五輪スケボー金・四十住さくら。すべての空き時間をスケートボードに捧げて

 8月4日、東京オリンピックのスケートボード女子パークで19歳の四十住(よそずみ)さくらが金メダルを獲得した。

 日刊SPA!では昨年、大会の開催に先立ち、「2020 TOKYOに輝く女神たち」と題した企画で四十住にインタビューを行っていた。彼女がオリンピックという大舞台でも最高の結果を生み出せた理由とは。真の“強み”とは、いったい何だったのか——。

◆四十住さくら(スケートボード・パーク女子代表)

 スケートボードというと、子どものころ、近所のお兄さんと遊んだ記憶がある人が多いかもしれない。そんなきっかけから、スケートボードの虜になったのが四十住さくら。13歳年上の兄が、友人とスケートボードで遊び始めたのを見て、「お兄ちゃん子」だった四十住は、「私もやる!」とはじめた。

 それが11歳の時のこと。それから6年のうちに、スケートボードが東京オリンピックの正式種目となり、四十住がメダル候補として注目されるようになるとは、誰が想像できただろうか。お兄ちゃんたちのように「うまくなりたい」と練習をしていた四十住は、気づけばとびきり上達していた。

 カリフォルニアで生まれたスケートボードは、欧米などの都市部で発達した比較的新しいスポーツだ。日本の和歌山で暮らす四十住の家の近所に、それを楽しむための施設であるボードパークはない。四十住の両親は当初、進境著しい娘の才能を認めながら、どこまで頑張るのかを尋ねたという。

「家族会議になりました。(ボード)パークも近くにないし、お金もかかるから、本気で日本一とかを目指す気でやるんなら応援するけど、遊びでやるんやったら応援できないって言われたから、私は日本一を目指して頑張りたいって答えたんです」

 頑張ることが何でもないように、四十住は柔らかな和歌山弁で言う。

「でも(両親は)『本気で頑張るとはこういうことだ』って、私に思い知らせて諦めさせたかったみたい。それで、スパルタな練習メニューを紙に書いて渡されたので、それを毎日こなしてました」

 そうしたら、もっと上達しちゃったとばかりに、四十住はいたずらっぽい笑顔で続ける。

「いろいろ課題が出たけど、私がそれを全部クリアしちゃうので、家族にも私の本気度が伝わったみたい」

 娘の才能と本気度を確かめた両親と兄は、それからは全面的にバックアップすることを決断。自宅の庭に特設のコースを建設し、四十住のさらなるレベルアップを支えた。

◆スケートボード一筋で練習の虫。「息抜きもスケートボード」

 オリンピックで行われるスケートボード種目は2つ。平地に障害物を置いたコースで滑るのが「ストリート」で、さまざまな皿や椀状の形が組み合わさったコースで滑るのが「パーク」。四十住は、後者「パーク」の選手で、こちらはスノーボードのハーフパイプのように、窪地の底を駆け上がり、空中で華やかなエアトリックをきめるのが見どころだ。採点基準は、いずれも難易度や完成度、スピードやオリジナリティに全体の流れなどが数値化される。

 四十住が習得しているのは、基礎的な技も含めると100種類は超えるという。高難度の技はこれらの組み合わせからなる。競技として高得点を叩き出すには、確かな基礎からなる高難度の技を美しくきめることが不可欠。技の探求と完成は一筋縄ではなく、例えば、まだ世界で数人しか出来ないという「バックサイドノーズブラント180アウト」という大技は、習得に2年近くかかったという。

 彼女の強さの源は、その練習量とスケートボードへの情熱だ。今、高校生になった四十住は、自宅の特設コースを“卒業”し、日々、神戸にあるボードパークでその技を磨く。スケートボードの練習時間をつくるため、過密スケジュールとなる。

「朝6時に起きて、7時の電車に乗って、8時すぎに学校に到着。午後3時すぎに授業が終わって、お母さんが車で迎えにきてくれて、そこから2時間くらいで神戸のパークに着く。そこで夕方5時すぎから夜10時半ぐらいまで練習します」

