廃墟化が進む「迷惑大仏」の末路。全国に点在、まるで時限爆弾

 所有者不在で長年放置されてきた淡路島の大観音。崩落の恐れから多額の税金を投入して撤去されることとなった。だが、「迷惑大仏」はこれにとどまらない……。全国に点在する負の遺産の行く末を模索する。

◆「ヨソの人がやったことだから……」

「土地の人は、ああいうのは相手にしません。ヨソの人がやったことだから……」

 静岡県伊東市宇佐美は、熱海と伊東の間にある海沿いの温暖な観光地。駅前の喫茶店で店を切り盛りする初老の女性に観光名所の一つ、うさみ大観音の話を聞くと、眉をひそめてそう吐き捨てた。

 観音は、うさみ観音寺が建てられた’82年に造立された。峠道を上った山腹に位置する観音像は、町のどこからでも視界に入ってくる。寺のHPには「高さが50mの座像で、日本一の大観音様」とあるが、店の常連らしき2人組の60代の婦人が話に入ってきて否定する。

「50m? あるわけないでしょ。牛久大仏みたいに立派なら行こうかなっていう人もいるけど、あれじゃあオモチャだもん」

「あそこは水子供養の地蔵を一体30万円だかで売って儲けてた。前は花火を上げたり派手な法要もやってたけど、十数年前に住職が亡くなってね。息子がやるって言ってたけど、あまり姿を見かけない」

◆否定的な地元民

 近くの土産物屋や定食屋でも聞いたが「知らないうちにできちゃった」「愛着も敬う気持ちもない」と、地元の人たちは一様に否定的だ。

 寺に向かうと駐車場には船の形をしたレストランの廃屋があり、山門は閉まっていた。外から様子をうかがうと、3万体ともいわれる無数の水子供養の地蔵と観音を従えた大観音像が鎮座している。高さはせいぜい15mといったところ。訪れる人もおらず、地蔵には線香も供花もなく、境内は世の無常に支配されていた……。

◆解体工事と再建のメド

 全国にはランドマークとして人々から愛される巨大仏もあるが、うさみ大観音のように廃墟化が進む「迷惑大仏」も少なくない。その多くはバブル期前後に客寄せとして造られたものだ。

 不動産業で財をなした男性が、淡路島に観光施設として80mの世界平和大観音像を建てたのは’82年のこと。当初は物珍しさから観光客を集めたが、徐々に人気は薄れていく。

 所有者の男性が’88年に死亡し、営業を引き継いだ妻も亡くなると、遺族は相続を放棄。この間に老朽化が進み、近隣に破片が落ちてくるなど崩落の危険が高まったため、所有権を得た財務省近畿財務局によって、8億8000万円もの税金を投入した解体工事が今年6月に始まっている。

 ’18年4月に福岡県の飯塚市の山腹から沖縄市の東南植物楽園へ移設された琉球金宮観音菩薩像は、同年9月の台風24号で根元から倒壊。翌年の再建を目指すと報道されたが、問い合わせた園の担当者は「再建のメドは立っていませんので、現時点でお答えできることはありません……」と、あまり触れてほしくない様子だった。

◆耐用年数を迎えつつあるバブル期建立の「迷惑大仏」

 観音を含む大仏は全国に500体を数え、40mを超える巨大仏が15体含まれる。巨大仏は鉄筋コンクリート造の高層ビルのような構造で、定期的な点検・補修が必須だが、当然コストはバカにならない。久留米大観音は30年ぶりの色直し中で、費用は2億円。新たな試みとして、クラウドファンディングで支援金が集められた。

 建築エコノミストの森山高至氏はバブル期に建てられた巨大仏が耐用年数に達していると話す。

「表面仕上げの劣化が一番の問題。ビルも10年ごとに補修を繰り返さなければ、ヒビや剥がれが生じます。淡路の大観音はモルタル仕上げで、木造モルタルアパートの壁面と同等の表面保護力しかない。放っておくと劣化は内部まで進行して、30年ともちません」

