情。


ほとんどのクラスメイトがいじめを見て見ぬふりをするなか、圭一は誠に手を差し伸べてくれた。

彼はクラスのリーダー的存在で、親は日本を代表する企業の重役。皆から一目置かれていたので、その後いじめの標的が圭一に移ることはなかった。

つまり、圭一が誠を守るような形でいじめは自然に終息していったのだ。

― あのとき、圭一がいなければ、僕は今この世にいなかったかもしれないな。

彼は恩人だ。そしてもちろん親友で、すべてにおいて尊敬できる師匠のような存在でもある。だからこそ、裏切られない。

彼の婚約者に惹かれるなど、言語道断のことなのだ。

「いいか?悪いのは圧倒的に相手なんだよ」

圭一のその強い言葉で、誠は中学時代の回想から引き戻された。

「相手が、悪い?」

「そう。だから、堂々としていればいいんだよ。悩んでいる時間が無駄。お前が肩身の狭い思いをしたり気を使うなんておかしいと思うぞ」

誠実な言葉が、誠に響く。同期会の出席をためらう誠に、なんとかして前向きな言葉をかけてやろうという意志がひしひしと伝わってくる。

「…そうだな。考えてみるよ」

誠は静かにつぶやいた。まだためらいはあるが、自分にここまでの言葉をかけてくれる圭一を喜ばせたかった。

「でも、こういっちゃなんだけど、無理せずに」

最後にそんなフォローするのも、彼のいいところだ。若いながら依頼の絶えない弁護士であることも頷ける。

― こんなにイイ奴が、婚約者なのに…。

満足げな表情でグラスを傾ける圭一の横顔を見ながら、真紀に対しふつふつと怒りがわき上がってきた。

そして思うのだ。真紀は圭一に相応しくないのではないか、と。

最高の恋人がいながら、その親友に思わせぶりな態度をとり、一度しか会ってない人物の人間性を気まぐれで闇雲に否定する女。確かに、美しく上品で地位もあり誰もがうらやむ存在ではあるが…。

誠は決心した。圭一に、伝えてあげようと思った。それが、親友のつとめであり、彼が今まで自分を助けてくれたことに対する恩返しなのだ。

その一言で、友情にひびが入る可能性もある。しかし、圭一のためならそれでもかまわない。

“彼女はやめておけ”

と。


▶前回:“親友の婚約者”と“自分の恋人”の確執。男が戦慄した女のエグい世界とは

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誠は圭一に真紀の人間性が危ういことを忠告しようとするが…?

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