コロナ禍で退去相次ぐ美大生向けアパート。大家がとったテコ入れ策は”壁画”

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◆オンライン授業で退去続出



 対面授業がなくなった大学を学生が損害賠償請求するなど、コロナ禍でキャンパスライフは大きく変わった。その変化の余波を受けているのが賃貸物件のオーナーだ。八王子市の多摩美術大学付近でアパート経営をする、はなぶん(ハンドルネーム)氏はコロナによる影響をこう語る。

「1度目の緊急事態宣言以降、4室ほど退去が発生しました。退去理由を聞くとやはり地方から上京した子がオンライン授業に移行したことで実家に戻る選択をしていたんです」

物件の前面道路は大学へ向かう通学路となっているが、以前と比べると通る学生の姿もまばらな状況だ。そこではなぶん氏は一計を案じることに。

「美大生を応援する意味で外壁にウォールペイントを実施することにしました。当初は学生から公募でデザインを募集するコンテスト形式のイベントを考えましたが、人が集まっての作業は企画しづらく断念。その時にInstagramで見つけたあるクリエイターの作品に感動して、DMでお願いしてみました」

◆壁画家が語る、コロナ禍のアーティスト活動

 はなぶん氏の依頼を快諾したのが壁画家のKensuke Takahashi氏(以下、高橋氏)だ。独学で絵画を学び、トラックドライバーから転身したという異色の経歴の持ち主。ミューラルアート(壁画)の分野で高く評価されており、行政の庁舎の壁画なども手掛けている。そんな高橋氏もまた、コロナでアーティスト活動に制限を受けたという。

「コロナ前は1枚の絵を4時間で仕上げる『ライブペイント』を飲食店でやる機会があったのですが、舞台となる飲食店が休業状態で仕事は減りました。イベントでコラボすることが多かったDJやミュージシャンたちも大変な状況です。極めつけは海外のミューラルフェスに呼ばれていたのがコロナで白紙に。悲願の海外進出だったのですが……。持続化給付金や芸術文化支援金はとても助かりました」

◆屋外で黙々と作業するため感染リスクが低い

 仕事が激減する中で残ったのが壁画だったという。

「屋外で黙々と作業するので感染リスクがありません。今は美術館にも気軽に行けない時代なので、散歩がてら誰でも気軽にアートに触れられる壁画の存在は貴重だと思っています」

 今回の制作にあたってコンセプトをこう説明する。

「様々な地域から出てきた一人暮らしの学生への応援と刺激になればと考え、地図を広げ見つめる少女と、進むべき方向を見つめるトラがメインにくる構図にしました。若い頃は色々と悩んだり迷ったりしがちですが、『それでも進むことが大事だよ』というメッセージを込めて描きました」

◆壁画ならではの魅力は「人との交流」

 高橋氏は「制作過程が衆人に公開される壁画ならではの魅力がある」と口にする。

「ミューラルアートは依頼者の物であると同時に、みんなのものでもあると思ってます。今回、美大の通学路ということで、足を止めて見学する学生や、バイクから降りて見入る人がいたり、差し入れを頂いたりもしました。道行く人から『ここにアートを残してくれてありがとう』と感謝されるのも壁画ならでは。アトリエに籠もっていたらできない経験です。その地域に住むクリエイターと思わぬ交流が生まれたりするので、やっていてとても楽しいですね」

 制作日数10日をかけて完成した壁画の完成度に、依頼者のはなぶん氏も満足気だ。

「美大は実習も多いのでコロナが終われば学生も戻ってくるでしょう。そのときに地域のアイコン的な建物となってくれたらと思ってます。漫画家の聖地”トキワ荘”のように、入居者の学生から世界に羽ばたくクリエイターが誕生したら嬉しいですね。今回素晴らしいウォールアートを施してくれた高橋氏が、今後海外でも活躍できるよう応援していきたいです」

◆若い人は芸術家になる夢を諦めないで欲しい

 最後に高橋氏に今後の活動について聞いてみた。

「コロナで白紙になった海外進出を今度こそ実現したいですね。色々な意味で日本とはスケールが違うので、活動の幅が広がると思ってます。自分もまだまだの人間なので、美大生や若手クリエイターは応援の対象でもありライバル・刺激を受ける存在でもあります。今は大変な時代ですが、若い人は芸術家になる夢を諦めないで欲しい。大学で学んでない自分でも27歳から絵で食っていけてるのは、諦めずに続けたからなので」

 人生の貴重な時間であるキャンパスライフをコロナ禍でフイにしていると感じでいる人も多いだろう。夢を断念する学生が増えないことを願うばかりだ。

Kensuke Takahashi
横浜出身在住のペインター/壁画家。確かな描写力・緻密なテクニック・現実を飛び越える自由な発想力で、大型壁画を中心に飲食店舗内壁画、企業や行政へのアートワーク提供やライブペインティング出演等活動の幅を多岐に広げている。近年は大型の壁画として川崎市役所本庁舎・JR横浜駅エキナカ・マカオ等にて制作。神奈川県啓発事業・横浜開港祭2019/2021へアートワーク提供等幅広く活動中
Instagram(@kensuketakahashi1977.art)

取材・文/栗林篤


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