「楽だから、カップ付きキャミばかり」ブラをすることが面倒になっていた女。気がついた時には…
ステイホームの時間が増えたいま、 東京にいる男女の生活は大きく変わった。
その中でも華やかな生活を送っていたインスタグラマーたちが、こぞって夢中になったのが「#おうち美容」。
外からも内からも自分と向き合い「美ごもり」生活を送った人々には、いったいどんな変化があったのだろうか?
1つのアイテムが、人生を変えることもある。
東京で「#美ごもり」生活を送る人々の姿を、覗いてみよう。
今回は自分を諦めていた女・葵(40)の話。
▶前回:これってワガママ?「結婚がしたい。でも子どもはいらない…」女友達には言えない、独身女の本音
恋もブラも面倒くさくなっていた女・葵(40)
「暇だなぁ…」
日曜13時。
窓から見えるのは、雲ひとつない快晴。真っ青な空と太陽のコントラストからして、今日も真夏日であることが外に出なくてもよくわかる。
キンキンに冷房が効いた部屋でぼうっと見ているテレビからは、バドミントンの試合中継が流れている。
そういえば昔読んだ漫画で「東京での開会式が行われるときに、このまま独身だったらどうしよう」というシーンがあったことを思い出す。
「あれ?でも結局私、開会式をひとりで見たのか……」
2021年、夏。こんなはずじゃなかった。
昨年まで、夫がいた。だが去年の年末に離婚が成立。私はまた、ひとりになってしまった。
「でも新しい恋も面倒くさいしなぁ」
今さら好きだの恋だの、面倒だ。誰か一緒にいてくれれば嬉しいけれど、好きになれる人もいないし、いいなと思った人の横には大概誰かがいる。
「好きな人ってどうやって作るんだっけ…」
自分でもわかっている。でも大好きだった夫と離婚してから、新しい恋に踏み出す力がないのだ。
誰もいない部屋に、虚しく実況中継だけが響き渡った。
恋することが面倒で、諦めている女。そんな“諦め女”から脱却するには
『葵、今夜うちで飲まない?』
暑くてダラダラしていると、夕方に友人の優香から連絡が入った。優香は私より3歳上だが、同じバツイチ仲間で独身仲間でもある。
だが優香の場合、私とは違って常に誰かに恋をしていた。
「でね、ダニエルがさぁ〜」
優香の部屋に着くなり、彼氏の愚痴が始まった。ちなみにダニエルとは、現在、彼女が交際している彼氏のことだ。
「優香は、ダニエルと結婚したいとは思わないの?」
「思わないかなぁ。もう結婚はいいや」
元々優香は、外資系投資銀行に勤める超リッチな男性と結婚していた。だが5年前に離婚し、財産をガッポリもらったおかげなのか、今はひとりで悠々自適に暮らしている。
“アラフォー離婚あるある”なのかわからないが、元夫が日本人だったので、次は絶対に海外の人と交際すると決めていたようだ。
「ってか、葵は?最近どうなの?」
「最近って知ってるでしょ?予定といえば、優香とこうして会うくらいだよ」
周りの子は既婚者が多く、子持ちも多い。
そういう子たちとは時間も予定も合わないし、離婚後に会いたくない気持ちもあった。
「葵、そんなこと言ってると干からびるよ?ところで、今日の下着ってどんなの着けてる?」
「へ?下着?」
何を着けているのか思い出せない。…というか、ここ最近は暑いせいで、カップ付きキャミソールばかりだ。
「今日はカップ付きのキャミだから、ブラはつけてないよ」
「うっそ、信じられない!!!」
まるでこの世のものとは思えないかのごとく、大げさに優香は驚いている。
「好きな人の前で脱ぐとき、どうするの?」
「いやいや。見せる相手もいないし、何より楽だし…」
最後に男の人の前で脱いだのは、いつになるだろうか。思い出せないくらいかなり昔のことだ。
出て行った旦那とはほとんどレスだったし、離婚後、新しい男に抱かれてもいない(その前に、彼氏さえできていないのだが…)。
しかも暑さを理由に、最近はカップ付きキャミばかり着ていた。これが楽すぎて、慣れるとブラを着けるのが面倒になってしまった。
「葵…。自分のこと、もっと大事にしなよ。元夫のことなんて早く忘れてさ」
優香の言葉が、グサグサ刺さる。
別れた夫・春樹のことが本当に好きだった。だが結婚生活3年目で、ある日突然、夫から離婚を切り出された。
理由は、未だによくわかっていない。ただ「結婚してから、葵が変わったから」と言われたことが、まだ引っかかっている。
「ダニエルと一緒にいるとね、私も女になれるんだぁ♡」
優香の惚気を聞きながら「私の何が悪かったのだろうか」と、もう一度考える。でもやっぱり、答えは見つからなかった。
夫が家を出て行ったのはナゼ?女が見失っていたこと
翌日。クローゼットを整理しながら、ブラを取り出してみた。
いつから私は、カップ付きキャミに逃げていたのだろう。
ここ最近ステイホームで家にいることも増え、外に出ない日はほぼ100%と言っていいくらい、下着を着けていなかった。
寝るときだって、もちろんブラを着けずに寝ている。
たまに「これだと胸が垂れてしまうかな」と一応気にしてブラを着けたとしても、ヨガのときに使うスポブラ程度だった。
「あれ?私って、いつからこんな面倒くさがりになったんだろう」
思えば、春樹と出会ったとき。私は女磨きに勤しんでいた。デート前はネイルやマツエクに行って、メンテナンスを怠ることはなかったから。
誰かのために着飾ることや、オシャレに気を使うことが、本当に楽しかった。
けれども結婚して余裕が生まれたのか、それとも気が緩んだのか。
料理の邪魔になるからネイルもやめたし、マツエクもやめた。それだけでなく、家にいるときの部屋着も適当だったことを思い出す。
カップ付きキャミに、ヨレヨレのTシャツ。そしていつからはいているか覚えていないくらい、長く愛用しているストレッチパンツ。
「待って。私、女子力皆無だったんじゃ…」
ステイホーム中にメイクをした記憶はない。愛する夫の前でも油断して、ずっと眼鏡でダラダラ過ごしていた。
「そりゃ幻滅するわ…」
慌てて、手に持っているブラを着けてみた。
すると少し垂れていた胸が、ツンと上向きになる。そして背中から寄せ集めたお肉もあって、久しぶりに自分の胸がふっくらとした。
全身鏡に映った自分を見ながら、フゥっと息を吐いた。
久しぶりに自分の体をちゃんと見た気がする。こうして見ると、案外悪くはない。
もう少し筋トレとかも頑張ったら、意外にいい感じだ。
人生、諦めたら終わり。
しぼんだと思って諦めていた胸だって、ちゃんとブラを着けて正しい位置に戻してあげれば、それなりに上を向くのだ。
恋愛だって、面倒だと思って逃げていた。なぜなら、また傷つきたくなかったから。
「もう一度、向き合ってみようかな…」
楽な道に逃げるのは、やめた。“面倒”という言葉も封印しよう。
これからは少しだけ背筋を伸ばして、誰かと出会える準備をしていけたらいい。そこには、自然と上を向いた自分がいた。
▶前回:これってワガママ?「結婚がしたい。でも子どもはいらない…」女友達には言えない、独身女の本音
▶NEXT:8月17日 火曜更新予定
ガサガサな女