4度の転職でキャリアが台無しに…。有能なバリキャリ帰国子女が知らずのうちにハメられた罠

キャリアが欲しい。名声を得たい。今よりもっとレベルアップしたい。

尽きることのない欲望は、競争の激しい外資系企業のオンナたちに必要不可欠なもの。

しかし、ひとつ扱いを間違えると身を滅ぼしかねないのも、また欲望の持つ一面なのだ。

貪欲に高みを目指す、ハイスペックな外資系オンナたち。

その強さと、身を灼くほどの上昇志向を、あなたは今日目撃する──

▶前回:「男の人と付き合うと、いつも…」才色兼備なハイスペ女子が、絶対に半年以内で別れてしまう理由とは

File4. 梨乃(34)外資系化粧品会社 広報部本部長 「誰よりも稼ぎたい、上に行きたい」上昇志向の塊の帰国子女が追い求めるキャリアとは


オフィスで資料作成に集中していると、ふいに背後から肩を叩かれた。

振り返ると、そこには仲のいい同僚の姿。申し訳なさそうな顔で頼まれたのは、いつものクライアントアポへの同行のお願いだった。

「来てくれると助かる〜。梨乃って、外国人とのコミュニケーションスキルが異様に高いんだもん!」

― はぁ、またか…今月で3回目じゃない。

梨乃は笑顔で承諾しながらも、内心ほんの少しうんざりしながら思う。

― でも、仕方ないわ。こういう案件を私よりもこなせる人、誰もいないしね。

大学こそ国内の上智大学だが、父親が総合商社に勤務していた都合で、梨乃は小学校~高校までをUSやUKで過ごしている。

幼少期を欧米で過ごすことで手に入れた武器は、何といっても日本人離れした外国人とのコミュニケーション能力。就職活動でその武器を存分に生かし、給与水準の高い外資系企業ばかりを受けた梨乃は、今こうして、外資系ITベンダーで活躍する毎日を送っているのだった。



そんな梨乃には、揺るぎない価値観があった。

― 年収も社会的地位も誰よりも高みに行くためには、下手に我慢する時間はないわ。私に相応しい条件とポジションを与えてくれる環境を選ぶのが近道よ。

思春期を海外の恵まれた環境で過ごし、「我慢は美徳」とする日本人の価値観とは無縁で育った梨乃は、何か我慢できない要素が出てくるとすぐに新しい環境に移るようになっていた。

ITベンダーの後は、証券、メーカー、金融…。外資系という点を除いては業界も職種もバラバラだったが、得意の英語力とコミュニケーション能力で、梨乃は外資の条件のよいポジションを勝ち得ていく。

そんな梨乃が頼りにしているのは、ある転職エージェントの瀬高だった。

辣腕エージェントのおかげで高年収を得た梨乃が、次に求めるものは…

「梨乃さんには、今のポジションでは勿体ないです。こちらの企業なら今までの経験を生かしながら、新たなスキルを得ることができますよ」

「こちらの企業では、現在より上の役職をご用意いただけるとのことです。先方もぜひお会いしたいと言っています」

ハイクラスのホテルのラウンジで、転職エージェントの瀬高はいつもこんな歯が浮くような台詞とともに、定期的に転職案件を持ってくる。

梨乃より少し年上だが、端正なルックスに、スマートなスーツの着こなし。そんな瀬高とのやりとりは、梨乃にとっては一種の楽しみですらあった。

そして何より、瀬高が用意する転職案件はその台詞に違わず、実際にどれも条件が良かった。常に上を目指す梨乃にとって、もはや瀬高はなくてはならない右腕のような存在になっていたのだ。

現在、梨乃が勤務する外資系化粧品メーカーも、瀬高の紹介で昨年入社した5社目の会社だ。

役職は広報部本部長。提示された条件は年収1,800万円。

― 私もついにここまできた。ここで成果を出せば来年には2,000万円の大台に乗るかも!

今までで最も高い年収・役職に、梨乃はとても満足していた。



しかし、そんな梨乃に思いもよらぬ転機が訪れた。

昨年からのコロナの影響で、会社を問わず大打撃を受けた化粧品業界。

梨乃の勤務する会社も例外ではなく、冷え込む日本市場の状況からグローバルは日本撤退を検討しているという噂が社内で出てきていたのだ。

― この会社、もう長くないわ。会社自体は存続できたとしても、私の給与がいつまで保証されるかわからない。こんな環境にはさっさと見切りをつけて、早く次のステージにいかないと、上には行けないわ…。

