エリートからお金を取り返せ!痛快アルゼンチンコメディ『明日に向かって笑え!』あらすじ&解説

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2001年の金融危機を題材に、市井の人々の現金強奪劇をコミカルに描いた本国アルゼンチンのヒット作『明日に向かって笑え!』。その面白さをお国柄や社会事情を絡めて解説します。また最後に、おすすめのアルゼンチン映画もご紹介しています。

『明日に向かって笑え!』あらすじ

明日に向かって笑え!

明日に向かって笑え!

2019年/アルゼンチン/116分

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町おこしのために共同出資をして穀物倉庫を買い取り、農協を立ち上げようと住民たちからお金を集めたフェルミンとその仲間たち。
フェルミンが融資を受けるため銀行に相談に行くと、担当者から「出資金を預金すれば融資が受けやすくなる」と半ば強引に説得され、みんなから集めた貴重なお金を銀行に預けてしまう。
しかしその翌日、金融危機によって預金が凍結され、彼らの計画はすべて無に帰してしまう。
また、時を同じくしてフェルミンは交通事故を起こして最愛の妻を亡くし、失意のどん底に……。

一年後、ある情報からフェルミンに預金を勧めた担当の銀行員が自分たちのお金をだまし取るため預金させたと知ったフェルミンと住民たち。やがてそのお金をエリート弁護士が地下金庫に隠し持っていることが判明し、彼らは「自分たちのお金を取り戻そう!」と一致団結する。
フェルミンの息子ロドリゴも計画に加わり、奇想天外な現金強奪計画がはじまった!

アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『瞳の奥の秘密』の脚本家エドゥアルド・サチェリが脚本を担当し、主演のリカルド・ダリンと再タッグを組んだ本作。
リカルド・ダリン演じるフェルミンの、息子ロドリゴ役に実際にも息子であるチノ・ダリン(『永遠に僕のもの』)が演じて父子共演としても話題に。ゴヤ賞スペイン語外国映画賞、その他数々の映画祭でも絶賛されました。

即席ド素人「オーシャンズ」!?庶民たちの痛快現金強奪劇

本国アルゼンチンでは2019年の動員No1を記録する大ヒットとなった本作。Rotten Tomatoesでも94%の高評価を受け、「小さな町の人々によるアルゼンチン版”オーシャンズ11”誕生(VARIETY)」と言われる通り、寂れた田舎町の普通のおじさんおばさんたちが起死回生のリベンジに打って出る痛快劇です。

本作で描かれるのは、2001年に実際に起きた通貨危機。当時は不況の悪化や極端なインフレが貧困を加速させ、多くの失業者を生み出しました。
実はアルゼンチンは1816年にスペインから独立して以来債務不履行(デフォルト)を8度も繰り返しており、コロナ禍の2020年にも政府が国債の利回りを見送り、事実上9度目の債務不履行(デフォルト)を経験しました。

そんな庶民を苦しめる状況が続く一方、一部のずるがしこいエリートがあくどい手段で私腹を肥やしていたとしたら……。そんな庶民の不信や憤りを掬い上げ、見事な逆転劇に仕上げた点が、本国で支持された理由だと思います。

今なお国を二分する「ペロニスタ」とは?

また、興味深いのは作中「ペロン」や「ペロニスタ」という言葉が度々登場する点。
これは労働者層から絶大の支持を得た大統領、フアン・ドミンゴ・ペロン(1946年、1952年、1973年と3回当選)のことで、彼の政策を支持する人々を「ペロニスタ(ペロン主義者)」と呼びます。彼らを支持母体とする「正義党(ペロン党)」はいまなお強い影響力を持っています。

ペロン大統領は熱狂的に支持された一方、ポピュリズム的な政策に反発する層もあり、ある意味国家を二分するような存在でもあります。とはいえこういった話題が映画に登場するということは、家族や友人たちの集まる席で気軽に政治の話ができるお国柄でもあると言えます。
政治に関心のある国民性、ということもありますが、それも経済的に不安定だったことが一因としてあるのかもしれませんね。

ちなみに、ペロンの妻であるエヴァ・ペロンの激動の人生はアンドリュー・ロイド・ウェバーによってミュージカル化され、歌手のマドンナ主演で映画化もされています。

エビータ

エビータ

1996年/アメリカ/135分

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お国柄に触れるアルゼンチン映画3選

ラテンアメリカに位置していながら、他の南米諸国とは違う雰囲気のあるアルゼンチン。

1800年代に西欧化、人口の白人化が公式に掲げられ大規模な移民政策がすすめられたことで、現在も白人系の割合が80%を占めています(他のラテンアメリカの国々では先住民と白人の混血である「メスティーソ」が多数派を占める)。

ヨーロッパにルーツを持つと自認している国民も多く、映画でもいわゆる「ラテンのノリ」はあまり感じません。むしろちょっときついブラックな笑いを好む傾向があるように思えます。
これも、度重なる経済危機を乗り越えてきた胆力の表れなのかもしれません。

人生スイッチ

人生スイッチ

人生スイッチ

2014年/アルゼンチン スペイン/122分

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スペインの名匠ペドロ・アルモドバルプロデュースの5編のオムニバス映画。同じ飛行機に乗り合わせた人たちの意外な共通点とは……「おかえし」、些細な悪態がエスカレートし煽り運転スパイラルに発展していく「パンク」、息子が車で人身事故を起こし、その尻ぬぐいをする富豪を描く「愚息」など、市井の人々の憤りややるせなさを見つめる、ブラックユーモアに溢れた良作。

こちらも『明日に向かって笑え!』同様、アルゼンチンでその年のNo1となった作品。娘の誕生日に路上駐車で車をレッカー移動された男の怒りの解決を描いた「ヒーローになるために」ではリカルド・ダリンが主演しています。

今夜、列車は走る

今夜、列車は走る

今夜、列車は走る

2004年/アルゼンチン/110分

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1990年代、国鉄民営化によってリストラされた失業者たちにスポットを当てたヒューマンドラマ。
絶望の末命を絶つ者、抵抗を試みる者、早々と転職する者、犯罪に走る者……。職を失い誇りを失った者たちへの温かな視線が胸を打ちます。

そんな親たちを見ていた子ども世代が取るある行動に涙が止まりません。「列車が走る」ということの尊さと重みを、ひしひしと感じる傑作です。

ルイーサ

ルイーサ

ルイーサ

2008年/アルゼンチン スペイン/110分

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愛猫が死に、悲観に暮れる還暦女性のルイーサ。しかし同時期に仕事を解雇され、猫を埋葬するためのお金もない。手元に残ったわずか20ペソ(約500円)を握りしめ地下鉄にやって来たルイーサは、そこで出会った物乞いの真似をしはじめるが……。

アルゼンチンでは昔から経済格差が広がっており、ルイーサのように夫と娘に先立たれなんの後ろ盾もない高齢の女性の場合は特に大変そう。社会保障も決して手厚いとはいえず、監督もそれを踏まえた上でこの作品を作ったそうです。
ルイーサの状況はかなり深刻でシリアスですが、アルゼンチン映画らしいブラックユーモアが満載で思わずくすっと笑ってしまうところも。どこかあっけらかんとした雰囲気もあり、最後はどこかすがすがしい一作。

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