 毎日、片道2時間かけて神戸に通い、5時間みっちりと練習をするのだ。週末となれば、もっと長い時間をパークでの練習に費やすという。息抜きはと尋ねると、「YouTubeでスケートボードの動画を見ることですね」。すべての空き時間をスケートボードに捧げ、それ以外に熱中するものがない、と断言する。

 それでいて、しゃにむに躍起になっている雰囲気は微塵もない。スケートボード一色で“頑張っている”にもかかわらず、軽やかで自然体なのだ。ただ、スケートボードが面白くて仕方がないというのが伝わってくる。

 だから、趣味も特技もスケートボード。なんとか強いて何か他に好きなことはと尋ねると、「折り紙で何か作るのは好き」とはにかんだ。大会の遠征で外国人選手との会話も弾むのだという。

 今やその実力から注目度はうなぎ上りで、昨年末は紅白歌合戦に出場するなど、テレビ出演も少なくない。だが、テレビを見る時間もほとんどないため、有名な芸能人もあまり知らない。紅白で共演したKis-My-Ft2も会うまで知らなかった。

◆「大会では緊張しません」

 2018年には、日本選手権、アジア大会、世界選手権で優勝。日本、アジア、世界とステップアップが目に見えるかたちで結果を出し、大きな飛躍を遂げた年となったが、本人はそのことが転機とも思っていない風に言う。

「今まで練習したことを出せたから、勝てたんだと思います」

「最大のライバルは自分です。周りは関係ない。その時その時で、自分がベストを出せるかどうか」

 その大会での自分がどうだったかという尺度でしか振り返らない。四十住のモットーは、「今日を全開に」。それは大会がどんな位置づけのものでも変わらない。だから、余計なプレッシャーもかかってこない。とんでもない強みかもしれない。

「大会でも、まったく緊張しません。もちろん集中はしますけど、あまり集中しすぎてもダメで、こうやって喋ってるぐらいの感覚で滑るほうが、うまく行きます」

 スランプに陥ったこともないという。「うまく行かないなぁという時はありますけど、そういう時は調子の良い技の完成度をあげていきます。大会だと、一度その場所で乗れば感覚がつかめるので、メイクができるなってわかったら、後は流したり、距離感をつかんだりして、微調整していきます」

◆「周りの子どもたちにスケートボードを教えるのが大好き」

 インタビュー中、多くの質問で淡白な答えが返ってきたが、最も答えるのが難しいと思われる「自身の感覚」については、とても饒舌になった。それは、四十住に「子ども好きのお姉さん」という一面があることにも由来するようだ。

 当時はまだあどけなさが残る17歳だったが、「周りの子どもたちにスケートボードを教えるのが大好き」と少し大人びた表情で微笑む。実際、子どもたちからの人気は絶大といい、教える子どもは、一番小さいと6歳ぐらいなのだそうだ。

「小さい子に理解してもらうのは難しいので、どうやって伝えたら理解してもらえるかなって考えながら話すのが楽しいんです。私の言ったことをその子が理解してくれて、それで技ができるようになったら、その子も笑顔になるし、私も嬉しいですね

 それに、技を子どもに教えると気づきがある。自分がわかっていて教えるのがうまくできないって時は、自分もその技を部分的にあんまり理解していなかったんだなって」

 最後にどんな選手になりたいのか聞いてみた。

「まだ今のことしか考えたことがないんですけど、将来は同じ夢を持った子どもたちを応援していきたいなと思っています」

 スケートボードで活躍する四十住が、モットーのまま「今日を全開に」過ごしていけば、その道はおのずと開けるに違いない。

●プロフィール

よそずみさくら ’02年3月15日、和歌山県生まれ。11歳でスケートボードを始めると、18年には日本選手権、アジア大会、世界選手権の3大会で優勝し、いずれも「初代女王」に。最高峰のVANSプロツアーシリーズでは、19年に中国大会とアメリカ大会で優勝した。159cm、52kg

取材・文/松山ようこ

―[東京2020オリンピック]―

2021/8/4 16:18

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