「瀬高さん、お世話になっております。早速なのですが、また次のステージを探そうかと…」

会社の状況を察した梨乃は、さっそく瀬高にメールを書き始める。

次の転職先を探すことは、梨乃にとってはごく当たり前の行動だった。


「瀬高さん、ご無沙汰しております」

久しぶりに会った瀬高は、相変わらずの端正な容姿とセンスのよいスーツを身につけていた。

東京ステーションホテルの『ロビーラウンジ』での面会。

正直に言ってタイプである瀬高と、こうして高級ホテルの優雅なラウンジで過ごすだけでも、梨乃の気持ちは高揚してしまう。

「瀬高さん。メールでご連絡した通り、転職を考えておりまして…」

給仕が運んできたコーヒーを手に、梨乃は切り出した。

― 今回も、私にピッタリの転職案件を瀬高さんは持ってきてくれるはず。今日だって、すでに応募要項を見繕ってきてくれているに違いないわ。

そう思って疑いもしなかった梨乃だったが…。

しかし、瀬高からの回答は、予想に反するものだった。

「なるほど。そうですか…。では、こちらのような案件はいかがでしょうか」

今までであれば、瀬高はどんなときでも喜んで様々な案件を持ってきてくれていた。それなのになぜか今日は、案件の数も少なく、どれも条件が悪い。

「瀬高さん、これだけでしょうか…他に、私に合うような案件はないですか?」

梨乃の問いに、瀬高はしばらく黙り込む。

そして、困惑の表情を浮かべながら言葉を続けたのだった。

昇りつめた梨乃に用意された、次のステージとは

昇りつめた梨乃に向けられた、瀬高の驚くべき一言


瀬高の言葉は、梨乃の予想に反するものだった。

「梨乃さん、お力が及ばず大変申し訳ございません。現時点では、私どもが梨乃さんにご紹介できる案件がございません。

梨乃さんは、もう私たちが紹介できるようなポジションではない、手の届かない高みに行かれてしまったのです」

そう言ったきり、瀬高はすっかり押し黙ってしまった。

なすすべもない梨乃は、戸惑うような気持ちでどうにか瀬高に言い残す。

「そ、そうですか。もしいい案件が見つかったらご連絡ください…」

― あの瀬高さんが、案件を用意できないなんて…

瀬高から期待した回答がもらえず、肩透かしにあった気持ちの梨乃。

面談後、神谷町の自宅へ帰るなら普段はタクシーに乗るところだが、少し夜風にあたりたくなった。

「愛美に話聞いてもらうかな…」

東京駅から皇居周辺に向かい歩きながら考えるうちに、スマホを手にした梨乃は、友人の愛美にLINEを打ち始めるのだった。


翌週の土曜日、梨乃と愛美が訪れたのは、『イル ギオットーネ』のランチだった。

「愛美!今日は忙しいのに来てくれてありがとう。久しぶりに会えて嬉しい!」

愛美は、瀬高とは別の転職エージェントに勤務している。仕事とプライベートは分けたかった梨乃は、これまで愛美に転職相談をしたことはなかったが、瀬高からも思うような紹介がない今、思い切って愛美に相談することしたのだ。

「私、今まで外資系企業を渡り歩いて今の化粧品会社に来たけど…。ほら、いまって日本の市場が冷え込んでいるから、日本撤退もありそうなの。
先が見えない会社だから転職を考えているんだけど、今までのお世話になったエージェントさんに相談しても、やっぱりいまの時期はあまりいい案件なさそうで…」

自らの状況を詳らかに話す梨乃に、愛美はこう尋ねた。

「そうなの…。ところで梨乃、そのエージェントさんには今まで何社くらい紹介してもらっていたの?」

愛美の質問の意図も考えないまま、梨乃はあっけらかんと答える。

「4社よ。新卒で入った会社から転職する時にお願いして以来、相談する度に転職先を紹介してくれていた人なの。今まで業界や職種は色々だったけど、必ず年収が上がるような案件を紹介してくれていたわ。

でも、今回は『高みに行かれてしまった』なんて言われちゃって、紹介する案件がないみたいで…」

梨乃と話していくうちに、愛美の顔がみるみるうちに曇っていく。

そして、ややあって愛美はこう口を開いた。

「あのさ、言いにくいんだけど…。その転職エージェントの人は、聞こえのいい言葉で梨乃を誘って、都合の良い金づるにしていただけよ」

「え……?」

思わぬ愛美の言葉に、梨乃は言葉が出ない。

「梨乃。転職エージェントって企業から紹介フィーをもらう商売で、そのフィーは候補者の年収で決まるって知っているよね?でもね、転職での年収なんて、よほど1つの業界や職種で功績を上げない限り、どこかで止まるのよ。

梨乃の一貫性のないキャリアなら、市場価値から見てもはっきり言って今でも給料もらいすぎよ」

「そうなの……?」

転職エージェントのビジネスモデルは、もちろん理解している。だが、まさか自分が瀬高のいいカモにされているなんて思いもよらなかった。

梨乃の目をしっかりと見ながら、愛美はさらに続けた。

「そのエージェントの人、高いところまで梨乃の年収を引き上げた挙句に、梨乃の身動きを取れなくしただけ。私から見れば、梨乃はその人に利用されたのよ」

梨乃はやっと気が付いた。

瀬高の誘い文句をいいことに、自分は「キャリアアップ」ではなく「給与アップ」していただけに過ぎなかったことを。

まともにキャリアを積むことなく、一貫性のない経歴を積み重ねた挙句、今ではもはや行く先がなくなってしまっていることを…。

食事後に置かれたカプチーノの口当たりが、いつもより重く、苦く感じる。

「私、これからどうしたらいいの…?」

こう問う梨乃に、愛美は哀れみの目で見つめながら言った

「少しは謙虚になって、自分で考えたらどうなの。『キャリアアップ』してきたんでしょ?」

― 私の積み重ねてきたキャリアって、一体何だったのかしら…

愛美の言葉に、梨乃は何も言い返すことができなかった。


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