 奈良の大仏のように銅板で覆った牛久大仏は例外で、ビル以上の耐久性が期待できるという。

「牛久大仏を施工した川田工業は耐久性が求められる橋梁建築で有名で、ロボットまで作るハイテク企業ですから、よく考えられています。銅は腐食に強く、『鋼の錬金術師』のアルフォンスみたいに中身が空洞のため軽量です。しかし、全国には長期の耐久性を考慮せず、勢いで作ったとしか思えないものも多い。奈良時代の人たちのほうがよほど先を見据えていたのでは」

 空き家問題と同様、大仏問題は全国各地で時限爆弾のように破裂する可能性を孕んでいる。

◆「積極的放置」も必要な時代になった

 そもそも、「迷惑大仏」は将来のリスクを考慮せずに建てられたのか。内閣府地域活性化伝道師も務める地方創生のスペシャリスト・木下斉氏が解説する。

「バブル期に公共施設やインフラを造るとき、先々までの維持管理を考えることは一切ありませんでした。公共施設ですら『一生もつものじゃなく、維持費、更新費が必要』と認識されたのは’00年頃ぐらいからで、ごく最近のこと。『迷惑大仏』は民間人が造ったとしても自治体が開発許可を出したから建っています。建設需要などで短期的には潤う人たちもいて、地域の話題作りにいいことだと。『メンテナンス? そんなもの後々考えりゃいい』という考えです」

 そのツケが今、全国各地で噴出しており、今回、税金を投入して取り壊すことになった淡路島の「迷惑観音」のケースは、その最たるものだろう。

「全国の空き家だけでもすでに846万戸に上り、学校は年によっては年間約500校が廃校になります。これらの取り壊しをきめ細やかに税金でやろうとすれば、未来に向けて使える予算が減っていく。このトレードオフ(二律背反)は考えなければいけません。利活用の道を考えつつ、当面の危険性がない『迷惑大仏』などは、周囲を立ち入り禁止にして『積極的放置』も必要になってきます」

◆廃墟を増やさないために

 ただ、皮肉なことに地方自治体は、自ら廃墟を増やし続けているのが現状のようだ。

「日本人は明治以降人口拡大の社会で生きてきたので、何でもどんどん作るのが正義だと思い込んでいます。その証拠に、大仏処理に悩むような町ですら、空き家が毎年大量に生まれているのに、自治体は脈略なく新たな土地に新築住宅開発や施設開発の許可を出しており、将来の廃墟を今も作り続けている。過去の施設の廃墟化への対策だけでなく、少なくともこれから廃墟を増やさないように、町の総容積での開発調整など工夫すべきでしょう」

 廃墟対策は待ったなしだ。

【建築エコノミスト・森山高至】

一級建築士。建築設計事務所を運営し、建築と経済に関するコンサルタントのかたわら、サブカルチャーにも造詣が深い

【まちビジネス事業家・木下 斉】

町づくりの政策立案をするエリア・イノベーション・アライアンス代表。内閣官房地域活性化伝道師。近著に『まちづくり幻想』など

取材・文/池田 潮 写真/時事通信社 PIXTA

2021/8/5 8:53

この記事のみんなのコメント

3
  • 金願譲受←を生む大仏なら最初から固定資産でガッツリ取れなきゃダメだね😶

  • トリトン

    8/6 18:14

    沖縄の絶滅種の牛か鹿か忘れたけど滅びに任せてるよね。所詮そんなものやね。この仏像文化遺産にならないかな。政府に要請できないかな?東京にオリンピックに予定より何倍も膨れ上がった金出すならこちらの方がその一部でも出してまらえないかな?

  • エッコ

    8/6 17:48

    客寄せパンダみたいに現代人が金儲けの為だったり、後先考えずに造るとこうなるよね。カジノも安易に日本に作って欲しくない物の一つ。税金なんて絶対投入して欲しくない。

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