「世の中を変えちゃうかもしれないね」SNSの影響力に26歳OLが震えたワケ

美人か、そうでないか。

女の人生は“顔面偏差値”に大きく左右される。

…それなら、美しく生まれなかった場合は、一体どうすればよいのだろう。

来世に期待して、美人と比べられながら損する人生を送るしかないのか。

そこに、理不尽だらけの境遇に首をかしげる、ひとりの平凡な容姿の女がいた。

女は次第に「美人より、絶対に幸せになってやる!」と闘志を燃やしていく。

◆これまでのあらすじ

広告代理店で営業として働く園子は、得意先の三木谷に連れられて旬の女優・五十嵐ハルヤと出会う。

彼女は特徴的な顔立ちのせいで“個性派”と評価されることに、窮屈さを感じていると園子に打ち明ける…

▶前回:「“中身で勝負”って言葉、嫌いなのよ」初対面の女が26歳OLに語る本音の意味とは


「ハルヤさん、待って!」

撮影スタジオに戻るハルヤの後ろ姿に向かって、園子は思わず声をかけた。

「ん?」

「あの…私、ハルヤさんとやってみたい仕事を思いついたんです。だから、三木谷さんに提案してみようと思います」

園子が言うと、ハルヤはニコリと笑った。

「お!なんだろうな。楽しみに待ってます」

笑顔のまま頷き、颯爽と去っていくハルヤの姿を、園子は高ぶる気持ちで見つめた。

ハルヤと「見た目」について持論を繰り広げたなかで思ったのだ。これは、三木谷がくれた次のキャンペーンのヒントなのだ、と。

彼女はどんな役を演じても“個性派”と評価されることに、思うところがあるようだ。

女優・五十嵐ハルヤは、容姿によって世間から一方的なイメージを決めつけられている。いま彼女は、このイメージに合わせて演じていかなければならない。

それを聞いて、自分と通じるものがあると園子は感じたのだ。

― ハルヤを起用したキャンペーンを、やってみたい。

園子はスタジオに連れてきてくれた三木谷にお礼を言ってから、頭の中にある案が消えていってしまわないよう急いで帰路についた。

アイデアは消えるどころかどんどん大きく膨らみ、頭は今にもパンクしそうなほど熱くなっている。

ハルヤと出会い、行動する園子。その結果は…

企画のことを考えていたら、あっという間に家のある神楽坂に到着していた。

園子は息を切らしながら自分の部屋に入り、いても立ってもいられず急いでパソコンを開く。

キーボードを打つ手が、止まらない。

これまで提案書作りには毎回かなりの時間がかかっていた。それに、既視感のあるキャンペーンばかり考えていたのだ。

でも、今回は違う。

― 本当にやりたいことがある!

いつもより断然早く提案書のたたき台が出来上がった。この企画が実現できたらどんなにすごいだろうと、園子はドキドキしながら布団に潜り込んだ。


2週間後。得意先の会議室へと入る前に、園子は小さく息を吐いて気持ちを整える。

入室してから三木谷の正面にある椅子に座り、テーブルの上に分厚い提案書を差し出した。

ハルヤと出会ってから、じっくり時間をかけて作った提案書。園子のアイデアをもとに、社内のクリエイターと協働して仕上げたこの提案書は、過去一番の自信作だ。

「本日、お持ちした企画は…」

少し震える声で話し始めた園子。いつもと違う雰囲気を察知した三木谷は、いつになく真剣な表情を浮かべた。

園子が作り上げた企画は、ウェブのドラマCM。

新商品のプロモーションとしてハルヤを起用し「五十嵐ハルヤ」自身として出演する。ハルヤにいつも付きまとう“個性派女優”のレッテルを剥ぎ取り、ありのままの1人の女性としてカメラの前に立ってもらうのだ。

個性の強い脇役というポジションで需要のあるハルヤは、これまで演じてきた役で必ず奇抜な服装に派手なメイクを施していた。

今回、そんなハルヤのイメージを化粧品メーカーが刷新するということが、世の中に対して大きなメッセージになると考えたのだ。

「メインメッセージは、こちらです」

提案書のページをめくった先には、大きく一言だけ書かれていた。

“見た目なんかに人生決めさせない”

この企画を考えているとき、園子は中高時代にいつものメンバーで過ごした日々を思い返していた。

“さえない女子”の仲良し4人組は、教室の隅っこでガヤガヤ騒いでふざけあうしかなかったのだ。

私たちがいわゆる“一軍の女子”と仲良くなる唯一の術は「笑い」だった。実際は、恋愛の話をしおらしくすることなんて到底できない。

それが、私たちに貼られたレッテルだったから。

貼られたレッテルのままの人間を演じれば、生きやすい。周囲からすんなり受け入れてもらえるから。そうやって、本当の自分をないがしろにすることに、園子は慣れきっていた。

― でも私は、レッテルだらけの窮屈な世界をゆっくりでいいから変えたい。みんながもっと自分らしく生きられるように。

ハルヤと出会ったあの日。彼女が明かしてくれた本音が、園子の頭に響く。

『実は私ね、“個性派”って言われるの嫌いなの。ただ演技しているだけなのに、この顔だから“個性派”ってなるわけでしょ?本当は、ヒロイン役もやりたいのに世間が認めてくれないの』

訴えかけるような目でプレゼンを続ける園子に、三木谷は静かに深く頷く。

そして、彼はゆっくりと口を開いた。

渾身の提案に、三木谷の反応は…

「こういう企画を待ってたんだよ」

三木谷の微笑みが、張り詰めた空気を和ませる。

そして三木谷は「さっそくだけど…」と、企画を実現させるための具体的な話を始める。こんなに前向きな彼の姿を見るのは、園子にとって初めてのことだった。


3ヶ月後。園子は想像もつかない光景を目の当たりにする。

自分の企画が、ツイッターやネットニュースに取り上げられ賛否両論を巻き起こしているのだ。キャンペーン用に立ち上げたSNSアカウントにドラマCMをアップしてから、反響の嵐で通知が止まらない。

『五十嵐ハルヤがフツーの格好するなんて。誰にも需要ないよ』

そんな声も多く上がった一方で、見た目で報われない思いをしている大多数の層からは共感の声が集まった。ネット上の反響をスクリーンショットでスマホにおさめながら、園子はニヤニヤする。

自分の頭にある、世の中に訴えたいことが本当に形となった。しかも、これだけ多くの反応があり、様々な立場の人からコメントが投稿されている。

― この仕事、なんて楽しいんだろう!

そのとき、スマホにハルヤからの着信があった。

「もしもし、山科です」

「あ、園子さん?キャンペーン、すごい反響だね」

ハルヤのもとにも様々な声が届いているようだった。

「一部では叩かれてるみたいだけどね。それも含めて、今回のキャンペーンを一緒にやれて本当に良かったわ」

カラッと晴れやかな様子で笑ったハルヤは、こう続けた。

「園子さん、世の中をちょっと変えちゃうかもしれないね」

その言葉の響きに、心臓がドキっと跳ねる。

― こんなにすごいことが、私にもできるんだ!

キャンペーンで盛り上がるSNSを見ていると、見た目のせいで受けた不遇の過去が報われるような気がした。

こうして、1つ大きな実績ができた園子は、周囲からの視線が確実に変化したことを感じたのだ。

「山科さん、いい仕事したね!」

先輩たちに声をかけられることもあり、以前のようにあからさまな愚痴を言う人は誰もいなくなった。

園子が得意先に信頼され始めたことが、社内でも知れ渡ったのだ。以前よりずっとイキイキ仕事をしているその姿を、皆ひそかに注目していた。

― なんか私、絶好調じゃん!

ルンルンとした気持ちで、次の企画のために動き出す。

しかしそんな折、ある一報が園子の耳に届くのだった。


▶前回:「“中身で勝負”って言葉、嫌いなのよ」初対面の女が26歳OLに語る本音の意味とは

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園子の耳に届いた“ある一報”とは?

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